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12. 漢たちの嘘


 三階層に到着すると、夜ということもあり人気はなかった。

 

『変化魔法をかけよ』


 言われるがままに鳳凰を青年へと変える。


『ほう、これが人間の姿』


 俺と同じくらいの背丈になった鳳凰はまじまじと体を見ている。


「魔法の持続時間も長くありません。急ぎましょう」


 道中の敵をあっさりと倒し、ダンジョンを出たとき事件は起こった。

 ニャリアを捨ておこうとしていた漢たちがたむろしている。

 やや驚いた表情だったが、「野郎ども集まれ!」と大声で何十人もの戦士が集められた。


「お前たちは地の底に落ちたはず……。どうしてこんなにはやく戻ってこられたのだ」


驚くエデルソンの後ろからダレットが姿を表す。


「アンちゃん、話は聞いてるぞ。アンちゃんがエデルソンたちを襲い、六十階層の主を呼び寄せたと。仲間だと思っていたのに裏切られるとはな」


 どうやら話は通じなさそうだ。

 

 人の姿をした鳳凰は腕を組んで静観している。

 一方でニャリアは怒りでプルプルと震えている。


「何を言っているんです! エデルソンさんたちはわたしをダンジョンに捨ておこうとしたんですよ! そしてわたしを助けてくれたアインさんを襲ったのは彼らです! しかも、アインさんはいきなり現れたバジリスクの脅威から命をかけて救ってくれてのによくそんなこと言えますね!」


 多くの剣士からニャリアに批判が飛び交う。

 そんな中ダレットは剣を構える。


「悪いが、絆で結ばれた仲間とあまりみない顔ぶれ。どちらを正しいとするかは簡単な話だ。ガッハッハッと笑っては済ませられない」


 エデルソンはしめしめと乗じる。


「ダレットさんのいうとおりだぞ! 俺様とお前たちじゃ信頼が違うんだ」


 今戦うとなると、上級魔法を持っていると言っても分が悪い。

 変化魔法を維持するために魔力を継続的に消費してしまっているからだ。

 変化魔法を解くと鳳凰は元の姿になってしまい、それこそ魔物の味方として不利な立ち位置を築くだけ。

 ニャリアの【迅速】もさすがに二人を背負うことはできないし活かすことが難しい。


 八方塞がりだ。



「剣を鞘に戻したまえ」



 そんな一触即発な雰囲気を遮ったのは、豪奢な装備を着飾った長髪長身の若い男だった。


 俺もびっくりしたのはもちろんだが、漢たちも驚いていた。

 「あのA級魔法士の方だ……」とあたりはざわついている。


「ア、アルマデスさん⁉︎ いったい何用で?」


 長身の男は俺を睨みつけるまま近づいてくる。


「話は全て聞いていた。お前たち阿呆がこの青年を責めるのは正しいか? いいや正しくない」


 ダレットは物腰柔らかに反論する。


「どうして彼の意見を信じるのでしょうか」


「六十階層主を呼び寄せたと言っているが、その化物と対峙していたのは誰であろうか? バジリスクとその青年らが戦っていたという目撃情報は何件かギルドに届けられている。青年の所々に残る浅くない傷を見てもそれが言えるか?」


 エデルソンは言葉に詰まるが、なんとか意見をひねりだしたようだ。


「ですが、奴がバジリスクと何やら喋っていたのも確かです! ダンジョンに穴を開けて人々を混乱させようとしたのでしょう! やつは魔物の味方に違いない!」


「整合的に考えるがよい。魔物の味方ならば、バジリスクと戦う意味もないではないか。また、その化物をダンジョンに解き放って暴れさせた方が混乱は大きいであろう」


「お、お言葉ですが……」


「いきなり現れたバジリスクに立ち向かい撃退した。そう考えるのが合理的というものだ。付け加えるならば、エデルソン、そなたらがその女を寄ってたかって拘束し、それを青年が助けたという証言もある。大きなコミュニティだからと言って、嘘を流布させるのはいただけない」


「くっ……。まあいい酒屋でも行こう」


 反論できなくなった漢たちはしずしずと踵を返して行った。

 ダレットですら反論はしなかった。


 誰か知らないがお礼は言っておくべきだな。


「アルマデスさんであってますかね、わざわざありがとうございます」


「あっている。そもそも正義は多数によって決められるものであろうか、いいや違う。優れた少数が決めるべきだ。A級魔法士のわたくしがその役割を担ったまで。感謝はいらない。たまたま知っていたから正義を貫いたにすぎん。剣士よ、弱者の地位に甘んじず、A級まで上り詰めよ。その時はまた酒を飲み明かそうではないか」


 そう言って長身の男は去っていった。

 謎が多い人だ。


 ニャリアはぽかんとしていたが口を開く。


「でも、あの歳でA級魔法士ということはきっと本当に強いんですね。威厳すら感じましたもん」


「おそらくかなりのやり手だろう。漢たちがビビっていたくらいだ。この街ではかなり有名な人なんだろうか」


『人間は愚かだ。勝手な正義を振りかざしよって。あの男ですら我には敵わん。正義は全て勇者様とその配下の我にある』


「……鳳凰様のおっしゃるとおりですね。さ、わたしも頭痛が続いてきましたので、町の裏にある林に行きましょう」


 街を抜けて人通りがない林に到着した。


 魔力が尽きる寸前だったので急いで魔法を解く。

 煙が青年を覆ったかと思うとそこには鳳凰がいた。


『元の体が恋しかったところだ。人間の体は柔く軽すぎる』


「ここでお別れになりますね。わたしたちは勇者様を目指して精進いたします。鳳凰様もお体に気をつけて」


『我は懐かしき巣に戻るとする。いつか再開した時はまた力を試そう』


 絶対戦いたくないなと思いつつ、鳳凰が以前の根城へ戻る姿を見送った。

 これで面倒な言葉遣いもしなくて済む。


 取り残された二人。

 なんだか気まずいな。


「とりあえず宿に向かいませんか?」


「体も心も疲弊しきっているし、街に戻るとするか」


 足取りは少し重い。

 街の一大コミュニティと敵対してしまったからか気が進まない。


「アインさんはこれからこの街で過ごすんですか?」


 停滞した空気をなくそうとニャリアは話しかける。


「もちろんとどまるつもりはない。個人的には王都のダンジョンで生計を立てたいんだが、あそこはかなり遠いからな」


「隣町にもダンジョンはありますよ?」


「そこは先日までいたさ。だけど仲間に裏切られて、ニャリアと同じようにダンジョンに置き去りにされた。鉢合わせたくないしなかなか気は進まないな」


「あ、すみません。そんな気はなくて。もしかして、だから助けてくれたんですか?」


「それもあるよ。ただその過去がなくても、見逃すことはしなかったと思う」


「改めてありがとうございます。その恩はいつか必ず返したいです。一度は失った命。アインさんに尽くしたいんです!」


「俺はあまり仲間を信用できるような心理状態じゃないからなぁ」


「そうですよね……」


 ニャリアは目を伏せる。


「だけど、ニャリアなら少しは信じてもいいかなと思ってるんだ。だから王都への資金を貯める間だけでもいい。一緒にパーティーを組んでくれないか」


 ニャリアは涙ぐみながら「もちろんです!」と元気いっぱいに返事してくれた。


 なんだか告白したみたいで変な気分だ。

 





 

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