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千夏ルート END【君と並んで】


千夏がAWGで優勝を飾ってから、今年でもう十年になる。

高校卒業と同時に、千夏はプロになった。


求められる事は多く、試合で結果を出すことは当たり前。テレビや雑誌の取材への対応や、ファンサービス、スポンサー企業との会議への出席など、求められることは多い。


今日は講演会があり、予め用意していた資料と台本を駆使してなんとか話し終えたところだった。


《ありがとうございました。それでは、質疑応答に移ります。質問がある方は挙手をお願いいたします》


司会者の案内と同時に、数名の手が挙がった。


《それでは、そこのスーツの女性の方、どうぞ》


「プロに転向してからも高い勝率を維持されていますが、私生活との両立はどのようにされていますか?」

「私はあまり家事が得意ではないので、家庭のことは任せきりです。申し訳ないと思うこともありますが、私を信じて支えてくれるパートナーにはいつも感謝しています」


プロになって以降、スポンサーの意向もあり、言葉遣いや立ち振る舞いは別人のようになっていた。

ニコリとしたほほ笑みは歯を見せないように。子どもたちに影響が出るような言葉遣いはしないように。

千夏としては煩わしいことこの上ない制限だが、プロである以上は仕方ない。


「パートナーの方ともアビカをされると聞きましたが、ハンデを用いて調整されるのでしょうか」

「いえ、対等な条件でプレイするようにしています。先日も夕食のメニューをハンバーグにするかカレーにするかをアビカで決めたのですが、当然本気で挑みました」


会場に笑いが起きた。千夏としてはウケを狙ったわけではないので少し複雑だったが、やはり表情には出さない。


「彼は私を支えられるくらい強い人ですから。二人で何事も全力でぶつかっていくと、そう決めています」


今までも、これからも。それはきっと変わらないのだろう。



《では、次は手前のスーツの男性の方、どうぞ》


「同世代であり永遠のライバルとも言われる久遠白栞選手とは、現在公式戦16勝16敗と完全に互角の状態ですが、やはり千夏選手としてもライバルとして意識されていますか?」

「当然意識はしています。次こそ勝ち越して、それを維持したいですね」


勝敗はほぼ交互になっており、大きく勝ち越した事はない。もちろん大きな負け越しも無いのだが、そのせいで世間はやたらと二人をライバルとして扱った。

実際、ライバルには違いないのだが……。


「それだけの相手となると、プライベートでは不仲なのではないかという憶測も飛び交っていますが、そこの所はいかがでしょうか」


と、世間が焚き付けるせいで因縁の相手というイメージが定着しつつある。

色々な因縁はあるのだが、今の関係は世間が思っているものとは異なっていた。


「とんでもない。先日も二人で箱根の温泉巡りをしましたし、今日私が身に着けている時計は彼女からいただいたものです。彼女とはライバルであり、唯一無二の親友ですよ」


AWG以降、千夏と白栞の関係はほとんど変わらなかった。むしろ、気軽にアビカができるようになったくらいだ。

それは紛れもなく、千夏が弛まぬ努力の末に勝ち取った結末だった。


なお、白栞は今でも虎視眈々と付け入る隙を狙い続けているらしい。あらゆる面で油断できないライバルだ。



その後もアビカのことからプライベート、美容に関してなど様々な質問があった。気付けば終わりの時間も迫っており、次が最後の質問となるだろう。



《それでは最後、真ん中の席の男の子、どうぞ》


司会者が指名したのは、小学校低学年くらいのひとりの少年だった。


「……あ、あの!千夏選手!質問があります!」


少年は、意を決したように千夏を見据えていた。

真剣な表情の中には、必死さが見て取れる。


「どうしたら、千夏選手みたいに強くなれますか……?」


不安気に尋ねる少年。


「僕、全然勝てなくって。マキくんも、ショウも、僕は弱いって……。でも、いつか僕、千夏選手みたいになりたくて!だから……強く、なれるかなって」


その様子が、どこか昔の自分と重なったように感じた。


千夏は、この少年の力量を知らない。デッキの好みも思考の方向性も分からない。

周りの大人は苦笑いだ。





それでも、千夏は迷わずに答えた。



「もちろん」



なぜなら、少年の眼に宿る輝きは、信じるに足るものだったから。



千夏はニカっと明るい笑みを浮かべると、まっすぐに少年の眼を見つめた。




「きっと強くなれるさ。覚悟を決めて、君がカードを引いたなら!」



――本日の講演会は以上です。改めて、鳴海千夏選手に盛大な拍手をお願いします。




千夏ルート END

【君と並んで】

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。


さて、無事最終話を迎えられたので、つらつら後書きを書いてみようと思います。



⚫︎執筆について

なろう初投稿作品であり、小説を書くという経験はキミカドがほぼ初めてでした。

千夏ルートはとにかく戦闘シーンが本当に難産でした。

最終戦は何度も書いては消してを繰り返して、結局一か月以上経っているという……。

お待ちいただいた方には申し訳ないです。


執筆開始からすこし経った頃、水城セリアルートを本にしてコミティアで頒布した時のこと。

ブースで「千夏ルートを読んでいます」と声をかけていただきました。

その一言で本当に救われたし、家で嬉し泣きするほどでした。

あの時来てくださった方、本当にありがとうございました。


時間はかかりましたが、なんとか完結できたのは、お読みいただいた皆様のおかげです。

改めて、ありがとうございました。



⚫︎千夏について

千夏ルートは書いてて楽しかったのですが、結翔と二人でどんどんプロットを破壊して突き進んでいくので進行が大変でした。

本当はもっと短い予定だったのですが、いつの間にか話が増えてしまいました。


千夏は努力の子で、私の理想像の一つです。

努力は必ずしも報われる事は無いかもしれないけれど、努力して苦しんで、それでも諦めないで進む人は報われて欲しいという気持ちから生まれたキャラクターとプロットでした。



⚫︎今後について

さて、今後の予定(というより目標)ですが……。


1.コミティアで千夏ルートと楓ルートを頒布

2.番外編4コマ漫画

3.キミカド以外の新作の執筆


となっています。

そこらへんはX(旧Twitter)で告知していく予定ですので、何卒……。


まだまだやりたいことは山ほどあります。

見かけたらそっと見守ってください。声をかけていただけたら大変喜びます。


ではまた。


七紫ノごんべえ

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