レベル上げ
新装備を得て動作確認などを終えてからの一週間後、少しの休息期間も取れたという事で再びカリプソのレベル上げを始めるに至った。
とは言え、既にカリプソのレベルは500ほどになっており、そんなカリプソに相応しいレベル上げの場所など一つしか知らないので、俺達は巨大生物が跳梁跋扈する危険地帯へと来ていた。
そう、あの危険地帯である地竜………もとい恐竜が支配するエリアである。ここでの戦闘は相手の巨大な体躯もあるので、カリプソだけでなく、レベル2000を超える俺達であっても油断出来ないエリアだ。
そんな場所だが、そうであるが以上はレベル上げとしては最高な場所であって、それでいて俺達程度が暴れ回っても生態系が容易に崩れる事もないので本当に理想的な場所であるのは間違いない。
しかし、カリプソのレベル上げとしては此処に来てから知ったのだが、どうにも考えものだったのかもしれないと痛感させられていた。
それと言うのも、カリプソが心底楽しんでいたからだ。別に恐竜という根っからの強者との戦いを好むのはミオンという前例があったので戸惑う事も無いのだが、カリプソの場合は度が過ぎていたのだ。
ミオンは純粋に力を追い求めるあまり、自身を少しでも高みへと導きそうな強者とは戦わずにはいられない。故に、弱い個体には目を向けず、一心不乱に強い個体を探し出す事に躍起になり、そして発見するや否や猪突猛進で突っ込む。
それに対してカリプソは、弱体化した今だからこそ戦闘技術を全力で出せる相手が沢山存在して、その事で有頂天になってしまい、その結果として延々と戦う。それこそ俺達が止めに入るまで。
ミオンには満足感というのがあってそれが満たされると一応飢餓感のような感覚が消えるようだが、カリプソにはそれが無いらしく、俺達が止めないと本当に留まる事を知らないとばかりに戦い続ける。魔力が枯渇すれば意識朦朧となるのだが、異常な精神力で意識をしっかり保ちつつ白兵戦にて戦い続けるその姿は狂気じみて見える程。
いくら俺達のサポートがあるとは言っても、これは流石に危険だと言わざるを得ない。何時もは実に軽い態度と口調が目立つカリプソに、こんな悪癖があったとは想像もつかなった。
カリプソはプロトポロスと一緒で、恐らく強くなり過ぎてしまったが故に対等に戦える相手が居なくなってしまっていたのだと思う。そこにテイム契約によっての弱体化が発生し、身体能力が初期に戻った事で培った戦闘技術を全てブツケられる相手に困らなくなって、その結果として悪癖と言っても差し支えないものが生まれたのだろう。
その悪癖をこのままにしておいたら、どんな事態を引き起こすか分かったものではない。何かの切っ掛け一つで、まるでドミノ倒しのようにパーティメンバーが次々に倒れ伏すなんて事も考えられる。
それ故に、俺はカリプソに懇切丁寧なお願いをした。決して無理強いするのではなく、自分自身が安全に戦える範囲内を意識して冷静に理解しつつ戦うという事を。
勿論、その時はカリプソの旦那であるプロトポロスも一緒で、俺の説明に終始頷くようにして俺と同じく懇切丁寧に妻であるカリプソにお願いしていた。
そうした事が影響したのか、恐竜エリアでのレベル上げは少しずつだが普通のレベル上げと言っても良い光景に落ち着いた。カリプソがもしあの悪癖を制御出来なかったらという未来を想像すると、ホントに恐ろしくて堪らない。お願いを真面目に聞いてくれたカリプソには本気で感謝している。
そんな訳で、ある程度の期間を恐竜エリアで過ごした後、一旦拠点に帰還した時にはカリプソのレベルは1250を少し上回っていた。そして、紅黒のレベルもとうとう2000を超えて、ステータスの全てが文字化けしていた。
