ミスリル鉱石
拠点に帰還すると、当然ながらアグライアとタレイアの二人に早過ぎる帰還の事で何かあったのかと心配されるが、二人に必要な薬の素材をテーブル上に広げて見せると帰還の理由を察したようで、二人は照れたように少し顔を赤くさせていた。どうやら言葉では心配ないとか放っておけばいいとか言っていたが、いざ薬に必要な素材を入手してくれたとなれば嬉しいものらしい。
そして、メンバー全員からの旅の道中で感じる二人が居ない事に対する物足りなさの感想を聞き、アグライアとタレイアは更に顔を赤くしていたが、誰もその事をからかったりせず、微笑ましそうに顔を赤くする二人を優しく見ていた。
まぁ、薬の素材を入手するべく動いたのはレベル上げが上手くいかない現実があったからこそだが、それでもアグライアとタレイアの二人が居ない事に対する物足りなさがあったのも事実で、そして何より寂しく感じていた事も本当の事だった。
それ故に、今のように彼女達二人を加えて会話している皆を見えていると、「あぁ、これでこそ完全なチームの形だ」と、そう思えた。
その後、二人を交えて色々と今回のレベル上げに対する反省会をして、改めて今後の方針をどうするかという方向に話のベクトルが傾くと、いつも会議では眠そうにしているミオンが意外にも口を出してきた。「掲示板を確認してから今後の動向を決めたらどうだ?」と、そう言ってたのだ。
普段のミオンでは考えられないほどに冷静で的確な提案に、俺は心底嬉しくなった。彼女は話し合いとなったら直ぐに嫌そうな表情を浮かべて、実際に話し合いが始まると早々に眠っていたのが通例だったのに、こんなにも賢い提案をしてくれるとは思ってもみなかった。
いや、例え意味不明な提案だったとしても、きっと俺は喜んでいたと思う。何せ、普段の彼女は自身の興味が向く方向にしか目を向けない。それが今回はどうだろうか。どう考えてもパーティの今後を見据えて的確な提案をしてくれている。
これが喜ばずに居られようか。彼女の大きな成長を見れたような気がして俺は本当に満足している。
だからこそ、俺は大袈裟に見える程に大きな身振り手振りでミオンの提案を採用する旨を告げ、パソコンの前に座った。カタカタと小気味良い音がキーボードから響くのが更に今の俺の心を高揚させてくれる。
そして満面の笑みのまま掲示板を眺めた俺は、最高の情報に狂喜乱舞した。今日は良いことづくめだ。
パーティには誰も欠けちゃならないんだと改めて認識出来た事に対する喜び、仲間のアグライアやタレイアに対する優しさを目の当たりにできた喜び、ミオンの確かな心の成長に対する喜び、そして今の俺が目にした新情報、どれもこれも嬉しい事ばかりで気持ちは有頂天。これは大袈裟な話ではなく、本当にそう思っている。
ただし、問題なのがその新情報であるミスリル鉱石が入手可能なダンジョンの等級に関してだ。現在のカリプソがレベル200に到達したばかりなので、どう考えてもオリハルコン級のダンジョンではまともに戦えないという事。
俺や他のメンバーが全力でサポートしたとしても、きっと俺達はそこまで辛さを感じなくともカリプソからしたら筆舌に尽くしがたい程に辛くキツイものになるだろう。それはかなりいただけない話だ。
少しの無理を短期間だけという事情なら許容しなくともないが、長期間をかなり無理しなくてはならないなど論外である。精神的な事を考えると、その期間を無事に過ごせても反動が恐ろしい。決してあり得ない選択だ。
となると、最低でも今の倍はレベルを上げておく必要がある。まぁ、ミスリルが入手可能だというそのオリハルコン級ダンジョンの内容にもよるが、俺達サポート側の強さを考えたら現状の倍程度のレベルなら少しキツイ位の範囲に収まる筈だ。
そう考えると、カリプソをレベル400以上まで上げる為の場所が必要になる訳だが、この際だから水中でのレベル上げに固執するのはヤメて、南大陸の何処か適当なダンジョンでレベル上げというのも悪くない。
