呪術妖
葛城の立てた策はこうだ。
市は宵五つから夜四つまで、本丸を観ることのできる古着屋の屋根の上で待つ。ただそれだけだ。
飛頭蛮が現れたらすぐに狙撃する。
策でもなんでもない。飛頭蛮は最低でも三日に一度は姿を現すので、どんなに遅くとも、明後日の夜には全て終わるはずだと言った。
「なによりな、流石に城内で騒ぎが大きくなりつつある。これ以上事態が長引けば、中で千代が始末されることもあり得るぜ」
つまりこれが最初で最後の機会だという。
「ひとつ訊きたい」
「なんだい」
「飛頭蛮――ろくろ首というのは、なんなのだ? 生まれついてのモノなのか?」
市にしてみればもっともな疑問であった。
「さて。ほかの類は知らんが、今回の件に限って言わせてもらえば“呪”つまり呪詛だな」
「呪詛……」
なんとも生々しい響きだった。
「生まれつき首が伸びたり飛び回る――そういった血筋だの存在だのといった話も聞くがな、少なくとも今回の件に関しては、あんたの大っ嫌いな政の争いに巻き込まれたあの千代って娘が、人身御供として呪に掛けられたのさ」
苦いものを吐き捨てるように言った。
「それはつまり、誰かがあの娘を呪った……ということか」
「呪ったといっても、恨み嫉みの感情じゃない。確かな腕をもつ呪師が、仕事としてあの娘を贄にしたんだよ」
「そもそも呪師などというものが存在するのか?」
「あんたが鉄砲をもって仕事をするのと同じように、呪という“道具”を使い仕事をする輩もいる」「道具か……」
道具という響きに、市は何故か得心がいった。
「あぁ、道具さ」
「だが呪とやらで、人間をあのように出来るものなのか」
「なんの因果も無けりゃ呪を掛けるのは難しいからな、あの娘にもつけ込まれるだけのものが有ったのだろうよ」
「そういうものか」
その説明に、市は納得するしかなかった。
「兎に角あんたが、ろくろ首をその弾で撃てば、その呪が呪師に返る。だがそいつに、もう一度呪を掛けられちゃ堪らんからな、機を見計らって、俺は呪師を張り倒さなきゃならん」
「そんなことができるのなら、最初からその呪師を始末すれば良いのではないか」
「そんなに単純なもんじゃないのさ。火縄銃だって炸薬と弾を詰め、縄に火を着け構えねば撃てぬだろ? 途中で下手なことをすれば暴発もしよう。呪詛とてある程度の手順を持って解かねば取り返しがつかんのだ。下手を打てば、お千代は二度と人として戻ってこれなくなる」
そういうものかと市は思った。
「俺からも一つ訊いてもいいかい? なぜ仕事を受ける気になった」
「人外の妖物を撃つなど、鉄砲野師として二度とは無いことと思ったからだ」
市は言葉を選んだ。
「存外、優しいのだな」
葛城がにやにやと口元を歪めた。
「他に他意などない」
語気を強めると、市は視線を逸らした。
「報酬は七三。あんたが七、俺が三。きっちりと頼むぜ」
そんな葛城とのやり取りの翌日から、陽が暮れはじめると人目につかぬよう屋根に上がり息を潜める。そうして一晩、二晩と待ちわびるも何事もなく過ぎ、今宵が三日目。葛城の言葉通りならば、最後の機会となるべき夜であった。




