12話 ちがうちがう、そうでは、そうでは無い・・・
水の流れる音が聞こえる・・・
蛇口を閉め忘れたかな・・・
虫の鳴き声も聞こえる・・・
コオロギかな、鈴虫かな・・・
もうそんな季節か・・・
・・・・・・虫?
威流はパッと目を開ける。
眼前に広がる光景は、自宅のダイニングのそれでは無かった。
また、身体には冷たく硬いなにかの上に横たわっている感覚が伝わってくる。
「夢・・・なのか?」
身体を起こし、辺りを見渡す。
鬱蒼と生い茂る草の間には見たことも無い形をした花が咲き、
水面が七色に輝く池の上には、色取り取りの発光した蛍の様な何かが浮遊している。
樹齢100年はゆうに越えていそうな太い幹をした樹木が辺りを囲み、
木々の間から零れる月の光と輝く水面が、この世のものとは思えぬ幻想的な風景を作り出していた。
「まあ、なんでもいいや。ここは静かでいいところだ」
虫の音が静寂に響く中、池に沿ってゆっくりと歩き出す威流。
チャプンと水の跳ねる音。
「もしかして、池の中に魚とかいるのか?」
音の聞こえた方を探してみると、そこには1匹の真っ白な魚が悠然と泳いでいた。
「やっぱり魚がいた」
水族館や動物園が好きな威流は、眼前の魚の姿にはしゃいでいた。
「この魚、真っ白。左側の目の下に1つだけちょっと大きい赤い鱗があるな」
しかし、よく見てみると何か違和感がある。
「何だか白というか? うーん、なんだろう?」
水面に顔を近づけて、魚をよく観察してみる威流。
その時、雲が月明りを遮り、辺りは暗闇に包まれる。
だが、池の水面は変わらず七色の輝きを放っていた。
「この魚、光ってる」
小さな池ではあるが、その全体に届く程の光を放つ。
この不思議な生き物に興味をそそられていく。
「そうか。鱗が透明で、内臓が光ってるから白く見えるのか」
月を隠す雲が流れていくと、発光する魚もただの白い魚へと戻っていった。
「けど、この魚、最近どっかで見たような・・・・」
なんとなく記憶を辿ってみる。
「ああ、そうか。今日見た”しらがみ”様にそっくりなんだ」
「しらがみ様かぁ・・・・・」
魚に見蕩れている威流であったが、
ふと、お社での蓮との会話を思い出す。
「どうせ、病気にしてくださいとか、お願いしてたんだろ」
「違います~、何かしらの理由で仕事を休めますようにってお願いしました~」
再度、脳内でスロー再生されるこの言葉
「何かしらの理由で仕事を休めますようにってお願いしました」
「あははは、まさか、まさかだよ」
何かに気付き、急に焦りだす威流。
「これは夢。そう、夢だから感覚は無いはずだ」
夢である何かしらの確信が欲しい威流は、池の中に右手を入れてみる。
「ふわっ、冷たい」
右手に伝わるひんやりとした感覚に思わず驚き、すぐに池の中から手を引く。
この感触が、はっきりと夢である事を否定していた。
ここに来た時に寝っ転がっていたのは大きく平な石の上、
その冷たい感触があった時点で、もうお察しものだったのだ。
「まさか、病気でも怪我でも隕石でもトラブルでも無くて・・・・」
威流の額や脇、足の裏など、全身から大量の汗が吹き出る。
「何かしらの理由って・・・・」
覚悟を決める様に、ごくっと唾を飲み込む。
そして空へ向かって叫ぶ。
「異世界に転移させるってことなのかあぁぁぁーーーーーーー」
威流の魂の叫びは、静寂の森と暗い空へ吸い込まれていくのであった。




