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千夏ルート 十八


『八月十八日』


全国大会だけあって、会場は熱気に包まれている。観客の歓声も選手の緊張感も、地区大会以上だ。

先ほど予選が終わったところで、多くの選手が涙を飲んだ。俺にとっては顔も名前も知らない選手だが、彼らにも今日にいたるまでの努力やドラマがあったのだろう。

負けて涙する姿を見て、そこまで打ち込めたのが羨ましいと思う自分がいた。


選手でもない俺は、千夏を観客席から見守ることしかできない。今までは距離もあってもどかしかったが、それももう終わりだ。


《これより、決勝トーナメントの準備を行います。出場選手の招待者様はステージ前の観客席へご移動ください》


「っと、もう移動か」


俺は千夏に招待されているため、手早く荷物をまとめて移動を開始した。



♢♢♢


「先輩発見!隣、失礼しゃーす!」

「お前どこにでもいるな。誰の応援だ?」

「自分は選手の招待枠じゃないっすよ。あ、先輩ちょっとこれ持ってて」

「なんて先輩使いの荒いやつだ……」


土間だった。流れるように荷物を押しつけてくる鮮やかな手際。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

招待枠ではないのなら、ショップの関係者枠なのだろう。千夏はこいつの店で権利を取っているしな。


「しっかし、アマチュアリーグはもう久遠さんの独壇場っすね」

「どうだろうな」


そう評する気持ちも、まあ分からなくはない。それほどまでにすべての試合を圧倒的な実力で終わらせていた。

しかし、この快進撃を止めうるやつを、俺は知っている。


「燎さんっすか?予選あんまり見れてなかったんすけど、前にショップで見た感じじゃ結構キツいと思うなー」

「ちゃんと見てろよ。お前のショップの代表だろ」


今回、俺は千夏の試合を中心に追っているので、見逃してはいない。

だが、しっかりと意識して見ていなかった他の人は違うだろう。何せ——


「いや、ちょっと他に意識を向けてる間に毎回試合終わってるんすよ。速すぎでしょ、あれは」



♢♢♢


《全国の強豪が鎬を削りあったAWGも、残すところあと二回戦となりました!決勝トーナメントに進んだのはこの四名!平均年齢は約十九歳と、フレッシュな顔ぶれです!》


アマチュアで年齢制限のない大会なので、例年は大体三十代前後になるのだが。今年は高校生が三名という異例の結果となっている。

すでにSNSは大盛り上がりだ。


《まずは関西地区の優勝者、左右田祐樹選手!この中では最年長ですが二十八歳とまだ若い!くぐってきた修羅場の数を見せつけることができるのか!》


「左右田さんはプロリーグにこそいないけど、実力は下手なプロよりは上っす。厄介な相手っすね」


土間が解説を挟んでくる。どうやら名の通った選手のようだ。


《続いては中部地方の優勝者、水城・セリア・アナスタシア選手!去年のアビカ甲子園のチャンピオンがAWGにも殴り込み!来週にはアビカ甲子園の決勝トーナメントも控えているという、若手注目株の一人です!》


水城この年代ではトップクラスの実力者だ。

白栞には及ばなかったが、全国屈指の強者であることは、今あの場に立っていることからも伺える。


「前にアビカ甲子園に出るって言ってたし、地区大会にもいなかったから完全にノーマークだった」

「極光常盤はちょっと近い学校っすけど、県境の向こう側なんすよ。知らなかったんすか?」


知らなかった。俺は地理は苦手なんだ。


《同じく高校生、燎千夏選手!今まで大型大会での実績はないものの、ここまでの試合時間はなんと平均十分を切っている!怒涛の勢いで進んできた関東地区のbest4!今大会のダークホースがこのまま優勝を勝ち取るのか!?》


「あんなに速くプレイして、よくミスしないよな。感心するわ」

「速く終わらせるのはメリットも大きいっすよ。自分のターンに相手に思考時間を与えない、先に試合を終わらせることで手の内が次の対戦相手にバレない。長丁場なら休憩時間を余剰に得られるのも恩恵っすね」


