CARD42
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「よろしくお願いします」
互いのサーヴァントが公開される。
当然、俺のサーヴァントは<ゴブリンの指導者>だ。
一方、貴文のサーヴァントは<ろくでなしの傭兵隊長>だった。
もちろん貴文がまったくの地雷デッキを持ち込んでくる可能性は高かった。だが、誰が<ろくでなしの傭兵隊長>をこの大舞台で使用すると予想できただろう。
【ろくでなし】は、【ゴブリン】と同じサモンアーツを多用するデッキだ。つまり【ろくでなし】には、環境トップデッキである【ゴブリン】に対するメタ(=対策)が同じように効いてしまう。
にもかかわらず、デッキパワーで【ゴブリン】を大幅に下回る【ろくでなし】を使うのは、愚の骨頂――それが普通のプレーヤーの考え方だ。
だが、常勝の彼には見えている。他の人達にはわからない、【ろくでなし】デッキに秘められた強さが彼には見えているのだ。
先行は貴文。だが先に動くのは俺だ。
「発動、<繁盛する酒場>」
対【ゴブリン】に対する強力なメタカード。これから三ターンの間、相手が召喚アーツを唱えるたびにワンドローできる。もちろん【ろくでなしの傭兵部隊】デッキに対しても、強力な抑止力になる――通常は。
だが、
「<ろくでなしの傭兵隊長>、効果発動」
効果でデッキから二枚の<ろくでなし>召喚アーツを手札に加える。これだけみれば二枚のアド。だが、俺が発動した<繁盛する酒場>の効果が及ぶ間、貴文がサモンアーツを詠唱するたびに俺もアドを稼いでいくことになる。つまり、<ろくでなし>カードをいくら手札に加えても、それを迂闊に使えば、どんどん俺が有利になっていく。
だから貴文はそう簡単に召喚を行えない――はずなのだ。普通は。
だが、
「詠唱、<ろくでなしの勧誘兵>」
貴文はなんのためらいもなく召喚アーツを使った。そしてさらに、
「<ろくでなしの勧誘兵>効果発動」
この効果で、デッキからさらに「ろくでなし」カードを追加召喚。この時点で優輝が二枚ドロー。さらに貴文は先ほど引いてきた「元エリートのろくでなし」を召喚。俺はさらに追加で一枚ドロー。
これでは、ただでさえ速攻が得意な【ゴブリン】の猛攻に拍車をかけてしまう。このままいけば貴文のライフは四ターン後には削りきれるはずだ
そのまま貴文はターンを終了。
俺がカードをドローして、ゴブリンを展開し始める。一挙に三枚のゴブリンカードを詠唱し、そのまま攻撃。貴文の「ろくでなし」たちを一掃してターンを返す。
貴文は<ろくでなしの傭兵隊長>のサーチ効果でデッキからさらに二枚の<ろくでなし>カードをサーチ。そのまま召喚する。これで俺はさらに二枚をドロー。
そして貴文はさらに常識外れのカードを発動した。
「<復活の代償>を発動。対象は墓地の<ろくでなしの勧誘兵>」
<復活の代償>
相手は3枚カードをドローする。自分は墓地の召喚アーツを1枚手札に加える。この効果で加えたカードと同名のアーツの詠唱時間は0になる。
効果自体は強いカードだ。どんなに重たいモンスターであっても復活させられる。
だが、その代償はあまりに大きい。相手に三枚ものカードを与えてしまうのはあまりにも致命的だ。そして三枚ものアドバンテージを与えてまでモンスターを復活させたい状況は早々無い。
まして相手が<繁盛する酒場>を発動している状況で、貴文は<ろくでなしの勧誘兵>を復活させようと言うのだ。
<ろくでなしの勧誘兵>は召喚することで追加の召喚を行えるカード。つまりこの状況では、俺にさらにドローさせるだけなのだ。
「手札に加えた<ろくでなしの勧誘兵>を召喚。そしてさらにその効果でデッキから<ろくでなしの元エリート兵>召喚」
<復活の代償>で三枚。<繁盛する酒場>の効果で四枚。俺はこのターンだけで七枚ものカードを引いている。
そして貴文がさらに衝撃的なカードを発動する。
「発動、<墓地からの呼び声>」
お互いのデッキから五枚のカードを墓地へ送るアーツ。典型的なデッキ破壊カード――そう、彼のデッキは【ライブラリーアウト】なのだ。
環境は【ゴブリン】一色。だからプレーヤーたちは、サモンメタである<繁盛する酒場>を必ずスタハンに採用する。
