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第07話:記憶喪失

「聡! 起きなさい!」

 姉が寝ていた俺を起こした。

 時計を見ると、五時半だった。

「今、電話があってね、加賀美先輩が病院へ運ばれたって」

「何!? どこだ!」

「新宿総合病院よ。なんでも寝てるときに襲われたらしいわよ。幸い、ご両親が気付いて命は助かったみたいだけど」

 迂闊だった。両親がいるから安心して帰ってきたが、まさかこうなるとは。

 俺は病院へ急いだ。

 病室に入ると、頭に包帯を巻いた加賀美先輩が、両親と思しき男女と話をしていた。

「健さん!」

 振り返る加賀美先輩。

「えっと……君は?」

「へ?」

 訳がわからなかった。

 加賀美先輩の記憶から、俺の存在がなくなっていた。

 頭を殴られて記憶を失ったのだろうか……。

「坂上 聡美です」

「……ごめん、わからない。自分の名前しか」

 俺はその場に崩れた。

「健さん、私ですよ。あなたの恋人の」

「……………………」

 加賀美先輩の母親が口を開く。

「坂上さん、今は健はこんな状態だから、今日のところは帰ってくれるかしら? 記憶が戻ったら絶対教えるから」

「でも、健さんには私がついていないと。私の目の届かないところで暴漢に襲われないとも限らないから」

「大丈夫だから。ここは病院なのよ。いくら暴漢でもそんなことはしないと思うけど」

「側にいさせて下さい!」

「そこまで言うなら……」

 母親が父親を見る。

「君が守ってくれると心強い。健を頼むよ」

 俺は加賀美先輩を付きっ切りで看病することにした。

「じゃ、頼むわね」

 両親は帰っていった。

「健さん、何かある? なんでも言って下さいね」

「うーん……」

「私、ちょっとトイレ行ってきますね」

 俺はトイレへ向かう。

 先ほどからお腹が痛かった。

 トイレで大便をすると、紙でお尻を拭き、水を流して洗面台で手を洗い、病室に戻る。

「聡美……さんだっけ?」

「はい」

「君は本当に俺の彼女なの?」

「そうですよ」

「君みたいな可愛い子がなびくとは思えないけど」

「そんなことないですよ。健さん、イケメンですし。私、健さんのこと本気で好きですわ」

「本当に。ありがとう」

「健さん、歩けますか?」

「うん」

「それじゃ、デイルーム行きましょう?」

「ああ」

 俺と加賀美先輩はデイルームへ移動した。

「なんか飲みますか?」

「そうだね……」

 加賀美先輩が自販機を見詰めながら考える。

「これがいい」

 コーヒーを指差す加賀美先輩。

 俺はお金を入れてコーヒーを買った。ついでに自分のも。

「退院したらお金返すね」

「いいですよ、そんなの」

「そう」

 加賀美先輩は缶を開けて中身を口に含んだ。

 俺はテレビを点けた。

 ニュースに俺の本来の顔写真が映ってる。

 内容は、踏切で立ち往生したお年寄りを救出中に電車に撥ねられ亡くなったと言うもの。

 轢かれた聡美は、すぐさま病院へ運ばれたが、間も無く死亡したとのことだった。

「え……」

「どうしたの?」

「写真の男子、弟なんです」

「御愁傷様」

 本当だったら、死んだのは聡美ではなく、俺のはずだった。なのに、入れ替わったせいで、聡美が命を落とした。

 俺は悲しくて涙を零こぼした。

「弟のところ行ってきます」

 俺は聡美の元へ駆け付けた。

 聡美、なんでお前なんだ?

 神はなぜ俺から大切なものを奪うのだろう?

 俺は葬儀屋に連絡し、聡美を自宅へ連れ帰った。

「それじゃ、明日また来ますね」

 葬儀屋は帰って行った。

「聡美……!」

 その時だった。

 二人の体が光に包まれる。

「え」

 光に包まれたかと思うと、体が一つに重なった。

 光が消えると、俺は白銀の世界に意識が落ちた。

 目の前には聡美が立っている。

「私、死んじゃった」

「…………………」

「神様に私の体と聡の体、両方使えるように頼んでおいたわよ。祈れば入れ替わるはずよ。それじゃ」

 軽いノリで成仏して消え去る聡美。

 元の世界へ引き戻される俺。

「夢……だったのか?」

 男の声が出た。

「え?」

 俺は洗面所の鏡を見た。

「戻ってる!?」

 そういえば、祈れば変えられるって言ってたな。

 俺は聡美の体に変わるようお祈りをした。

 すると、光に包まれ、聡美の姿に変わった。

 俺は美香を電話で呼び出した。

 家へとやってくる美香。

「急用って何?」

「聡美が死んだ」

「え?」

「で、それより驚くのが……」

 俺は本来の体に戻った。

「……!?」

 驚き戸惑う美香。

「あ、あんた聡なの? て言うか今のは?」

「聡美が別れ際に残してくれたんだ」

「そうなんだ。葬儀はどうすんの?」

「遺体が無くなったからね」

 俺は聡美の姿になり、葬儀屋に電話。自分が息を吹き返したことを説明し、葬儀をキャンセルした。

 葬儀屋はとても驚いていた。

「あ!」

「どうしたの?」

「健さんのとこ戻らないと」

 俺は加賀美先輩の元へ戻るのだった。

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