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剣士ラインツェールト

大変お久しぶりです。ため込んで一気に連投したかったのですがいつまでたっても文章がたまらないので書けた分だけ投稿することにしました。

今回は少し汗と血の匂いが強いですが、内容は少し晴れやかになってると思います。

 実はラインツにはアレックスから身元がバレるのを防ぐため試合中に剣を召喚したり、いつも困ったときに使う黒い泥も使うなという指示が出ている。それゆえ全ての試合が剣の腕だけが頼りの勝負となる。それでもラインツにはある程度の自信があった。ここ半年間身を置いてるコルンブルーの人員とはしょっちゅう手合わせをして鍛練をしており、以前はレイヴンと毎日のように剣や素手で喧嘩をしていた。そしてなにより、人生で一度も武器を持ったことがなかったラインツに剣の基礎を教えてくれた強くて厳しい師匠、エルナの教えが身体にしっかり染みており、強者に立ち向かう勇気を彼に与えている。


「俺は、いつか師匠を越えて好きな娘を守れるようになるんだ」


 彼が剣を始めた理由。それは単に憧れだけでなく、初恋の娘グレーテルを守るため。彼女の笑顔が絶えない美しい世界を守るため。

 コルンブルーの仕事だからではない。俺は……僕は守れる強さを手に入れるために闘う!

 

 ラインツが距離をとり息を整えている間、リュディガーは地面に刺さっている矢を回収し、着々と戦闘準備を済ませる。再び矢を番えるまでの間、狩人は常にその広い視界に獲物を捉え続けていた。その鋭い瞳はまるで『決して逃さない』と言っているかのようだった。ラインツも『こっちだって逃がすものか』という気持ちで睨み返す。狩人の眼光が僅かに細められた。


「ようやく私を見たな、異国の剣士よ」


 向かいに立つリュディガーが静かに呼び掛ける。


「強いあなたと闘って、改めて師匠の言葉を思い出しました。あと……俺の名前、ラインツェールトっていいます」


 話し掛けられるとは思ってもみなかったラインツは、アレックスの言付けを無視し、ついいつものラインツとして応えてしまった。


「ふむ。聞いていた話とは違うようだが、まあよい。闘うことに変わらん」


 リュディガーは二度瞬きをし、一人納得したように頷く。そして首をかしげるラインツを見て再び口を開く。


「気にするな。君はただ私と全力で闘えばよい」


 弓を引き絞る音が響く。


「じゃあ、全力でいきます!」


 そこからのラインツはよりいっそう剣技のキレを上げた。対するリュディガーも容赦なく攻める。立て続けに射られる矢はすべて的確に急所を突いている。その矢一つ一つに決死の覚悟で真正面から受けて剣で払い落とし、近くに落ちたものを踵で踏み潰して折っていく。三本目の矢に左足を上げた瞬間、胸元に火が点いたのような痛みが広がった。


「う、ぐう……」


 ラインツの視線が矢に向いている隙を狙われたのだ。反撃する間もなく畳み掛けられる。それでもだんだん射られるタイミングを掴めてきていた。矢を番えるときに弦を引き絞る音、矢が放たれた直後に弦が弓に当たって鳴る高い音、矢が空を斬って向かってくる音、微かに聴こえるリュディガーの息を吐く音、そのすべてに集中させて攻撃を回避しつつ、地面の矢を踏みつけ壊してゆく。


 しばらくリュディガーへ攻めず落ちた矢に次々と飛び付くラインツを訝しむ観客達だったが、いち早く気づいた実況によって、疑問の唸り声はブーイングに変わった。


『おおっこれは、相手の武器をわざと破壊して戦えなくさせるつもりだ! 単純で卑怯だが効果的な戦法だ! リュディガー氏はどう対抗するのかー!』


 苛立つ会場の中、狩人はいたって冷静だった。呼吸の乱れは一切ない。一流の武人は決して慌てない。彼にはどんな状況でも常に相手を倒す手段を考え、その技量を以てして幾度も勝利を掴んできた。

 飄々とした狩人に、ラインツは額に汗を滲ませる。


「これだけの数射っているのに疲れていないどころか隙を一切見せない。やっぱりすごいな」


 左肩と胸に受けた矢によって体力の消耗が激しいラインツは、鳩尾に垂れてきた血汗を胸ぐらを掴み乱暴に拭った。


「痛った!」


 拭っても拭っても止まらない体液で服が身体に貼り付き彼の集中力を欠く。勝負は依然としてリュディガーが優勢である。


 動き回りながらリュディガーに近づき力業で押しきる。彼より身体の大きいラインツは筋力に自信があった。

 矢を番えようとするが弦を引く前に剣を振り下ろす。弓と剣がガツンッと音をたててぶつかり双方の動きを止める。リュディガーは番えていた矢を捨て左腕を掴み両腕で弓を支える。ここで攻めるしかない。


「らああ!」


 剣で押される弓が折れそうになり、耳障りな音が響き弓が歪む。しかしリュディガーは倒れない。彼の腕力はラインツの予想を上回っていた。太く逞しい右腕とがっしりとした下半身で不利な姿勢ながらもしっかり踏ん張っている。


