46話 結局、いつも苦労するのは ”縁の下の力持ち” なのです・・・
石で作られた障害物に左肩を前に出し突っ込み、粉々に粉砕するマティオン。
「この程度の小細工で、このマティオンは止められん」
誰にも邪魔されずにノーランの敵が討てる!!
マティオンは、この機会を与えてくれた神に感謝せずにはいられなかった。
「これは神の思し召しだ!!覚悟しろ!!」
相手が何をしようがお構いなしで突っ込む。
”たとえ相打ちになっても構いはしない”と、
マティオンは決死の覚悟で標的を目掛けていく。
標的の男がこちらの動きに合わせて指先を動かしているのは、
何か攻撃を仕掛けてくる準備であると察した。
「俺の覚悟を舐めるな!!」
マティオンはその攻撃を受ける前提で、走りながら歯を食いしばる。
待ち望んだ相手が近くに居る、ただそれだけがマティオンを突き動かす。
もう少し、もう少しであいつに手が届く。
そんな想いで駆けるマティオン。
「待て!! マティオン」
その声と共に森側から男が飛び出し、マティオンの前に立ちはだかる。
だが、マティオンはその男に向かって勢い任せに長剣を振り下ろす。
金属と金属がぶつかり合う激しい音が辺りに響く。
男は大剣でマティオンの渾身の一撃を受け止める。
「なぜ邪魔をする!!ティキン」
「マティオン。冷静になっ、ぐはぁぁぁぁぁーーー」
何かを伝えようとしたティキンが絶叫する。
その瞬間、マティオンにも全身に鋭い痛みが走り抜ける。
「ぐぅぅ、一体、何が、起きた・・・」
痛みを堪え、膝を突かぬように踏み止まるが、
ティキンは糸の切れた人形の様にマティオンにもたれ掛かってくる。
マティオンは倒れるティキンを支えながら標的の男を睨みつけると、
男が指を差したまま、ぼーっとしていた。
その気の抜けた行動がマティオンを ”取るに足らぬ相手” と侮っている、
そう感じさせた。マティオンは強い怒りを募らせ、標的の男に向かって叫ぶ。
「この卑怯者がぁ!!」
その叫び声に反応してか、男が何か挙動不審な動きをしている。
直ぐにでも飛び掛かりたい衝動に駆られるマティオンであったが、
ティキンを捨て置くのは危険、そう判断出来る程度の理性を取り戻していた。
両者は共に相手の出方を伺い、次の一手を模索する。
だが、この時マティオンに好機が訪れる。
「いいか。こちらを見るなよマティオン」
ティキンは小声でマティオンに話し掛ける。
その呼びかけにマティオンは、ティキンを支える左手でこっそりと肩を一回叩く。
「殺さずに捕らえるでいいな?」
再度、ティキンの肩を叩き合図を送る。
「よし。お前は右側、俺は左側。一斉に掛かるぞ」
マティオンとティキンは呼吸を合わせる。
互いの呼吸を感じながら集中力を高めていく。
「いくぞっ!!」
ティキンの号令と共に二人は走り出す。
突然の二人の強襲に慌てる標的の男。
左右からの同時攻撃にその場から動けなくなる標的の男を見て、
マティオンとティキンは確信した、「これならいける」と。
最後の一歩を踏み込んだティキンは、標的を攻撃範囲内に捉えた。
左側後方に構えた大剣を、後は前方に振り抜けば良いだけだった。
だが、当然標的の男が黙ってそれを許すはずが無かった。
男は左右の手を開き、手首を付けて前に突き出すと突如突風が吹き荒れる。
強風がティキンに向かって吹き、大剣ごとその場から吹き飛ばす。
マティオンも向かい風の中、一歩も進めなくなり膝を突く。
吹き荒れる風は砂を巻き上げ、その場に居る者の全ての視界を奪った。
ティキンも地面に大剣を突き立て立ち上がるが、
その場から動く事が出来なくなっていた。
結局、二人は強風が収まるのをただじっと待つしかなく、
風が収まり視界が開けた時には、標的の男は忽然と姿を消していた。
マティオンは悔しさのあまり長剣を地面に投げつけ、
この理不尽な仕打ちを天に向かって神に問う。
「あぁ神よ。何故、私にこの様な試練をお与えになるのか!!」
怒り狂うマティオンとは対照的にティキンは至って冷静だった。
「あの男・・・」
ティキンは今の戦いについて、相手の出方に疑問が残る。
一度は魔法で攻撃はしてきたものの、
それからは全く直接的な攻撃をしてこなかった。
警戒したから?もしくは魔法でしか攻撃が出来ないからなのか・・・
俺が動けなくなった時、その絶好の機会を見逃したのも釈然としない。
そもそも殺気どころか、戦う意思すら感じない。
「まさか、あいつは襲撃とは別の勢力なのでは・・・」
だが私がそう考えたとて、マティオンは納得すまい。
あの男と接触する機会があれば、どうにか出来るかもしれないな。
「マティオン。此度の件はアーク様に報告をする」
長剣を拾ったマティオンはティキンの呼びかけに返事もせず、
ただ茫然と歩いて行った。




