第12話:転生
昨日の戦いで疲労困憊した俺は、熱を出して寝込んでいた。
健さんが俺を看病してくれている。
「俺は学校に行くけど、今日はゆっくりしてるんだよ」
「一人で行かせられません」
「でもこの状態じゃ君は。大丈夫、父さんがついて行ってくれるから。父さんは現役のSPだからね」
「SP?」
「特殊な戦闘訓練を積んだ要人警護の仕事をしてるんだ」
「そうですか。あれ? でも、健さんは財閥の跡取りだよね?」
「ああ、母さんがね」
「へえ」
「それじゃあ、行ってくるね」
健さんが俺の部屋から出て行く。
疲れていた俺は、眠ることにした。
夢を見た。
辺り一面、真っ白な世界。
亡くなった聡美が、俺の前に現れる。
「聡美……」
「私、生まれ変わることになったの」
「誰に?」
「加賀美先輩の妹」
確か、健さんの母は妊娠していた。
「名前、もう決めてあってね」
「どんな名前?」
「洋子って名前よ。生まれ変わったら、今までの記憶は全部消えちゃうけど、また一緒に暮らせるね」
「そうだな」
「聡は、加賀美先輩とは?」
「うまくやっていけてるよ」
「そっか。だけど、すごいよね」
「何が?」
「マナよ。そんなの初めて知ったわ」
「俺も賊に聞くまで知らなかった」
「生まれたら、マナの使い方、私に教えてね?」
「うん」
「それじゃあ、もう行くね」
聡美は光の粒子となって消えて行った。
目が覚める。
「うん?」
眠りから戻ると、熱は下がっていた。
「聡美くん」
健さんの父親が入って来た。
「あ、おじさま」
「熱は下がったかい?」
「はい、何とか」
「じゃあ、悪いんだけど、妻のいる産婦人科について来てくれないか? 積もる話もしたいからさ」
「わかりました」
俺はベッドから出た。
「着替えるから出てって」
「あ、ああ……」
父親が部屋から出て行く。
俺は大急ぎで着替えた。
リビングへ行き、父親に声をかけた。
「準備できました。行きましょう?」
俺は車に乗って父親と一緒に産婦人科へ向かう。
途中、こんな話をした。
「聡美くん、高校を出たらうちで働かないか?」
「おじさまの会社ってなんですか? SPって聞いたんだけど、警備員か何か?」
「軍隊だよ」
「待って。日本は戦争で負けてから軍隊を廃止したんじゃ?」
「それは表向きさ。裏では存続していたんだ」
「憲法違反じゃん」
「うちの軍隊はね、宇宙人による破壊活動や、要人警護など、幅広い面で活躍している、戦闘のプロフェッショナルが所属してるんだ」
「ちょっと待て!? 要人警護はわかったけど、宇宙人って?」
「最近、巷で怪物が現れるのは知ってるね?」
「ええ」
「怪物はテラ星から来た宇宙のならず者でね。防衛軍は秘密裏に戦っているんだ」
「あんなものを見てしまったからには、信じざるを得ないですけどね。奴らは地球外から来たんですか?」
「そうなんだよ。今は一人でも多く戦闘員を必要としていてね。よかったら君も。もちろん、健の警護を優先してもらうけど」
「そういえば、この間遭遇した時、奴らはコウノトリって組織っていっていたのですけど、ご存知ですか?」
「コウノトリ、か……」
「昔はただの宗教だったけど、今は星人に支配されてしまっていてね。教団の人たちは皆、洗脳され、体を改造されてしまったんだ。今、防衛軍はそのコウノトリを解体しようと、一生懸命に動いてるんだけど、これがなかなかね」
「おじさま?」
「なんだい?」
「おじさまも奴らとは?」
「臨時で戦う時もあるね。ただ、奴らは不思議な力を使うんだ。それがネックでね」
「光線や光弾とかを出すんですよね。見ましたよ」
「そうか。どんなトリックを使ってるかは知らないけど、煩わしいものだよ」
父親はマナの存在を知らないみたいだ。
