CARD20
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夕方になり、一同疲れてきたところで、俺たちは君津総合の面子と分かれて、宿に戻った。
素泊まりプランなので食事は出ない。なので島に一軒しかない居酒屋に向かう。どのメニューもなかなかの値段だが、ほかに選択肢がないので仕方がない。
「それにしても、君津総合校の人たち、本当に強かったですね」
ギャル子が空になったお皿に視線を落としたまま言った。
あれから全員十戦前後ゲームをしたが、俺たちは全員負け越している。
「あの人たちに勝てるようにならないといけないんですよね」
今日の試合で、ギャル子は結局一回も勝つことができなかった。そのことで本人はかなりプレッシャーを感じているようだ。
「あの人たちは県内でも特別だから。トリッキーなデッキを相手にするのは、強い人でも難しいいんだよ」と先輩がフォローする。「ギャル子ちゃんも環境デッキ相手にはかなりいい試合ができるようになってきてるから。焦らずにいこう」
「はい、がんばります」
「そうだな。ああいう相手もいるってのは知っておいて損はないけど、まずはゴブリン相手に戦うことになれないとな」
「明日は三人でゴブリン対決しよ」
「はい!」
「じゃ、とりあえずシャワー浴びようか」
風呂場は一つしかないので、同時に入れない。
「じゃぁ、女子先にどうぞ」
俺が譲ると、
「晴夏ちゃん先どうぞ」
先輩も譲った。
「え、いいんですか」
「うん。どうぞどうぞ」
「じゃぁ、すみません」
自分の部屋に戻って、スマホで時間をつぶす。しばらくすると階段を上がる音がして、「お先に入らせてもらいましたー」というギャル子の声が聞こえた。
その後また十分ほどして、お風呂終えた先輩が俺の部屋に来る。
先輩はTシャツ姿だった。肩に透けたブラのひもを思わず凝視してしまう。
「優輝君、お先にー」
「あ、はい」
風呂に行くと、ふんわりとシャンプーのにおいが漂っていた。シャワーもイスも桶も一つしかない。ということは、さっきまで先輩ここに座ってシャワー浴びていたのだ。そう思うと、なんだか妙に得をした気分になった。
手短にシャワーを済ませて、風呂場を出る。服を着て部屋に戻ろうとすると、ちょうど先輩も階段を上ろうとしていた。
「今宿の人に聞いたんだけど、展望台で星がきれいにみえるんだって」
「確かに、田舎だし絶対星綺麗ですよね」
「見にいかない?」
「ぜひいきましょ」
ギャルを呼ぶために先輩の部屋に入ると、彼女はは爆睡していた。
「晴夏ちゃーん、星見に行かない?」
先輩が声をかけるも、目を開ける様子はない。代わりに寝言が出てくる。
「んー無理だよ」
でた。
「んーいくら熱帯魚でも泳げないよ」
どうやら夢の中で魚になっているようだ。しかも泳げないらしい。
「んー温泉の中は泳げないよ」
そりゃ、泳げないだろう。
「でも頑張る……」
やっぱり頑張るんだ。
「起こすのも可哀想だよね。まあ、明日も晴れらしいし、とりあえず今日は私たちだけでいっちゃおうか」
それは、むしろ好都合だった。先輩と二人きりになれる絶好のチャンス。俺はギャル子の寝起きの悪さに感謝した。
俺と先輩は二人で並んで、夜の島へ繰り出す。
「感動したいから、上に行くまで空は見ないことにしよう」
先輩が提案した。
「了解です」
あたりは静まり返っていた。誰もいない田舎道を、先輩と二人きりで歩く。
「風、気持ちいいですね」
「うん、気持ちいいね」
道路にはポツンポツンと外套があるが、展望台のふもとまで来るとそれ以降、明かりはなかった。
階段を、スマホの懐中電灯機能を頼りに上っていく。
都会と違って夜景はない。スマホで照らされた足元だけを見ながら階段を登っていく。
正直普段引きこもりの俺には、この階段はキツい。
ようやく、頂上が見えてくる。
「はあ」
俺は大きく息を吐きだした。
「もう、優輝くん体力なさすぎ」
先輩が俺を見て笑った。
「すみません」
せっかくシャワーを浴びたのに、汗だくだ。
「じゃあ、せーので上見よう」
「はい」
「せーの」
その瞬間、息を呑んだ。
夜空は黒いもの。都会育ちの俺達はそう思っていた。
でも、島の空は白い。無数の星が光り輝いている。東京ではありえない、ひっきりなしに見える流れ星。今日だけで一生分の流れ星を見ている気がする。
先輩は、ベンチに寝転がった。俺も、隣のベンチに同じように寝転ぶ。
星空と海風だけの世界。
「流れ星って、もっと貴重なものかと思ってたよ」
「願い事し放題ですね」
すると先輩は、空を仰ぎ見ながら、
「県大会で手札事故を起こしませんように!」
そんなことを星に祈った。
「なんですかその願い事」
「どんなに完璧にデッキを作り上げても、カードゲームである以上事故だけはどうしようもないからね」
「せっかくなんだから“勝てますように”でいいじゃないですか」
「神様に与えられた勝ちになんて、なんの意味もないから」
運で負けるのも嫌だが、運で勝つのも嫌なのだ。先輩はただ勝ちたいのではない。自分の力でもって、それをつかみ取りたいのだ。
そんな先輩の言葉を聞いて、なんだか、柄にもなく、宣言したくなった。
「俺、貴文に勝ちます」
なんの根拠もないけど、勝てる気がした。雄大な自然の中で気が大きくなっていたのは間違いない。でも、それを差し引いても、今の俺なら勝てる気がした。
「先輩を絶対、幕張に連れて行きます」
「ありがとう」
星のあかりに照らされた先輩の顔。
いい雰囲気だ。
なんだか。今が絶好のチャンスに思えたのだ。後先なんて考えてない。
「俺、先輩の――」
ことが好きなんです。
だが、その言葉は、突然の音に遮られた。
「あ、晴夏ちゃんだ」
先輩の携帯がブルブル震えて着信を知らせていた。
「もしもし?」
『先輩ーどこですかー』
ギャル子の声が聞こえてくる。
どうやら、起きたら自分一人だけで、焦ったようだ。
「いま展望台だよ。晴夏ちゃん寝てたから」
「おいてかないでくださいよー」
「ごめんこめん、今帰る」
そういって先輩は電話を切った。
「とりあえず帰ろっか」
先輩が笑いながらいった。
「はい」
急に体がだるくなった。思いっきりパンチしようとして空振りした感じだ。
だが、考えてみればこれでよかったのかもしれない。告白なんてして、それこそ振られでもしたら、気まずすぎる。
◇