<繁盛する酒場>は相手が召喚アーツを詠唱するたびにドローするカード。そして、その効果は強制で発動する。つまり、発動したプレーヤーは、相手が召喚するたびにカードを引かなければ<ならない>。
その強制効果を逆手に取って、<ろくでなしの傭兵隊長>の効果で、召喚アーツをサーチし続け、詠唱繰り返すことで、相手にドローし続けさせる。
さらに<復活の代償>などを使って相手にドローさせ、ライブラリーを削っていく。
この環境でしか、だが逆にこの環境では無類の強さを誇る【ライブラリーアウト】なのだ。
だが、パワーの有る【ゴブリン】相手にこれだけドローさせてしまえば、確実に最速の四ターンでライフがゼロになってしまうじゃないか……普通はそう考える。
だが、逆に言えば、四ターンは生き延びられるのだ。【ゴブリン】側が、どんな組み合わせで展開してきても、四ターンは持つ。その間に相手をライブラリーアウトに追い込む。
【ゴブリン】側は、むしろ早く相手を倒そうとすればするするほど、早くライブラリーアウトになるのだ。【ゴブリン】デッキは「召喚」アーツ抜きでは勝てないからだ。
逆に、【ゴブリン】側が展開を躊躇した場合は、長期戦を得意とする【ろくでなし傭兵部隊】が有利になる。
環境トップが一強状態にあり、そのメタもまた一つに限られているという状態を逆手に取ったのだ。
貴文が完璧に計算し尽くして作り上げた戦略。メタゲームを完全に掌握して絶対的な勝利を手にする。これが貴文という、日本一の高校生プレーヤーの力。
「僕は<ろくでなしの騎兵>を詠唱」
<酒場>の効果で俺はカードをさらにドロー。そして、それは俺にとって最後のドロー。
――これで俺のデッキはゼロになった。
「僕のターンは終了だ」
貴文のそれは、まるで死刑宣告のような重みを持っていた。後は、俺のターンになり、ドローすることができず敗北するだけ――
「貴文」
思わず笑みがこぼれてしまう。
「どうした、優輝。君のターンだぞ」
「いや、お前のターンはまだ終わってないよ」
「なに?」
そう、まだ貴文がターンの終了を“宣言”しただけなのだ。それに対して、俺は何かカードを発動するチャンスが与えられる。だから、まだ俺のターンにはならないのだ。
「貴文、お前はメタゲームを制する天才だ。環境を支配するデッキに対する最善の回答を、必ず見つけ出す」
もう幕張にはいけない。夢敗れた、この状況で、しかし俺はそんなこと全て忘れて、胸の内側から、あのぞくぞくが湧き上がってくるのを感じる。
「お前の手は読んでた」
そう、相手の完璧な作戦を読み切ったときの、あの感覚だ。
「今のドローで、俺の手札はちょうど五枚になった」
この時を、俺はずっと待っていた。伏せてあったカードを発動する。
<強者の傲慢>
このカードはデュエル開始から3ターン発動できない。
相手か自分の手札が5枚以上ある場合に発動できる。相手のサーヴァントに5点のダメージを与える。
それは、ただ白川貴文に勝つためだけに投入したカードだ。
手札が五枚という、極めて珍しい状況下においてのみ大火力を発揮するカード。貴文が【ライブラリーアウト】を使ってくると読んで、直前にその対策のためだけに投入したのだ。
これでちょうど貴文のライフはゼロになった。
あの貴文に、俺は再び勝利したのだ。
もちろん、チームとしては敗北している以上、真に勝ったとは言えない。ただの自己満足だ。でも、これから俺はこれからこの勝利にすがっていくのだろう。
「貴文」
俺は彼に宣言する。
「来年こそ、俺達が勝つ」
俺は、疲れが混じった半笑いを浮かべてそう宣言した。
それに対して、貴文は、
「もう絶対に負けない」
とだけ言い残して席を立った。
「優輝、スゴい」
姉ヶ崎にそう言われる。
「ありがとう、姉ヶ崎。お前のおかげでまた貴文に勝てた」
彼女の頑張りがなければ、俺は貴文の戦略を見破ることはできなかっただろう。
「それと。今言うことじゃないかもしれないですけど」
やっぱ、デュエルって楽しいですね。俺は二人に向かってそう言った。
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