速度に振り切った構築で、それを扱うプレイング。どちらが欠けても成立しない。

千夏が三日で仕上げると言い張ったあの構築を、本当に間に合わせてきたのだ。

もっとも、あの構築は速度だけではないのだが。




「一度負けた相手に勝つの、結構大変っすよ。燎さん大丈夫ですかね」

「大丈夫だろ」

「即答しましたね。その心は?」

「一回負けた相手には十回勝てるように練習するのが燎千夏なんだよ」

土間は少し黙ってから、「信じてるんすね」と言った。俺はそれを、無言により肯定する。

試合は、もう始まろうとしていた。



♢♢♢


「いくぜ、アタシはコストチャージして、〈鳥人族の先兵〉を召喚!」


ステージに立つ選手の奥に設置されているモニターに、赤い羽根を羽ばたかせる女性――ハーピィが表示された。

準決勝はこのようにカードが映像化されるのだ。また、観客に見やすいよう、盤面も表示されている。


「いきなりガーディアンを……超速攻型のデッキね」

「さて、どうだろうな。アタシはこれでエンドだ」


先攻の初ターンでガーディアンが並ぶのは、昨今のアビカでは珍しい。アグロはその数を減らしているからな。

水城は後攻の初ターンをコストのチャージのみで終える。


「アタシのターンだな。コストチャージ、〈鳥人族の見張り番〉を召喚して、効果でデッキから〈空の狩人〉を手札に加える」

「小型のガーディアンを展開しつつ、手札は減らさない……いいカードね」

「息切れしちゃ走り抜けられないからな。〈鳥人族の先兵〉でプレイヤーに攻撃する」


小型ガーディアンが水城セリアのライフを削る。微々たるものだが、この一点が勝敗を分けることだってある。

特にコントロールデッキを相手にするなら、序盤にガーディアンの数を並べておきたいところだ。


その後、水城のライフを十三点まで削ったところで、水城が防御用のガーディアンを展開。

千夏はガーディアンを上回る手数で攻め、ライフを七点まで削るが……。


「私のターン。手札から〈天空掃射〉をプレイ。コスト二以下のガーディアン全てに一点のダメージ」

「っ!やっぱアグロ対策は積んでるか……」

「召喚コストが軽い分、ガーディアンは脆い。一点のダメージでも、盤面はずいぶんと綺麗になったわね」


光の矢が一斉に掃射されると、空を舞う千夏のハーピィたちに降り注いだ。

ガーディアンは一体を残して壊滅し、粒子となって消えていく。


「さて、これで大量のガーディアンが破壊されたことで、あなたのトラッシュには赤のカードが十枚。ライフも少ないし、〈晩夏招来〉はケアしておきましょう」


そう言って水城が召喚したガーディアンは、ステータスこそ低いが、場にいる限りバーンダメージを軽減するというものだ。


「小型一掃に加えて、バーンのケアまで……」

「今期のコントロールは序盤に走られると巻き返しが難しいっすから、環境をちゃんと読んでデッキを組めてると思うっす。熾天使コンでここまで来ただけのことはあるっすね」

「水城のデッキ……【熾天使コントロール】って、構築難易度が高いから流行ってないんだと思ってたけど。環境的にも厳しいのか?」


俺の言葉に、土間は視線を画面に向けたまま答える。


「厳しいってほどじゃないっすよ。でも、今の環境はかなり多種多様なデッキがいるじゃないっすか。コントロールで勝つなら、その全てに精通してないといけない。それでここにいるんだから、並みの努力じゃないっすね」


確かにそうだ。

コントロールデッキは、相手の行動を阻害して勝つデッキだ。極論だが、仮に相手の行動を全て妨害したとして、それだけでは勝てない。

どのカードを通して、どれを妨害するのか。攻撃を始めるタイミングは。予想外の札への対応は。考えればキリがない。


「もちろんコントロールに限らず、環境のデッキを理解することは勝つためには必要っすよ。でも、熾天使コンで勝つならそれ以上が求められるって話っす。……あ、戦況が変わりますよ先輩」


