14話 最悪と言える余裕があるなら、まだ最悪からは程遠い・・・
自分でお願いをしたとはいえ、異世界に飛ばされてしまった威流。
元の世界への帰還方法も分からず、強制的に仕事が休みになるこの状況をどうするつもりなのか。
落ち着けー、落ち着けー、一旦落ち着けー。
取り敢えず状況の整理をした方が良い気がする。
そもそも、一般的に無断欠勤って何日やったらクビになるんだ?
なんとなくだけど、3日か4日くらいでアウトな気がするが・・・
つまり、その短い期間内に元の世界に帰ればいいって話だろ。
それって、RPGで言うと、レベル1縛り、宿屋無し、寄り道無し、雑魚は逃走、
宝箱ガン無視のRTAを、初見のノーミスとか変態プレイ過ぎる。
違う、その上で更に未知の帰還方法を探さないといけない。
そんな無茶をしようとしたら、すぐ天に召されてしまう。
よし、無茶をすべきなのか、結果のパターンを考えてみよう。
数日以内に帰還方法が見つかり、無事に帰れたら、”ハッピー無断欠勤”。
ちょっと時間は掛ったが、無事に帰れたら、”ラッキー無職”。
数年掛けて、やっと帰ってこれたは、”やっぱり捜索願い”。
結局、帰れる方法が見つかりませんでしたは、”どんまい現地人”。
この世界で天に召されたら、”可哀そうに無縁仏”。
なに、このマルチエンド。誰がこんな酷いシナリオ作ったの?
トゥルーエンドの無断欠勤から、バッドエンドの無縁仏って振り幅が大きすぎる。
こうなってくると懲戒解雇は思ってたよりも軽いし、
逆に生存していても帰れないなら、場合によっては死ぬよりも重たいかもしれん。
このマルチエンドから導き出される行動方針は、
”冷静且つ慎重に行動し、いくら時間が掛かってもいいから帰還方法を見つける”が最善だと思う。
時間的な制限が無くなり、落ち着きを見せる威流。
「そうなると、次はライフラインの確保だな」
「まずは水だが・・・流石に池の水を飲むのは危険極まりない」
取り敢えず辺りを見回してみると、ふと気になる事があった。
「俺が起きた場所の平な石。角とか縁が不自然過ぎないか?」
不思議に思い、その場所へ近づいてみる。
その石の高さは威流の膝より少し上くらいであり、
横幅と立幅も大柄な人が横になって寝るのに充分な広さがあった。
石の角や縁を手で触れてみるが、その滑らかさは自然の力で削られたというよりは、何かしらの意図を持って削ったと思える程の丸みを帯びていた。
とはいえ、所々欠けており、凝った装飾とかも無いので、
たまたまそうなったと結論付けた。
「よし、これに草とか敷いておけば寝床になるな。
それよりも、あそこの石柱はなんだ」
この寝床から数歩のところに、人工的に造られたとおぼしき石柱があった。
近づいた威流は驚愕した。
「この石柱の上にある窪みから水が湧き出ている」
水が湧き出る石柱。ただ、もっと驚いたのは、石柱の上に木で作られた器が置いてあったことだ。
木の器の中には落ち葉が溜まり、長らく使われていないことを表していた。
威流はこの器を手に取り、落ち葉を払い、器の中から裏側までくまなく見る。
すると器の端に一部、露骨に変色している個所が確認出来た。
「この器、使っていた形跡がある。ここで誰かが生活をしていたのか?」
不自然さのある寝床、人造と思われる水の湧く石柱、そして使われた木の器。
誰もいなかったと思い込もうとしても、流石に無理がある。
ただ、その誰かが人間なのか。
はたまた、物語で聞く様な亜人と呼ばれる様な者なのかは分からない。
どちらであろうと、友好的であるという保証も無い。
警戒は怠らない方がいいだろう。
安心安全をモットーに行動することを決めた矢先に、
不意に現れた自分以外の存在に、不安を覚える威流であった。




