拾陸の世界①
拾陸の世界――神様の話――九鬼グループ総裁室にて
「随分と大胆なことをするな」
「何、こうすればみんな幸せだろ? 神様からのささやかな贈り物だよ」
「そうは言うが、あまり勝手なことはしてくれるなよ。監察官に睨まれるのもキツイ」
「あの子も心の中ではハッピーだろうがね。この世界に残る口実ができたんだから」
「だといいが」
そこにいるのは白髭を蓄えて常に不機嫌そうな顔をしている老人。そして、リクルートスーツを身に纏って行儀悪く机に腰掛ける女性。
「全知の神だって、たまには遊んでみたい」
「その遊びに付き合わされる立場にもなってみろ」
「神様に遊んでもらえるんだ。光栄に思えよ」
「抜かせ。特異点対策とは言え、本来合流する予定のない平行世界の扉まで引き寄せて。監理する立場にもなれ」
「血に飢えた女神様は常に退屈でね。予定通りと言うのも面白くない。……まぁ、余所から来た身の程知らずに立場を追われるほどではないがね」
「ああ、今回はいつになく大人気なかったな。――いや、神様気なかったとでも言うべきか?」
「正直余裕を持ちすぎたな。お前がさっさと対策を講じていればああはならなかった」
「『人』のせいか。あまり関心せんな」
「この世界を管理するのは人間だ。神は本来創造主に過ぎない」
「そんなことを言って、いつまで経っても『創造』と称して世界を統廃合しているのはお前くらいなもんだ」
「神様だって時に不完全さ。『人間』なんていう不完全な存在を世に放つくらいだ。できちまった世界の手直しぐらい、したくなるときもある」
「巻き込まれる方はいい迷惑だがな」
「おいおい、何のための『世界の管理者』だ? そこら辺をうまいことするのが仕事だろうに」
「そうやって大事なところは『人』任せ。嫌になるな」
「うだうだ言ってもお前の仕事は変わらない。……それじゃあ、そろそろ神様も『世界の住人』に戻らせてもらおうかな。あまりこの身体をいじめてやるなよ、気に入ってるのだから」
「善処する。給料は大幅にカットさせてもらうがね」
「……きゅ、給料大幅カットだと!? 何をしたって言うんだ、十兵衛!」
「何もしなかったことが問題なんじゃて、玉城よ。魔族の連中の報告漏れ、儂が全部対処したんじゃぞ? 家やら仕事やら……」
そこにいるのは白髭を蓄えて常に不機嫌そうな顔をしている老人。そして、リクルートスーツを身に纏って行儀悪く机に腰掛ける女性。
老人は秘書に向かってグチグチと説教を続ける。秘書は飄々としているが、流石に給料大幅カットのセリフを聞いて言い訳を重ねる。
いつもの光景。いつもとまるで変わらない光景がそこで繰り返される――。




