第四話 社長満悦
社員に一律百万円のボーナス。
それに伴う資産の減少で、株価の下落、果ては会社の危機を危惧する生田純。
果たして会社の運命は!?
どうぞお楽しみください。
……社長は実感した。
会社がここまでの急成長を遂げたのは、社員が懸命に働いてくれているからだと。
そして社長は決断した。
「賞与は……、一人百万だ!」
経営への影響を心配する社員の声もあったが、社長の決意は揺るがない。
「会社が国であるなら、社員は国民だ。国民が富まずして国を富ませる術などない!」
前代未聞の社員全員一律百万円支給。
これは無謀な浪費なのか、それとも飛躍への投資なのか。
ギガンティック・インターナショナル社の今後に、どうぞご期待ください。
「はぁ……。ひとまず株価の大幅下落は避けられましたね……」
「それだけではないぞ! この動画とやらを見た者が、登用されたいと集まっておるそうだ! 善くやったぞ生田!」
車で移動中、動画を再度見た曹操社長のご機嫌は絶好調だ。
「そっちはおまけ程度に考えていたんですけど、効果があったなら良かったです……」
俺はボーナス百万支給で株主の方々が離れないようあれこれ考えた結果、社長にお願いしてPR用の動画を作って、会社のホームページで公開した。
投機家らしき株の売りが入って、若干株価は下がったが、むしろ『そんな事を気にせず社員のために躊躇わず金を出す社長』という評判の方が大きかった。
まず社長の言う通り、採用希望者は大幅に増えている。
百万狙い感は否めないが、自ら面接に臨む社長の目なら冷やかしは即落とされるし、社長自身が沢山面接ができるとご機嫌だからまぁ良いか。
そして取引先も増えた。
「ああいう漢気のある社長と仕事がしたい」
「堂々とした姿、信念の強い社長だと感じられた」
「社員を大事にする会社は、取引先も大事にしてくれると思う」
と、動画を見た様々な企業から、業務提携のオファーが何件も来た。
社長の行動は時々突拍子もなくて、驚かされる事ばかりだけど、やっぱり曹操社長についてきて良かったと思う。
「生田」
「はい」
「前に我は『天が何をさせようとしておるか分からぬ』と言ったな」
「あ、はい」
「今なら分かる気がする」
「え……」
「生田純。お主に会うためだったのだ。お主と共に天下を目指す、それが天の与えた役割なのだ」
「……!」
目頭が熱くなる……!
地獄のような職場環境を嵐のように吹き飛ばし、人並み以上の生活を与えてくれた社長……!
俺の努力を評価し、提案を理解してくれている社長……!
そんな事、言われたら、俺は……!
「……社長、一生付いて行きます!」
「うむ! かつての魏では遂に見れなかった天下一の高みからの景色、共に眺めようぞ!」
「はい!」
あぁ、この人は本当に素晴らしい人だ。
ブラックな職場環境から解放されはしたけど、社長のためなら休日出勤だろうと無賃労働だろうと何だって……!
「む! 車を止めよ!」
うぇ!? 何急に!?
車を降りた社長を追いかけると、その先には……、ホームレス?
「何と見事な鬚髯! お主、関雲長の生まれ変わりであろう!? 我が元に来い! 今度こそあの大耳より我の方が主にふさわしいと示そう!」
「社長!? 落ち着いてください! 単に切れないから伸びただけの普通の髭です!」
「え、あの、だ、誰ですか……? 私は関って言うただの宿無しですが……」
「今が宿無しであろうと何でも構わん! お主に会うために我はこの世界にやって来たのだ! 今日は素晴らしい日だな生田!」
「しゃちょおおおぉぉぉ!」
……やはりこの人は、私なんかが推し量れる人じゃないんだなぁ……。
髭だけは立派なホームレスを車に引き込もうとする社長を引き留めながら、俺は深々と溜息を吐いた。
読了ありがとうございます。
曹操は関羽大好きだからね。仕方ないね。
ちなみに関さんは曹操のしつこい勧誘に折れ、ギガンティック・インターナショナル社に入社しますが、経理で素晴らしい才能を発揮。
純は喜びますが、曹操は「青龍偃月刀ではなく算盤を弾くとは……」と少しがっかりする、というエピソードがあったりなかったり。
ちなみに曹操が言った「大耳」は劉備玄徳の事です。
劉備は曹操の元にいた事もあるので、ここでは悪口ではなく、愛称的な意味で言わせてます。
曹操の元を離れてから諸葛亮を得るまでの間、劉備が曹操の協力者だった説好き。
この話を書くにあたって、再度調べ直したりして、三国志の魅力に改めて気付きました!
家紋武範様、素晴らしい企画をありがとうございます!