PCを前にそう考えた俺は、その考えをそのままメンバー全員に伝えた。勿論、反論も拒否も受け入れ態勢万全の状態で。
すると、皆はそれぞれに悩む仕草を見せた後、揃って俺の提案に賛成してくれた。水中でのレベル上げが、陸上とは勝手が違って非常に困難なのも賛成してくれた理由なのだろうが、カリプソがほぼ単独でしか水中戦闘出来ない現状では心配が大きかったのが一番の要因だと思われる。皆が仲間想いなのが理解出来て嬉しい限りだ。
で、善は急げって事でアグライアとタレイアに必要な薬を俺達も加わってアグライアの主導で完成させ、出来たてホヤホヤの薬を二人に飲んで貰ったら早速出発。目的地は、銀等級のダンジョン。現在のカリプソのレベルを考慮してのダンジョンとなる。
そのダンジョンを俺達は全力でカリプソのサポートをしつつ踏破し、一旦拠点に帰還して経験値を取り込んでレベルアップしたのを確認してから今度は金等級のダンジョンに挑戦した。そこでは勿論、同じようにして丁寧にダンジョンを踏破するまでレベル上げをカリプソに頑張って貰い、その後拠点に帰還するとカリプソのレベルは400の半ばに到達していた。
この二つのダンジョンでレベル上げした期間は、実に三ヶ月に及ぶ。戦闘技量では文句の付け所など存在しないカリプソだが、やはり身体能力は低いし体力も低いので、どうやっても沢山の休息が必要となってくるので踏破する期間がそこそこ必要になってしまうのは仕方がなった。
しかしながら、別に踏破する事が目的ではなく、カリプソのレベル上げこそが最大の目的だったのだから別に時間がどうこうというのは気にしてない。寧ろ、二つのダンジョンを踏破しただけでレベル400の半ばに到達した事実に喜ぶべきだろう。そこそこキツイ思いをした筈だが、めげることなく努力したカリプソの見事な成果である。
だが、こうしてミスリルを入手可能なオリハルコン級のダンジョン探索に際して充分なレベルに到達はしたが、ここでそのまま出発というのはカリプソにはまだまだ精神的にキツすぎるだろうと考え、その結果一ヶ月の休息期間を設けた。
ちょっと鼻息荒くし始めたミオンを宥める為に模擬戦の相手を俺やプロトポロスやコブラで頑張り、同じくミスリルを早く入手したい願望に取り憑かれたタレイアをお姉さん役のアグライアに宥めてもらったり、そうやってカリプソの休息期間を確り確保した後、いよいよ待ちに待った目的地へと出発する。
場所は掲示板の報告通りだったので一切迷う事もなく、だがしかし報告通りでダンジョンの通路が狭いのでドラゴンの紅黒だけ残し、俺達はオリハルコン級のダンジョンを下り始めた。
そしてこれも報告通り、ちょっと面倒くさい出現の仕方をするモンスター達に苦戦するものの、最終階層の一つ前の階層で沢山のミスリル鉱石を確保するに至った。
「ちょっと、ちょっと! 一つの欠片も残さないようにしなきゃ駄目じゃないか! ほらそこ! 口を動かす暇があったら手を動かす!
いいかい? ボク達にとっちゃあ貴重で重要な代物なんだよ! 一欠片も残さず回収するんだからね!」
少し………いや、かなりタレイアが熱くなっていたが、しかしそのお陰で充分な量を確保出来たのは良かったと思う。問題は、まだ目に見えない地中の奥底にミスリル鉱石の鉱脈があるんじゃないかと、そう涙目で必死に訴えるタレイアのせいで、無駄に採掘し続ける日々が数日間続いたのが大変だった事。
もう本当に何も出ないと分かるまで一心不乱に掘り続けるタレイアには、正直言って少しの恐怖を感じた程だった。ミワなんて「タレイアのあの微笑みながら掘る姿が夢に出て、しかも我にニコニコ顔で掘れ!掘れ!掘り続けるんだよぉお!と叫んでくるのが怖すぎるのです!」って、ビクビク震えながら相談された時にはどうしようかと本気で頭を抱えた。
因みに、他のメンバーも似たような悪夢を見る始末で、最終的にはタレイアを強制的に気絶させ、ダンジョンは踏破せずそのまま帰還したぐらいには大変だった。




