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第13話:公開監査

 王都の外れ。


 人目につかない石造りの建物。


 そこはかつて――監察局の“保管施設”だった。


「本当に、ここに?」


 付き添いの従者が不安げに尋ねる。


「ええ」


 キャルロットは迷いなく扉に手をかけた。


(記憶通りなら)


 この中にいる。


 かつて――ヴァイス家の裏を支えた人物。


 重い扉が開く。


 ひんやりとした空気。


 そして、奥の椅子に座る一人の青年。


「……珍しい客だな」


 気だるげな声。


 だがその目は、鋭い。


「初めまして、でよろしいでしょうか」


 キャルロットは一礼する。


「キャルロット・アルディアと申します」


 青年は、わずかに眉を上げた。


「……ああ。噂の」


 彼の名は――レオン・ヴァルグ。


 元・帳簿管理官。


 そして――


 ヴァイス家の不正を“成立させていた”頭脳。


(前回は、この人がいたから崩せなかった)


「用件は?」


 興味なさげに問う。


「勧誘です」


 即答。


 間を置かない。


 レオンは、ふっと笑った。


「は?」


「あなたを、私の陣営に迎えたいのです」


 数秒の沈黙。


 そして――


「正気か?」


 当然の反応。


 彼は“元敵”。


 しかも危険人物。


「はい」


 キャルロットは迷わない。


「あなたは優秀です」


「……それで?」


「そして今、“使われる側”にいます」


 レオンの目が、わずかに細められる。


「気に入らないでしょう?」


 静かな一撃。


 彼は、頭脳で動く人間だ。


 命令される立場は、最も合わない。


「……続けろ」


 興味が、乗った。


「あなたの才能は、“隠す”ことに使われていました」


「だが本来は――」


「“構造を作る側”に立つべきです」


 レオンの指が、わずかに動く。


「で?」


「私のもとなら、それができます」


「保証は?」


「ありません」


 即答。


「ただし――」


 少しだけ、間を置く。


「あなたが望むなら、“誰にも使われない立場”に近づけます」


 沈黙。


 長い沈黙。


「……ずいぶんと大きく出たな」


「事実ですから」


 キャルロットは、一歩も引かない。


「あなたは、誰の下にも収まる器ではない」


「だからこそ――」


「私の隣に来てください」


 “下”ではない。


 “隣”。


 その言葉に。


 レオンは、初めてはっきりと笑った。


「……面白い」


 ゆっくりと立ち上がる。


「いいだろう」


 数歩、近づく。


「一つ、条件がある」


「何でしょう」


「俺を“使うな”」


 静かな、だが重い言葉。


「俺は勝手に動く」


「気に入らなければ、いつでも抜ける」


 普通なら、受け入れられない条件。


 だが。


「構いません」


 キャルロットは、迷わず頷いた。


「結果さえ出していただければ」


 レオンは、一瞬だけ目を見開き――


 そして、小さく笑った。


「……やっぱり面白いな、お前」


(成立)


 数日後。


 王都の一角で、小さな変化が起きていた。


「この帳簿、変だな」


「いや、変じゃない。“見せ方”が変わってる」


 流通の記録。


 資金の流れ。


 それらが、より“読みやすく”、そして――


(誤魔化せなくなっている)


 一方で。


 見えないところでは、さらに大きな変化。


「……誰だ、これを組んだのは」


 ローデリック侯爵は、報告書を見て呟いた。


 隙がない。


 だが同時に――


 どこにも“主導者”が見えない。


(キャルロット一人ではない)


「新しい手駒、か」


 一方、第一王子もまた同じ違和感を覚えていた。


「構造が一段、洗練された」


「はい。まるで別の頭脳が加わったように」


「……なるほど」


 王子は、小さく笑う。


「いよいよ、“組織”になってきたな」


 その頃。


 キャルロットの屋敷。


「で、次は?」


 レオンが気だるげに問いかける。


「そうですね」


 キャルロットは微笑む。


「王都の“見えない流れ”を、少し整理しようかと」


「はは」


 レオンは肩をすくめた。


「ずいぶんと物騒な言い方だ」


「そうですか?」


「いいや」


 彼は、楽しそうに笑う。


「最高だ」


 盤上には、すでに新しい駒が加わっている。


 しかもそれは――


(一人で盤をひっくり返せる駒)


 キャルロットは静かに目を細める。


(これで、やっと対等)


 侯爵にも。


 王子にも。


 そして――


(ここからが、本番)

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