「おじさま、話に夢中になってるとこ悪いんだけど、産婦人科過ぎましたよ?」
「あ!」
引き返す父親。
産婦人科の駐車スペースに車を止めて降り、院内に入った。
病室を訪ねると、母親の隣で女の赤ちゃんが眠っていた。
「さっき産まれたらしくてね。その場には居合わせられなかったんだけど、連絡もらって一緒に来てもらったんだ」
「この子が洋子ちゃんか」
「え?」
父親が疑問符を浮かべた。
「何で知ってるの? まだ誰にも言ってないのに」
「はは、なぜでしょうね」
母親が声に気づいて目を開けた。
「ああ、あなた。それに聡美さんも」
「おばさま、おめでとうございます」
「ありがとう。それで? あなた、赤ちゃんの名前は?」
「洋子にしようと思ってる」
「洋子。いい名前ね。この子もきっと気に入ると思うわ」
その時、赤ん坊の洋子が、目を覚まして泣き出した。
「オギャー、オギャー!」
俺は洋子を抱いた。
「ほれ、未来のお姉ちゃんですよー」
すると、洋子は安心したのか、泣き止んだ。
「洋子は聡美さんがお気に入りのようね」
そりゃ、前世は血の繋がった双子でしたから。
記憶にはなくても、心には残ってるってことか。
その時、俺のスマホが揺れた。
「ごめんね」
俺は洋子を母親に預け、病室を出て電話に応答した。
「聡美くん、助けて!」
電話の主は健さんだった。
「どうしたんですか?」
「学校のクラスメイトたちが怪物に! 今、人目のつかないところに隠れてるんだけど、とにかく速く来て!」
俺は病室にいる父親に言った。
「健さんが襲われてるみたいなので、これで失礼します!」
俺は健さんの元へ急いだ。
油断していた。
学校なら、人目につくし、奴らも襲ってこないだろうと思っていたが。
健さん、無事でいてくれよ!
俺は学校に急いだ。
飛ぶことに慣れていないので、陸路で向かう。
やがて学校に着くと、俺は目を疑った。
大勢の怪物が、校庭を走り回っている。
恐らく、健さんを探しているのだろう。
まずは奴らを駆逐してから、か。
俺は変身し、雑魚どもをあっという間に駆逐した。
「健さん!」
変身を解くのを忘れたまま、健さんを捜す。
「健さん、どこですか!?」
その声に、健さんが姿を現す。
「あなたは、この間の……」
俺は振り返る。
「あなたは、俺の味方ですか?」
俺は無言で頷いた。
「ボディーガードさんに聞いてね。助けに来たってわけ」
「聡美くんはどこにいるんだい?」
「ボディーガードさんは寝込んでるはずだよ」
「あの聡美くんが選んだ人物なんだ。あなたも相当の手練れなんですよね?」
「申し分ないくらいだな」
「あなたは、一体……?」
「俺は、ガーディアンナイトだ。ナイトと呼んでくれ」
「映画かなんかのロケじゃ……ないよね? クラスメイト本当に変身してたし」
「家まで送るよ」
俺は健さんを抱えると、空へ舞い上がった。
「と、飛んでる!? やっぱり本物のヒーロー?」
「それは内緒だ」
歓談しているうちに、加賀美家に着いた。
俺は健さんが家に入るのを見届けた後、窓から自室に入り、元の姿になって布団に入り込んだ。
「聡美くん!」
健さんが部屋に飛び込んで来た。
「彼をありがとう」
「へ?」
「ナイトを呼んだの、君なんでしょ? おかげで助かったよ」
「だから一緒にいたかったのに」
「体を壊した時は安静にしてるのが一番だよ。それに、君が壊れたら、誰が僕を守るんだい?」
「健さん……」
俺を労う健さんにきゅんっとした。
健さんが俺の額に手を当てた。
「うん、熱は下がってるね」
「体だけは頑丈なんで」
あ!──俺は思い出したように声を荒げた。
「妹さんが産まれましたよ。さっきおじさまが産婦人科へ行きました」
「そうなんだ。妹、か。誰に似るのかな」
「成長が楽しみですね」