この事実にカリプソはそこまで喜ぶ姿勢を露わにしなかったものの、紅黒は余程嬉しかったのかずっと喉をグルグル鳴らしていた。猫のようで実に可愛かったのだが、そんな紅黒にアキとフユの二頭がまだまだ慢心するのは早いぞと、そんな風に言い聞かせているかのような仕草を見せるので、俺含めた皆が堪らず笑ってしまった程には微笑ましい姿だった。
ともあれ、これで文字化けしていないのはカリプソとプロトポロスの二人だけになるが、プロトポロスの方はスキルの殆どが文字化けしていてレベルの方ももうすぐ2000に到達するので、やはりサポートする側としてはカリプソの一人のみを気にしておけば問題無いだろうと思う。
季節は冬に移り変わり、まだ雪は降ってないもののそこそこ冷たい冷気が地表を覆い始めている。カリプソのレベル上げ場所を雪の影響の無い温泉エリアに変える時がきたと考えるべきだろう。
現在のカリプソのレベルからすると、もう充分にムジュラと面と向かって戦えるだろうし、時期的にも丁度良い。温泉エリアでのレベル上げを終了した時には、都合良くいけばカリプソのステータスも文字化けしているかもしれない。
ただし、勿論一ヶ月の休息期間を設けた後に、という話だ。精神と肉体の両面を充分にケアするのは非常に大事な事なので、これは譲れない。
という訳で、皆はそれぞれ拠点での休息期間を全力で楽しんでいた。趣味に没頭する者、テレビゲームに没頭する者、人工プールで延々と泳ぐ者、模擬戦で倒され悔しがりながらも満面の笑みで何度も挑む者、そんな風に色々だ。
因みに、最後の者は勿論ミオンであり、対戦相手はカリプソである。末恐ろしい事なのだが、レベルでは明らかにミオンの方が上位者であるのにも関わらず、その対戦結果はミオンの全敗だった。やはり培った技術を身に付ける者というのは、そうそう簡単に倒せるものではないようだ。
ミオンだけの話じゃない。俺もカリプソにボコボコにされた。いや、ミオンより酷い次元でボコボコにされただけに、それだけ俺が弱者であると言える訳だ。悔しくて泣きそうだわ。
ヘルやブリュンヒルデ、ミワやコブラやレディ、他の者達も軒並みカリプソに叩きのめされている。あの身体能力お化けとしか言いようのないハルちゃんもカリプソの前に撃沈し、ナッちゃんですら魔法を満足に発動させてもらえず沈黙したその光景は、流石に俺としてはカリプソの強さにドン引きだった。
唯一そのカリプソに対抗出来たのは、プロトポロス。いや、より正確に表現すると、対抗出来たというよりは勝ってみせたのだ。上には上がいるのだと、それが世界の広さを表現しているようで圧巻された模擬戦の結果だった。
以前からパーティメンバーの強さを順に考察した事はあったが、それは皆が文字化けした時の事を考えての強さ順だった。しかし、未だ文字化けする前のカリプソにこれほどまでにメンバーが悉く蹂躙されてしまうとは、本当に想像すら出来なかった。
それ故、もう少し戦闘技術の向上に努力しようと密かに誓ったが、それはホントに秘密である。下から数えた方が早い位置に居る自分の為、皆を出し抜く為に絶対に秘密だ。
と、こんな風に少し情けない誓いを立てたのは兎も角、一ヶ月の休息期間が経過したので、温泉エリアへとレベル上げの為に出発。そして到着後、ムジュラは相も変わらず血の匂いに敏感で、そうであるが以上は何時もと変わらない戦術で誘い出しては倒し続けるという日々が始まった。
だが、プロトポロスやカリプソという二人が加わってのムジュラ戦は、心底気楽なものだった。二人が強すぎるからだ。ムジュラ相手にこう感じられる時がくるとは思ってもおらず、しかし強くなったチームに気分良く戦い続けられた。




