CARD41
◇
桜華院高校の一人目は、古河というメガネのおとなしそうな女の子。
「よろしくお願いします」
彼女のサーヴァントは【ゴブリン】ではなかった。
デッキは【バーン】だ。サーヴァントやモンスターの攻撃ではなく、カードの効果ダメージによって相手のライフを削り取るデッキタイプ。
姉ヶ崎が一生懸命練習を積み重ねてきたのは間違いない。だが、彼女が経験してきたのは、現環境最強の【ゴブリン】デッキを使って、【ゴブリン】デッキと戦うことだけだ。
【ゴブリン】デッキを相手にする場合の戦い方は死ぬほど練習してきたが、それ以外のデッキは彼女にとってほぼ初見なのだ。
露骨に、経験の差がでてしまう。姉ヶ崎は的確な対処が出来ず、ズルズルとライフを削られていく。
そのまま押し切られてしまう。
「負けです……」
姉ヶ崎はまたその悲痛な顔を浮かべながら謝った。
「ごめんなさい」
「仕方ない。これは準備の時点で、俺たちの完敗だよ」
確かに、姉ヶ崎の経験不足は敗北の一因だ。
だが、一方でこの環境において、【バーン】が強いということは、気が付いていなければいけなかった。そして事前に【バーン】がここまで強いと気が付いていれば、姉ヶ崎に【バーン】の対策を教え込むこともできたのだはずなのだ。
カードゲームは、事前の準備が八割。やはり、今日ここに来た時点で、貴文たちと俺たちの間には、大きな溝があったのだ。そしてそれを埋めることはできていない。そこは認めざるを得ない。
でも、それでも、今はわずかな可能性に賭けるしかない。
「先輩、大丈夫ですか」
「だいぶマシになったよ」
決して全快、なんてことはない。けれど、目だけはまっすぐと前を見据えていた。
「いいのか、桜木。俺が戦って勝ってきてやってもいいんだぜ?」
影山先輩はそう言う。だが、桜木先輩は首を横に振る。
「あたし、戦いたい」
「そっか。ならまぁ頑張れよ」
桜木先輩の体調は決して万全ではない。だが、それでもその瞳には再び投資が宿っていた。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
お互いサーヴァントを公開する。
相手のサーヴァントは<古の封印者>だった。
【メタビート】!?
【メタビート】とは、相手の動きを徹底的に妨害して思うような動きをさせないデッキのことだ。確かに、今の環境のように、一つのデッキが圧倒的に強い環境では【メタビート】が活躍する余地がある。
<古の封印者>は、相手のサーチを封じる効果を持っている。これによって、【ゴブリン】は得意のサーチによるアドバンテージ獲得を封じられる。
【ゴブリン】は、アドバンテージ獲得を前提に組まれたデッキ。物量で押し切るのが戦術だ。それゆえ、一枚一枚のカードパワーはさほど強くない。
こうして、サーチを封じられてしまうと、すぐにジリ貧に陥るのだ。
ハマったときの【メタビート】には手が出せない。そして、今がそれだ。先輩は文字通り、身動き一つとれない。
デュエルが進めば進むほど、このデッキがどれだけよく練られているかがわかる。俺たちが見向きもしなかったカードたちが、今スポットライトを浴びている。
「……負けです」
先輩は消え入りそうな声で言った。拳を握りしめ、瞳をとじて、そして現実をなんとか受け入れようと、でも受け入れられず、先輩はうつむいていた。
――終わった。
これで俺たちの幕張への道は完全に閉ざされたのだ。
「どうしますか?」
ジャッジが俺に尋ねる。
チームメイトが二敗した後、三人目の選手には、選択肢が二つ与えられる。
一つは、そのまま会場を後にすることだ。この場合、記録上敗北として記録されない。
もう一つは、このまま試合を続けることだ。もちろん勝ってもチームの敗北はひっくり返せないが、少なくとも公式戦の白星を一つ増やすことができる。
俺は、やつの顔を見た。貴文は無表情だった。そう、あの君には興味がないという、冷徹な帝王の目線。それを見て彼の一言がフラッシュバックする。
――残念だよ。
もう幕張への道は閉ざされた。だが、せめて、
「貴文、勝負だ」
誰のためでもない。自分自身のために、俺は貴文に勝つ。
◇




