各地のフィールドボスを求めて2
草原エリアのフィールドボスは、ゴリラのような外見をしていると言われれば確かにそう見えるかもしれないが、俺的にはチンパンジーに近い容姿をしていたように思う。異常に素早いところなどまさにその通りと言った感じだ。
それから、森林エリアの蟻に関してなのだが、これは事前情報通りに少し苦労させられた。蟻というだけあって、その数が半端ではなかったのだ。数千匹の蟻、しかも全長一メートル程の蟻の群れを駆逐するのは非常に大変で、個体レベルの低い者なら返り討ちに合う次元だろう。
まぁ何はともあれ、両方ともにフィールドボスは討伐出来たので問題無い。少し手こずったり数そのものに苦労したりした程度だ。
これで残ったのは、湖エリアのフィールドボスだけである。自分の目でフィールドボスの棲みかを調査して、その出現する場所のパターンを掴もうとする今回の試みも最後の一つだけとなった訳だ。
ただし、湖エリアに関しては既に場所の特定をしているのだから、もう別に無理矢理倒さなくてもいいと考えている。いや、これは別に釣り上げる自信が無いからそう言っている訳ではなく、あくまでもフィールドボスが棲みかにしている場所のパターンを掴む為の討伐巡りだったのだから、場所が分かっていればそれで充分なのだ。
そんな訳でその考えをメンバーに伝えたのだが、釣りにハマっているヘルとブリュンヒルデの二人から猛反発されてしまい、その結果として再び湖エリアに行くはめになってしまった。俺としては正直に言えば釣れないと腹立つので行きたくないのだが、湖の主を釣ってやるんだとキラキラした目で二人から言い寄られると頷くしかなく、渋々と言った感じだ。
この結果は、誰であろう俺が悪い。釣りというスポーツをメンバーに教えたのは俺だし、最近ではDPの貯蓄額が六億近くなったのでゲーム機を買い与えて、それで釣りゲーやらゾンビゲーやらと色々なゲームソフトを購入したのだが、それで更に釣りにハマってしまったのだから尚更俺が悪いのだ。
そして一番悪いのが、釣りのロマンをいけしゃあしゃあと言ってしまった事。釣り場所の一つ一つにその場所の主が存在し、それを釣り上げるのがロマンなんだとか言ったからこそ、彼女達は湖エリアのフィールドボスを釣り上げる事に熱心になってしまったのだ。
今更後悔するのは遅い。そう、それは重々承知している。しかし許されるなら、少し前の時間にタイムリープして過去の自分を殴りたい。そして更に許されるなら、釣り自体を秘密にしときたい。
そう後悔の渦に呑まれながら、俺はやる気満々のメンバー達と再び湖エリアに来てしまっていた。また一ヶ月も無駄にしてしまうのかと、そう内心で泣き叫びながら。
そうして始まった釣りは、予想通りに釣れない日々が延々と続く事になってしまった。いや、本当に何も釣れない訳ではない。フィールドボス以外なら結構釣れているのだ。しかし、フィールドボスだけが全く釣れないのである。
「もう二週間が過ぎた訳だけど、そろそろ諦めない?」
「何を言っておるのだ。ワタクシは諦めんぞ」
「そうです、姫様の仰る通りです。釣り人として、ここで逃げるは恥以外の何物でもありません」
「うむうむ、よくぞ申した。妾も手を貸すのでな、是非とも釣り上げるのじゃ」
生前やダンジョン世界での身分が高い者ほど釣りにハマってしまう傾向があるらしく、ヘルとブリュンヒルデとナっちゃんの三人は重症だ。拠点内でのテレビゲームでも釣りばっかりやってるし、これはもう手の施しようがない。
そんな者達とは打って変わって、他のメンバーは気分転換くらいの感じで釣りをしてるようで、もう殆ど飽きてしまったらしくモンスターの襲撃を心待ちにしている。どちらかと言うと、俺もその一人だったりする。
