第50話 異様の城
「厄ネタ確定じゃんこのクエスト! また皇都が更地になるってか!?」
「落ち着いてくださいお兄様……クエストの受注期限が30日後となっています。少なくともこの数日で皇都がどうこうなるということは無いはずです」
「プレイヤー間戦争させる気満々だし……皇帝側と反乱側ってとこだろうけど、絶対ろくなことにならんぞこれは」
デザバス時代にもこの類のクエストは存在した。奇しくも同じ皇都ミドラでのメインクエスト、『混迷の皇都』がその最たるもの。あの時は魔族との融和を図る皇帝派と、魔族滅ぼすべしに傾く第一皇子派で分かれ、最終的に第一皇子が新たな皇帝となったが、それに伴い、魔族からの侵攻が本格化するという流れだった。
「『アフター・グロー』全員にこのクエストが表示されていると仮定して、安易に受注しないように呼びかけないといけませんね。もしかするとギルド内で勢力の分裂が起こるかも」
「流石にそれは無いと信じたいが……多分。メイビー」
こういう時にノリで受注を押しそうなバレットがいることを思い出し、微妙に語尾から自信がなくなる。あいつなら押しかねないと思わせる前科がある。
慌てて船室から飛び出し、バレットが居るであろう見張り台へと駆け上がる。その途中ですれ違った面々には受注を保留するように伝える。同じ考えに至ったであろうゴドーが止めてくれていなければ、ミリンが受注するところだった。あっぶね。
「バレットは居るか! クエスト受注画面が出てるだろうが絶対に押すな!」
「んー? ああこれ。やっぱ押したらまずい奴だった?」
「……押したのか?」
「いいや、ギリまだ押してないよ。後数秒遅かったら押してたかも」
間一髪。とりあえず一番やばそうなところを抑えられた。少なくとも実際に皇都や人々の様子を見るまでは選択しないのがベターのはず。
これでもう勝手に受注しそうなメンバーはいないはず……。
「あれ、もしかして受けちゃダメだったー?」
下から声を届けたのは想定外の刺客。旅の道すがらであろうと、人を助けることに何の躊躇もない少女。ユークリッドが若干やらかしたのを察した顔で、こちらを見上げていた。
「いや本当にごめん……急に出てきたからつい反射的に……」
「まあ……気持ちは分かるが」
「私はユーが押したのを確認して押したからセーフ」
しょげているユークリッドの隣で、謎に誇らしげなカンナ。何をもってセーフだと思ったのか問いたい。とは言え2人の仲を考えると、別陣営を選ぶということは最初から選択肢になかったのだろう。
しかし『アフター・グロー』の中核メンバー2人が既に参加を決めてしまっているとなると、これは皇帝側に付かざるを得ないかもしれない。せめてまともな人物と国であってくれと願うばかりだ。
船室に集まった全員の顔を見渡す。案の定ヨルの姿は見えないが、乗船時には居たのでどこかにはいるはず。それ以外の面々、特にルーキーであるミリン、卯月、ヤミの表情は硬い。
無理もない話ではある。サイドクエストとは言え、いきなり国を割るような重大な案件を放り投げられているのだ。まだその国に着いてもいないのに付く側は決まっているようなものだし。
「どんなクエストなのかも分かってない以上、気にし過ぎても仕方ねえさ。俺たちは俺たちに出来ることをするだけだ。なあセツナ?」
「ゴドーの言う通りだ。過去のクエストを経験してきた身からすると、精々国の頭が丸々すげ代わるか、反乱の首謀者が討ち取られて一族郎党根絶やしかの差だ。俺たちに直接害があることはそこまでない」
「お兄様、倫理観が修羅の国になっています。その説明でビギナー3人の顔色が余計に青くなりました」
「なあカンナ。『四神連合』の会議ってこんなんだったのか」
「ほぼ銀星が仕切って進行してたから、私たちって基本挙手するかしないかだけだったんだよね。そもそも銀星に反対するって人も基本居なかったし」
「民主主義の皮を被った独裁じゃねえかよ……」
それで上手く回っていたのだから仕方がない。途中で会話の方向性がずれていった時も、レイダーさんかシンシアが修正してたし、そもそも会議に参加するつもりのない勢は、放っておいても銀星の側に付いていたから。
「そろそろ到着しますよ冒険者さま方。ミドラの運河に入りました」
船室の外からアルエットの声が届く。思っていたより早い。
扉を開けてデッキに出ると、見慣れた形の城が屹立している。記憶にある姿よりもさらに重厚に、刺々しくなった皇城ミドラガゥルが俺たちの船を見下ろしていた。
「いやこんなにデカかったっけあの城……」
「明らかに大きくなってるな……。魔改造建築として名高い、九龍城砦もかくやと言った感じの増築の仕方をしている……」
上へ上へと増築を繰り返し、バランスを保つための外殻を増築し、と言ったところだろうか。隣でゴドーも同じように見上げている。魔改造建築とはよく言ったものだ。何と戦うことを想定してこんなことになっているのか想像もつかない。少なくとも自分が知っているミドラガゥル城は、レベル50台のドラゴンの攻撃を悠々耐えきっていた。それもレベルカンストのプレイヤー1人の手によって爆散してしまったのだけれども。
「皇城へ着きましたら、いくらかの身体検査を受けて貰います。冒険者さま方には申し訳ありませんが、ご容赦を」
アルエットはそう言って踵を返す。
懐かしきミドラの港は、もう目の前だった。




