7.ワイバーンだった
今日の二話目です。
「マルくんは貴族なのですか!?」
「いえ違います。偶々魔法の才能があるだけで、貴族じゃないんです」
「…そう、なのね……びっくりしたよ」
簡単に納得してくれた。普通ならもう少し確認するところじゃない?まぁ、実際貴族じゃないから、疑われて困るのはこっちだけどね。
「あ、魔法を使えることは黙ってもらえませんか?目立ちたくないんで」
「も、もちろんでしゅわ」
……噛んだ。本当に黙ってくれるか不安だ。後でこっそりばらさないように魔法をかけようかな。
ま、とりあえず森に入ろう。さて、シルバーウルフどこにいるのかなー……っと、そうだ!何か探索類の魔法を使えるかやってみようかな。
「……《探知》……うわっ!」
「どうかしたんですか?」
「い、いえ、なんでも」
試しに適当なコールを詠ってみたら、目の前にGPSマップみたいなウィンドウが突然現れた。びっくりしてつい悲鳴を上げたら、ミシェルさんが怪しい目でこっちを見た。……なんかこの状況、既視感が半端ないな。
サーチ:シルバーウルフ、と囁いた弾みに、探知マップの上に一つの青い点と数十の赤い点が浮き出た。青は私で赤はシルバーウルフでしょうね。あ、二つの赤い点がこっちに近づいている。ちょうどいい。
視界の邪魔だから一旦探知マップを消した。鞘から刀を抜き、シルバーウルフが来ている方向に向き刀を構えた。
「マルくん?」
「来ています」
「え?そ、そうなんですか」
来た。名前通りの銀色の毛で長い犬歯、そしてやっぱ真っ赤な瞳。確かこの世界すべての魔物の目は赤いという。
でもさすがはウルフだけあって、オーガより動きが早い。そもそもどうしてオーガはBランクなのか、全くわかんないものです。
……ということを考えながらも一匹をやっつけた。サイズとか一回で頭を切り落とせた点から見れば確かにシルバーウルフの方がちょっと弱いかも。
もう一匹はさっきミシェルさんを噛み付こうとした時、私に後蹴りで蹴り飛ばされて意識不明になった。とどめを刺したら、シルバーウルフが拳ぐらいの魔石と毛皮と牙に変わった。
よし、あと一匹ね。素材を鞄にしまい、探知マップを展開……なっ、なんだこりゃ!ここを中心に十匹のシルバーウルフが近づいてるし!
「……ありえないわ……すごい……何なのあの動きは……」
ミシェルさんは何かを呟いたが、考え込んだ私はよく聞き取れなかった。ここは複数攻撃魔法を使う方が安全かもしれない。でもあまり他の人に魔法を見せたくないし……まずは刀だけでやってみよう。
依頼は三匹だけだから、もう一匹討伐すれば完了。つまり十匹全てをヤる必要がない。ヤリすぎも良くないしね。
ーーしばらく経つーー
結論から言うと、甘すぎだった。
群れ相手に手加減は地味に難しかった。一匹をやっつけば他の何匹か飛び出したので反射的に切って、他にもミシェルさんを襲おうとしたので袈裟斬りのスキルで何匹かヤっちゃって……気づけば十匹全て、討伐しちゃった。えへっ。
はぁ。ため息をつきながら素材を鞄にしまう。戻ろ…………ミシェルさん、顎外れるんじゃない?どうしたの?
「もう自分の目も疑うわよ!!シルバーウルフを一撃で倒したり十も相手にしても無傷だったり!!君は一体何者なの!!」
え、えええ……?
シンシアさんも似たようなことを言った気がするな……さすがは親子。でもやっぱ何者って聞かれても……。
「…冒険者になったばかりの子供…?」
「…そ…」
「そ?」
「そ、そんな訳ありますかーー!!」
すごい、反応も同じだ。
「本当ですよ。嘘をついても何のメリットもないですし。それより早くギルドに戻りたいです」
他のシルバーウルフと遭遇しないためにも、早く森から出て行く方がいい。
「……はぁ、誰でも人に言えない事情が一つや二つあるし……わかりました、ギルドに帰りましょう」
ミシェルさんも信じてくれないらしい。さすがは親子。ま、とりあえずギルドに…………あれ、空がちょっと暗くなったと思ったら、大きい鳥が一羽いた。
こんな形の鳥初めて見たな。逆光でよく見えないが、多分灰青色。翼が尖っていて、あまり羽毛の感じがないな。…………うん?それって……
「……うそ……なんでワイバーンがこんなとこに……!」
やっぱりか。
「マ、マルくん!早く逃げなきゃ!あれはAランクの魔物よ!」
森の上空を旋回しているのは大きい鳥なんかじゃなく、ワイバーンだった。