CARD35
◇
気が付くと、カーテンの隙間から日が差し込んでいた。
「やべぇ……」
関東大会当日だというのに、一睡もできなかった。
一晩中、いや、この一週間ずっと、俺は貴文に勝つことだけを考え続けた。あらゆる可能性を模索した。
だが結局、答えを導き出すことはできなかった。天才、白川貴文がいったいどんな手を打ってくるのか。彼は必ず、誰も思いつかない必勝の戦略を立ててくる。それがわからなければ俺たちに勝機はない。
先輩に宣言をしてしまった。必ず勝って見せると。だが、今のところ彼に勝つ見込みは限りなくゼロに近い。
大会は朝八時から。せめて三十分でも寝たほうがいいかと思ったが、結局起きることにした。眠れる気配はないし、逆に寝てしまったらそれこそ起きれないかもしれない。TCG界で俗にいう“ゼロ回戦敗退”なんて事態になったら最悪すぎる。
「おはよう」
下の階に降りていくと、既に妹が朝食を食べていた。さすがスケーターの朝は早い。
「どうしたの、朝早くに珍しい」
逆に、俺がこの時間に起きているのは珍しい。
「ああ、ちょっと今日大会で」
「ふーん」
適当にトーストを焼いて、席に着く。食べている間も、スマホで何か試合に役に立つ情報がないか探し続ける。
「ごちそうさま」
頭をスッキリさせるためにシャワーを浴びてから家を出る。
会場へ向かう電車の中でも考え続けた。俺たちの【ゴブリン】デッキはこれ以上改善の余地がないように思ってしまう。おそらく貴文でもこれ以上のデッキは作れない気がした。
だから【ゴブリン】以外のデッキを模索する。新弾のカードリストを隅から隅まで確認して、過去のカードと強いシナジーを発揮するようなカードがないか、検討していく。
だが、既に発見されているコンボ以上のものは何一つ発見できなかった。
会場となる東京の高校の最寄り駅に、一番乗りで到着し、先輩たちを待つ時間も思考をめぐらせる。
「おはよ、優輝くん」
待ち合わせ場所に現れた先輩は、ひどく険しい表情をしていた。
「先輩、大丈夫ですか。気分悪いんですか」
俺が聞くと、先輩は慌てたように両手を振って否定する。
「ぜんぜん大丈夫だよ~。昨日興奮して眠れなくて」
「俺も実は一睡もしてなくて」
それからすぐに姉ヶ崎もやってきた。
「おはようございますー」
「おはよ。じゃぁ行こうか」
会場の高校に着くと、案内板が出ていた。それに従って、校舎に入って、会場となる大部屋に入る。
流石は県大会を勝ち抜いてきた強者が集う関東大会。部屋には全国的に有名なプレーヤーが集っていた。その中には、もちろん彼の姿もある。
白河貴文。その姿を見た瞬間、フラッシュバックする彼の言葉。
――残念だよ。
ダメだ。このままでは、こないだと同じ結果が待っている。
もう何度も見直したデッキリスト。完璧な【ゴブリン】デッキだ。その自信はある。だが、貴文の頭のなかにもこのデッキはあるはずなのだ。
彼は天才だ。常人が考える“完璧”は絶対に超えてくる。だとしたらどうやって? 彼はこのデッキをどうやって超えてくる?
「先輩、受付に行くのちょっと待ってもらっていいですか」
「まだデッキを変えるってこと?」
「ギリギリまで悩みたいんです」
「うん、わかった」
考えろ。別に貴文と俺たちで使えるカードプールが違うわけじゃないし、初期手札の枚数も同じなのだ。少なくともデッキ構築の段階では、俺達はまったく平等なはず。彼にできることは、俺にだってできる。
考えろ。どうすれば、やつが繰り出す、完璧を超える完璧をさらに超えられる。
そして、無常にもタイムリミットはやってきた。
「そろそろデッキリスト提出しにいかないと」
◇