「暇だね」
青空を眺めながらポツンと呟いた言葉に対して、釣りにハマりまくっている御三家から手厳しい視線が来た。
「マスターは甘いな。そんな事では釣れんぞ」
「釣りとは忍耐が何よりも重要なのです。そんな考えでは釣れるものも釣れませんよ」
「マスターは忍耐力が無いのぉ。まだまだ未熟者じゃな」
迂闊な発言をしようものならこんな風にボロクソに言われてしまう。誰が釣りを教えてやったと思っているのか問いただしたい気持ちで一杯だ。
「僕としてはここで銀を取るより飛車を取るべきだと思うよ」
「そうかしら? ワタシは銀を取りつつ王手の方がいいと思うわ」
「ちょっと! アタシとテティスの勝負なんだから横槍入れないでよ!」
「ですです! 折角ウチの優勢なんですから!」
「どこがよ! どう見てもアタシの方が勝ってるじゃない!」
「ウチは角を二枚持ってるんだから、こっちが優勢に決まってますぅ!」
将棋を指しつつモンスターの襲撃を待つあっち側に入りたい。当たりの無い釣り竿を持ち続けるのはもう嫌だ。
或いは、日向ぼっこしながらのんびりしているアキとフユの方でもいい。実に気持ち良さそうで羨ましい。
しかし、現実というのは厳しいもので、少しでも釣り以外の事をしようとしていると、その途端に御三家から鋭い視線が集中するのだ。お前何してんのよ、と言わんばかりの目で見られるのは至極辛いものがある。
それ故、俺は御三家の横で釣り竿を握り続けなければならない。決して掛からないフィールドボスを待ちながら。
「鳥肉をやめて別の餌にしてみる? 例えば、何かしらの魚を釣って、その釣った魚を活き餌にするとか」
気温、水温、風の有無、天気、様々なシチュエーションで釣りの手法は多種多様に変化する。これも長年の釣り師としての経験から得た確かな知識である。
だが、そんな俺の経験や知識を彼女達御三家は信じない。なまじ釣りゲームで知識を増やした事で、既に自分達は釣り名人だとでも思っているらしく、俺の提案は聞き流されてしまうのだ。つまり、無視である。
「………俺だけでも餌を変えてみよっかなぁ」
「マスター、無駄な事はやめておけ」
「その通りです。釣り名人である私達と同じく、釣り名人である漁師の方は鶏肉で釣っているという確かな情報があるのですから、無駄な事はすべきではありません」
「マスターよ、釣り名人になりたければ漁師の真似をする事じゃ。先人の知恵を模倣する事から何事も始まるのじゃからな」
釣り名人の漁師というのは、俺と同じ挑戦者の一人の渾名だ。この湖エリアに居たフィールドボスを最初に釣り上げ討伐し、その事を掲示板で広めた男である。
確かにその男は、釣り名人と言っていい程の実力者なのは間違いない。生前にはイタチ鮫を釣り上げた強者なのだから、それは素直に認める。
だがしかし、俺だってそこそこの釣り歴なのだ。釣った魚種だって幅広いし、それこそ北から南まで広く様々な魚を釣ってきた。
そんな俺がまだまだ釣り歴が浅い御三家に言われたい放題なのは納得出来ない。ここいらで俺の本気を見せるべきであろうかと思わざるを得えん。
しかし、ここで俺が釣り上げてしまうと、御三家が拗ねてしまう。これが本当に面倒臭いのだ。酔って愚痴をブツブツと呟く友人くらいには鬱陶しいのである。
それ故、俺は本気も出せずにダラダラと長期間を釣竿片手に過ごしているという訳だ。もう辛くて辛くて、釣りが嫌いになってしまいそうだ。
こういう時は、いつもならぶっこみ釣りと並行してルアー釣りをするものだが、御三家に睨まれるのでそれも出来ず、ただただ御三家の誰かが釣ってくれるのを期待しながら待つしかなかった。




