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黒の国:3

昼食だからと黎さんが呼びに来てくれた。席にはすでに闇守様も着いていたのでご挨拶をして一緒に昼食をとりながら朝起きてから何をしていたか話していたらバタバタバタという大きな足音と共に扉が開いた。


「お休み中申し訳ございません。闇守様至急のお越しをお願い致します」


入ると同時に礼をとった神殿の衛士は物々しい姿で一気に述べた。何かが起こったみたいで玉経由で情報収集したら怪我人だそうだ。


「わかりました。急ぎ向かいます。環ちゃん騒々しくてごめんなさいね。そのままゆっくり過ごしてくれて良いですからね。黎夜、後を任せます」


席を立ちながら急ぎ衛士の後を追う闇守様に黎さんは「かしこまりました」と返事をしてボクに止まっていた食事の続きを促した。でも怪我人の状況はかなり悪いみたいとの情報を得て知ってしまうと落ち着いてもいられない。


「黎しゃん。あにょね、ボクも行きゅ。ケガしちゃひちょがいりゅのボクお手伝いしゅりゅ(黎さん。あのね、ボクも行く。ケガした人がいるのボクお手伝いする)」


お爺ちゃんは知っているけど黎さんはボクが治癒魔法が使えるのを知らない。重症患者がいて治す術があるボクがこの場に居合わせたんだから力になりたい。


一生懸命黎さんにお願いしたら仕方が無いですねって抱っこして連れて行ってくれた。髪の焼けたような臭いが充満している。そこには肌がただれ苦しんでいるガッチリした大きな男の人がいて隣には小さな赤子が息も絶え絶えで声をあげて泣くこともできないでいた。


玉の情報によると守護の外へ連れ出された赤子に気付いた神殿の衛士が助けに守護の外へ出て戻ってきたら今の状況になっていた。守護の外の霧が薄っすら広がった状態を思い出し霧はもしかすると酸が主成分なのかもしれないと肌のただれを見て思った。


恐らく肌がただれて目の粘膜もダメで呼吸することにより口や鼻の中もただれて呼吸もままならない状態なんだろう。闇守様は何をするのかと見ていたら闇属性の精霊を使役していた。


「黎しゃん闇守様は何をしてりゅんでしゅか?(黎さん闇守様は何をしてるんですか)」


何をしているか判らなかったので黎さんの耳元へ小声で問えば闇守様にしか使えない闇の精霊魔法で安らかな死を与えようとしているとのこと。この状態では投薬での治療も出来ず苦しみ続けて死を待つばかりなのでせめて安らかな死を与えるそうだ。


そういえば投薬以外の治療ってないんだった!治癒魔法はないし医療技術もそれほど発達していない。


「まっちぇ!ボクにしゅこち時間をくだしゃい(待って!ボクに少し時間を下さい)」


治せるのに治さずに殺すしかないなんてダメだ。この状態の治療はしたことはないけど出来るはず。前世の記憶もあってか簡単に命を諦めることが信じられないし受け入れたくない。


黎さんの腕から下りて怪我人の側へ行き闇守様にも時間を下さいとお願いしたら死を与えず苦痛を和らげるだけに留まってくれた。次はボクが頑張る番だ!


「琥珀」


チョーカーに巻きついている琥珀にお願いして怪我人に麻酔をかけて貰う。琥珀は残念ながら無双の手助けになりそうな催淫効果のある樹液ではなかったけど強力な麻痺毒を持っていた。毒はそのままだと心肺麻痺して死に至るが毒性を弱くすれば苦痛を和らげる麻酔効果や鎮静作用があった。


突然現れた蔦の琥珀に周囲の人々は驚くけど闇守様や黎さんが落ち着かせて近寄らせないようにしてくれる。闇の精霊魔法でも完全には取り除けなかった苦痛を完全に取り除けたので次は治療の為に状態を確認する。生きる者すべてが多くの水分をその身に宿しているので水属性の精霊の力を借りれば状態確認ができる。視覚を精霊である玉と同調できるので便利だ。体内にまで及ぶ治療が必要なので大きな水玉を作り全体をすっぽり覆い治療を施す。イメージは人口羊水での患部の再生。


隣の赤子は守られていたからか、それほど酷くはなく大量の発疹と腫れだったので患部を覆う程度に水の膜をはる。水が消えたら治療完了。大人の人は数日必要だろうけど赤子は数時間で終わるだろう。しかし大人と子供で症状が違うのってなんでだろう?


周囲の驚きを気にせず闇守様と黎さんにその旨を説明する。治療が終われば玉が知らせてくれるので最終確認の為にも立ち会いをさせて欲しいとお願いしたら了承された。


この地に治癒魔法は存在しない。黒猫の着ぐるみを着た小さな子供がおこなった奇跡。場所が神殿で闇守様や黎さんも立ち会っていたので大きな混乱にはならなかったけど噂はたちまち広がった。


赤子もすっかり良くなり大人も数日で元通りになったので噂の広がりは加速度を増した。黎さんもお爺ちゃんから聞いていて治癒魔法が使える事を知っていたので連れて行ってくれたんだって、後で知ったけど考えたら当たり前でそりゃそうだよね。

何の役にも立たないお客様な子供を死を待つばかりの悲惨な現場へ連れて行くはずが無いし黎さんから報告を受けている闇守様も少しとはいえ苦しんでいる人間を前に時間をくれるはずが無い。


ボクって考えが浅いよね。それでなくても異端だって言われているのに森では異端であることを気にする事も無かったら実感が無かった。今後は気を付けないとダメだとあらためて気を引き締めた。


無双する前に消されちゃう。闇守様には環ちゃんはすごいってたくさん褒めて貰ったけど素直に喜んでちゃダメだ。きっと迷惑をかけているはずなのに黎さんも褒めてくれる。でも反省はしっかりしなくちゃ。

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