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*プロローグ*
『龍ちゃん』 あたしが言う。
『愛してる』 彼が言う。
このやりとりも、これが最後。
『忘れんなよ、俺のこと』 彼がいつものように冗談交じりに言うと、あたしも微笑んで頷いた。
微笑みが引きつっているのが分かった。握りしめられていた手も、本当は震えていた。だけど、彼に悲しみを悟られるのだけは絶対に嫌だった。
――だってあたしは、幸せだったんだから。
玄関の厚い扉を開き、外に出た。真夏の湿り気がじんわりと肌を包む。蝉たちの楽しそうな合唱に、あたしの心は突き刺されたように痛んだ。
『忘れられるわけないじゃない……』
苦し紛れに吐いた弱音は、閉まった扉の向こうにはもう届かない。
いつかはこういう日が来ると分かっていた。分かってたはずなのに、どうしてこんなにも辛いんだろう。
どうしてこんなにも、彼を求めてしまうんだろう。
彼はもう、あたしのものじゃなくなったのに。
あれからもう、5年も経つんだね。
ねぇ、龍ちゃん?
――まだ、愛しています。