「くっ……」


 一旦下がり、剣を構え直す。度重なる矢の攻撃で刃が削られるがお構いなしに攻め込む。剣にヒビが入ってゆくのを目のあたりにし焦りが生じる。


「このままだと剣が、……でもやるしかない!」


 なんとか接近戦に持ち込んだラインツだったが、とうとう剣が耐えきれず細かな破片を飛び散らしながら二つに折れた。だがここで諦めるわけにはいかない。剣を捨て、勢いよく頭から相手に突っ込んだ。たとえ剣がなくとも彼には一対の鋭い()がある。


「っ!!?」


 突然のラインツの頭突きにリュディガーの驚く顔が視界に入る。続いて二度目の頭突き。一旦頭を振りかぶり、思いっきり角をリュディガーの顔目掛けて突いた。

 ガンッと硬い音が響く。


「……っつう!」


 硬い角に打たれたリュディガーの額から血が流れ出る。ふらつきながらもなんとか意識を保っている。


「剣ではなく、(ツノ)とは……!」

「まだだ! くらええ!」


 避けようとするリュディガーをラインツは頭を振って弓を払い落としさらに彼を引きずり倒す。ドシャッと大きく音をたて派手に倒れたところを先ほど折れて放った剣を拾い、急所に狙いを定めた。


「降参だ」


 馬乗りになりとどめを刺そうとするラインツの手がとまる。


『しょ、勝者、アルム・ガイスト! 準々決勝第一試合目、東方のアルム・ガイストの勝利!』


 一瞬の沈黙の後、場内はどよめきに変わる。優勝候補だったリュディガーの降参に驚愕する者、武術ではなく獣じみたラインツの闘いに不満のある者、目の前の光景を受け入れられない者達等で観覧席は混雑してる。


 立ち上がり、血と汗でべたつく手を服で拭いリュディガーに差し出すと堅くて大きな手が掴んだ。


「久しぶりに楽しめた。少々獣じみていたが、いい試合だった」

「こちらこそ。剣で敵わなかったのが悔しい……とても強かった」


 この試合、双方始めて笑顔で顔を合わせる。ふとリュディガーはラインツの純真な笑顔に気になっていたことを聞いた。


「ところで、君は彼が言っていたような人物とは大分違うようだが、本当に殺人犯なのか?」

「え? 誰がそんなこと……ああ、アレックスの言うことはたぶん嘘だと思います。俺はコルンブルーの一員ですよ」


 リュディガーは顎にさすり、目を細める。


「なるほど、あの食えない男の……モーリス殿も面倒な友人を持ったものだ」

「……あの、頭の傷大丈夫ですか?」

「問題ない。それよりもうすぐ次の試合が始まる。準決勝まで休むといい」


 ラインツは素直に頷き競技場から出た。



 準々決勝、残りの三試合も滞りなく終わり、準決勝前の観覧席では優勝者を当てる賭けで盛り上がっていた。ガヤガヤと騒ぐ男たちを尻目に売り子に精を出すミアは、予想以上の忙しさにもはや売り子になりきったほうが楽ではないか思い始めていた。


「お兄さん方、フォグはどう? 今ならもう一つおまけするよ!」

「姉ちゃん、こっち! 俺とこいつのぶん!」

「はーい!」


 二人組の男がフォグを食べながら会話をする。


「なあなな、準決勝どいつとどいつが勝つと思う?」

「んあ? お前賭けないんじゃあなかったか?」

「いやちょっと気になって……今年はいつもと少し違うしよお」

「ふうーん……準決勝に進むのはアルム・ガイスト、クク、ノインフンダート・ノインツィヒ・ツェットコダック、アイス・ハーゲンの四人だったな」


 まずはアルム・ガイスト。教会の本で見た悪魔そっくりだし、剣が敵わないから頭突きとかふざけてる。いくら強くてもこいつはねーな。

 次にククって若い娘。ちょっと気が強そうだがモルゲンシュテルンを振り回す様はギャップがあっていい。よく見りゃ可愛い。それにアーノルド卿の剣闘士だ、賭ける価値は十分にある。

 そしてツェットコダックの六男坊。まだガキだがけっこうやりそう。イロモノとして賭けるのも一興。

 んで庶民の俺でも知っているアイス。彼は剣闘士としてはそこそこの実力だと思う。あくまで評判だがな、まあ妥当じゃね? 強いて言うと女かアイスだ。例年に比べると、準決勝でアーノルド卿の剣闘士が一人しか残っていないのが珍しいが、その代わり新人が多い。久しぶりに面白い試合が見れそうだ。


 男は友人の解説を適当に聞き流しながら咀嚼していたフォグを飲み込んで応える。


「おまえ知識をひけらかすときだけ饒舌になるよな」

「聞いてきたのはそっちだろ!」

「いやすまねえ、あんがとよ、ほい」

「それ俺のぶんのおまけ」



 しばらくの後、場内放送で準決勝の対戦者名が発表された。第一試合はクク対アイス・ハーゲン。第二試合はアルム・ガイスト対ノインフンダート・ノインツィヒ・ツェットコダックであると。 

剣士と言ってよいのかわからない力技(角で殴る)で勝ったラインツですが、心の靄が晴れて良い試合になりました。

次回の更新は明日の0時です。一章と二章の間にレイヴン視点の話が入ります。二話ぶん投稿したら最新話に戻ります。

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