15.天使のようだった(ルーク視点)
十三話のルーク視点です。
目が覚めたら、知らない部屋にいた。俺はソファの上に寝ていて、着ている服は小さく、明らかに俺のもんじゃない。ソファのそばに剣が置いてあって、テーブルの上にパンと水があった。
怪しい。俺は拉致でもされたのか?……いや、だが俺は怪我してないし、拉致して武器を置いてくバカはいないか。それにこの部屋も牢にしては綺麗すぎだ。だがパンと水を口にすることなくゴミ箱に入れた。毒があったらまずいからな。
「……とりあえず逃げよう……」
窓から出ようとした時、外からわずかな足音がした。誰かが来る!敵か!?
慌ててソファのそばに置いてある剣を抜き出して扉の後ろの死角に隠れた。剣の手触りがよく、まるで俺の剣みたい……あれ?なぜこの剣が俺のじゃないと思うんだろう。俺は……
「あれ?いない」
っ!?
しまった!気が散って相手がいつの間に部屋中に入った。俺は扉の後ろにいるから相手の姿が見えないが、かなり強いって勘で何となくそう思った。仕方ない、気づかれないうちに先手打つか。
よし、今だっ!
「っ!」
相手が素早く俺の剣を受け止めた。その動きが綺麗で無駄が一切なく……ちっ、やはりプロか…………えっ。
「…え…?」
なっ、な、なに、これ……!?目の前にいる存在を見て、俺は思わず息を飲んだ。
「……天使…?」
……俺は、幻覚を見ているのか…?それとも俺は、もう死んだのか…?
俺の剣を難なく受け止めたのは、この世の存在と思えない程可憐な女の子だった。窓から差し込む太陽の光の下で淡く金色に光るピンクベージュの髪が後ろに束ねて、水色の瞳がぱっちりしていて、まるで宝石みたいだった。天使は、こんな見た目をしてるんだな。
「残念ながら人間だよ。ところでそろそろその物騒なものをしまったらどう?傷つけたりしないから安心して」
「あっ、ご、ごめん……俺、てっきり敵かと」
女の子に見惚れた俺は、剣をしまうことすら忘れた。普通なら傷つけたりしないって言われても真に受けないが、彼女に言われるとなぜだか、疑おうとする考えすらなかった。……こう見えても俺は人の嘘を見抜くの得意なんだ。
「いいのいいの。私もノックせずに入っちゃってごめんね」
彼女が謝る必要がない。俺が確認もせずに襲い掛かっただけだ。
「まずは、体調はどう?まだどこか痛いとこ変なとこない?」
「ない、けど」
彼女は心配そうな目で俺を見つめる。俺はどこか怪我したんだっけか?……あ、そういや。
「……あの、ここは…?俺は、一体…?」
とりあえず今の状況を聞こう。
「ここはシャルク冒険者ギルドだよ」
……シャルク…?聞いたことないな。
「あなたは……いや、その前に。名前聞いてもいい?」
「あっ、ごめん、言い忘れてた。俺はルーk……あれ?ルー…?いや違う。俺は……俺はっ」
思い出せないっ、なぜだっ?!早く思い出せ!俺の名は何だ?俺は、誰なんだ…?
「大丈夫、焦らないで。ほら、深呼吸」
「すー…はー……すー…はー……」
「どう?」
「……だめだ。思い出せない。……なぜっ……」
考えても考えても頭がやっぱり真っ白で、人間関係に関する記憶が全くない。
「……知識は覚えてるのに、人に関しては何も……自分が誰かさえも」
「……そっか。じゃあ一先ず名前をルークにしたらどう?」
ルーク、か。彼女が取ってくれた名だし、喜んで使うよ。それに本来の名を思い出せないから、そうするしかない。
「焦らないで。無理して思い出そうとするのは体に毒だよ。そのうち思い出せるじゃないかな。それまではここにお世話になってもいいか聞いてみるよ」
ついため息を漏らしたら、彼女はなぜか俺の頭を撫で、柔らかくて可憐な笑みでそう言った。なっ、その顔っ、かわいすぎだろ…!は、反則だっ…!
その微笑みを見て俺の心臓がどくんと高鳴り、顔がちょっと熱くなってしまった。そしたら彼女は顔を近づき、おでこを俺の額に当てた。
「なっ、おまっ、何を…!」
「うん?熱がないか体温を測ってみただけですが……そんなに慌ててどうしたの?」
体温を計るどころじゃない!
「ち、近いから!近すぎだから!」
「……え」
彼女はかぁっと頬を赤く染めた。えっ……か、かわいらしい……。
「ごごごごめ…」
「ゴゥーグゴゥゥ~」
「「……」」
彼女が謝ろうとした時、俺の腹が情けなく鳴いた。空気読めよ俺の腹!ああくそー、恥ずかしい。俺は今羞恥の念で耳まで真っ赤になったに違いない。
「……えっと、サンド食べる?」
「……お願いします」
彼女が変わったカバンから取り出したサンドイッチはカツサンドという、彼女の手作りらしい。それを食べたのは、腹がすきすぎるからか?だが腹減ったとはいえ初対面の人からもらった食べ物を口にしたりしない。
それなのに、俺は躊躇いなく食べた。俺はきっと、どうかしている。でないと、こんなにも心臓がうるさくなるはずがない。