土間に向けていた視線を、ステージ上へと戻した。

大量破壊された返しのターンに、千夏は再度ガーディアンを展開したようだ。

唯一生き残ったガーディアンも、水城の場のブロッカーを越えられないため、攻撃せずに番を返している。


水城のターンが始まる。その手は迷いなく、手札を一枚引き抜いた。


「勝機は今。これでゲームを終わらせましょう。――私は、〈熾天使アシレイア〉を召喚します!」


大型のガーディアンともなると、その登場エフェクトは派手なものだ。

空に浮かんだ光輪から、大きな翼を携えた鎧の天使が舞い降りる。

重厚な存在感。両手で剣の柄を押さえる姿は、さながら審判者のようだった。


熾天使コントロールの構築難易度というのは、環境に合わせた緻密な調整が必要というだけの話ではない。

〈熾天使アシレイア〉の入手にかかるコストもまたネックとなっている。

パックが三十個入っているボックス、それが十六個束ねられたカートン。

そのカートンから、二分の一の確率で入手できるのがアシレイアだ。相場三万八千円也。


「アシレイアは破壊された際、デッキから同名カードを手札に加えることができるわ」


そんなお高いカードが、自身の効果もあって複数枚必要なのだ。並みの学生にはまず手が出せない。

だが、希少性を差し引いてもそれだけ高額なのはカードの性能にも関係がある。


「そして、アシレイアはカード効果が発動した際、自身のステータスをコストにその発動を無効にして破壊する」

「効果を起動させれば最後、コストやパワーに関係なく破壊か……。いくらなんでも強すぎじゃねーか?」

「ありがとう。エースカードを褒められたら、悪い気はしないわね」


登場してしまえば、絶対的な制圧力をもつのがアシレイアだ。

一見すると無敵のカードだが、もちろん弱点もある。

例えば、登場前に場にガーディアンを複数並べ切ってあれば、効果を使わずに攻撃だけで押し切ることもできる。

ショップバトルの白栞戦でアシレイアが登場しなかったのはまさにそれが理由だった。着地の隙を与えないように立ち回った白栞に対して、水城は後手に回るしかなかったのだ。

あるいは、着地前に召喚を無効化するスペルを用いて、破壊ではなくトラッシュに送ることでサーチを防ぐ手もある。


「対応はあるかしら?」

「無い。アシレイアは通しだ」


だが、それは白栞のデッキと高いプレイスキルがあればこそだ。

千夏のデッキは、そう作られてはいない。


「アグロに召喚無効の札なんてまず入れないっすからね。序盤の速度が命のデッキで、初手から抱えたら笑えねーっすし」

「まあ、一見すると戦況は厳しくなったな。千夏の盤面はまだ立て直しきれてない。対して水城はデッキのエースを投下してる」


今の千夏の盤面には、押し切れるだけのガーディアンは居ない。

一方で、水城の盤面には防御可能なガーディアンに加えて、効果の発動を無効化して破壊するエースカードが君臨している。

誰がどうみても厳しい状況だ。


ひとまず、俺は鞄の中の飲み物に手を伸ばそうとして――


「ちょ、先輩!アレ見てくださいよ!ヤバいっす!」


――土間に無理やり視線を画面へと向けられた。


「な、なんだよ!何がヤバいって!?」


先ほどと、盤面は変わっていないように見える。しかし土間のこの慌てようを見るに、想定外の何かがあったのだろう。

よもや、千夏の勝利を決定的に脅かすカードがプレイされたのか。

土間の指さす先は、盤面が表示されたモニターだった。特に先ほどと変わった様子は見られない。

いったい何だというのだ。


「先輩、気付かないんすか?あのアシレイア、よく見てくださいよ!」

「アシレイア?」


アシレイアの凄さなんて、今更分かりきっている。

そう言おうとしたが、ある事実に気付き、言葉は続けられなかった。


「う、嘘だろ……?アレは……」

「気付いたみたいっすね……。ショップ店員としてもアビカプレイヤーとしても、他の人より多くのアビカを見てきたっすけど……あんなの、初めて見たっす」


土間の緊迫した表情の理由を悟る。きっと俺も、同じような顔をしているのだろう。

きっとこの先アビカをプレイし続けても、こんな事態には出くわさないはずだ。

受け入れがたい現実を、俺たちは目の当たりにしていた。



「「シリアルナンバー001……!」」



アシレイアを含めて一部のカードには、ごく稀にシリアルナンバーが記載された個体が存在する。番号は各言語それぞれ001~100まで。

ただでさえ希少なアシレイアにそんなことをしたものだから、信じられない価格で取引されているはずだ。

それのナンバー001?入手にいくら必要なのか、想像もつかない。



「おま、それ……試合で使うカードか!?」

「あら。カードはお守りじゃないのよ?」


もっともである。

もっともではあるのだが。

一体何百万するのかも分からない代物を持ち歩き、ゲームに使用するというのはいくらなんでも抵抗があった。


「ちなみに他の二枚のナンバーは002と003で連番だったり……?」

「そんなわけないでしょう」


千夏の問いに、水城は否定で返した。そうだよな。さすがにそんなわけないよな。


「ドイツ語版と英語版の001番よ」

「あいつアホだろ!誰か止めろよ!」


隣の土間がへたり込んだ。俺も気が遠くなる思いだった。


「多分……多分っすよ?あのデッキ、数千万クラスっす……頭痛くなってきた」

「なんかこう、なんだろう。これなんの疲労なんだろう。一気にすげー疲れた」


気の遠くなる事態に混乱してしまったが、試合は進んでいく。

俺はさっきまで何考えてたんだっけ。


……ああ、そうだ。


「ここからだ。見とけよ土間、俺の幼馴染の隠し玉を」


水城に絶対的なエースがいるように。

千夏にだって、この状況を覆しうる切り札があるのだ。



仕事に加えて、苦手な季節で全然執筆が進まず…。

とは言え、まもなくこの作品も完結予定です。

最後までお付き合いいただけると嬉しく思います。

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