プロローグ
星が生まれた日
はじまりに、世界はなかった。
光も、闇も、空も、大地も。
何かを照らすことも、何かに照らされることもない、果てしない静寂だけがあった。
そこに、ひとつの意志が生まれた。
それを、後の時代の人々は創造神と呼ぶことになる。
創造神は、何もない世界に星を生み出した。
星は光を放ち、やがてその表面には大地が形づくられた。山が隆起し、谷が刻まれ、水が流れ、風が吹いた。夜空には無数の星々が浮かび、そのひとつに、新たな命が芽吹いていった。
創造神は命を生み出した。
人族。
獣族。
鳥族。
竜族。
姿も、性質も、得意とすることも異なる四つの種族。
けれど、創造神は彼らを別々の存在として創ったのではなかった。
その根底にあるものは、同じだった。
だから、彼らは互いに姿が違っていても、同じ言葉で呼ばれた。
――人。
人々は大地を耕し、家を建て、街を築いた。
森を歩き、海を渡り、まだ見ぬ土地を目指した。
誰かが笑えば、隣の誰かも笑った。
誰かが悲しめば、そばにいる誰かが手を差し伸べた。
命は巡り、季節は移ろい、世界には無数の営みが生まれていった。
創造神は、それらを見守っていた。
けれど、創造神は完全な存在ではなかった。
世界を創るということは、ただ美しいものだけを生み出すことではない。
何かを望む心があれば、望みが叶わないことへの苦しみも生まれる。
誰かを愛する心があれば、失うことへの恐れも生まれる。
命があれば、死がある。
喜びがあれば、悲しみがある。
創造神は世界を創る過程で、そうした負の側面をも生み出していた。
それらは、初めのうちは形を持たなかった。
ただ、世界の片隅に漂う、名もなきものだった。
長い、長い時が流れた。
やがて、形を持たなかった負の側面は、ひとつの意志を宿すようになった。
それは自らを知り、世界を知り、そして、世界に存在するすべてを欲するようになった。
自分以外のものが、自分の意志とは無関係に生きている。
それが許せなかった。
世界に存在するものは、すべて自分のものであるべきだ。
誰もが自分に従い、自分の望むままに動くべきだ。
その意志は、やがてひとつの名で呼ばれるようになった。
――魔神。
*
魔神は、世界に魔物を生み出した。
魔物は空腹を感じるように創られていた。
食べ物を求め、作物を荒らし、家畜を襲う。
そして、必要とあらば人を食べるために殺した。
魔物にとって、それは生きるための行為にすぎなかった。
けれど、人にとっては違った。
家族が帰らなくなる。
友人が、隣人が、昨日まで笑い合っていた誰かが、突然いなくなる。
残された者たちの胸には、悲しみが生まれた。
憎しみが生まれた。
どうして自分の大切な人が死ななければならなかったのかという、行き場のない問いが残った。
そうして生まれた負の感情は大地に根付き、長い年月をかけ、魔物を生む結晶"魔創石"となった。
人が殺されるほど、悲しみや憎しみは増えていく。
負の感情が魔創石の糧となり、魔物が人を殺すことで、さらなる負の感情が生まれる。
魔物は、人を殺すことによって繁殖につながる仕組みを持っていた。
魔神が創り出したものは、ただ命を奪う獣ではなかった。
人々が互いを大切に思い、誰かを失えば悲しむことさえ、魔物が増える循環の一部になっていたのだ。
世界は、少しずつ変わっていった。
人々は住み慣れた土地を追われ、街は焼かれ、かつて穏やかだった道には魔物が徘徊するようになった。
戦いが起こるたびに命が失われ、負の感情が積み重なっていく。
そして、その負の感情は魔神をも強めていった。
創造神は、魔神を消し去ろうとした。
けれど、魔神はあまりにも強大になっていた。
世界を創るために、創造神はすでに多くの力を使い果たしていた。
今の力では、魔神を完全に消し去ることはできない。
それでも、創造神は世界を見捨てなかった。
自らの残された力を振り絞り、創造神は星とひとつになった。
星そのものを封印とし、魔神を押さえ込むために。
世界から光が失われたわけではなかった。
大地も、海も、空も、そこに生きる人々も、変わらず存在していた。
ただ、創造神の意志は星の奥深くへ沈み、長い眠りについた。
封印は、世界を救うための最後の手段だった。
けれど、戦いによって生まれた負の感情は消えなかった。
悲しみも、憎しみも、喪失も。
長い年月をかけて積み重なったそれらは、封印の内側にある魔神を強め続けた。
やがて、封印は耐えられなくなった。
創造神の力は衰え、ついに魔神を押さえ込むことができなくなった。
魔神は再び世界へと解き放たれた。
*
創造神が眠りについたあとも、世界には命が残されていた。
人々を守る者が必要だった。
そこで創造神は、最後に残された力を用い、ひとつの存在を生み出した。
精霊王。
人と同じように人の姿を持ち、世界を守るために生み出された存在だった。
精霊王は、創造神から託された役目を胸に、魔神と対峙した。
魔神の力は、かつて封印されたときよりも強大になっていた。
生み出され続ける魔物。
尽きることのない負の感情。
長い時の中で育った、世界を支配しようとする意志。
精霊王は戦った。
世界に生きる人々を守るために。
けれど、ひとりの力では魔神を打ち倒せなかった。
そこで精霊王は、七人の戦士に自らの精霊の力を分け与えることを決めた。
それは、二度と元には戻らないかもしれないほどの、大きな力の譲渡だった。
七人は、精霊王の前に立った。
彼らが何を思い、何を願っていたのか。
後の時代に残された記録は、そのすべてを伝えてはいない。
ただ、七人が力を受け取ったことだけは、確かに伝えられている。
精霊王は、七人に力を託すための盟約を結んだ。
後に、原初の盟約と呼ばれることになる契約を。
七つの力が、世界に灯った。
それは、魔神に立ち向かうための、最後の希望だった。
精霊王は七人を見つめた。
そして、静かに告げた。
「どうか、この世界を守ってほしい」
七人は、それぞれの武器を手に取った。
その先に待つものが何であるか、彼らはまだ知らない。
自分たちの選択が、どれほど長い時を越えて語り継がれることになるのかも。
ただ、彼らは前を向いた。
守りたいものが、そこにあったから。
原初の盟約で精霊の力を与えられた英雄七人は精霊王と共に魔神を討ち滅ぼしたのであった。
英雄達はその命を犠牲にし勝利を手にした。
英雄達に宿っていた精霊の力は何年も世界に漂い、
やがて七人の中に宿った。
魔神討伐後も沸き続ける魔物から人々を守るために精霊院がある。精霊院では様々な種族の人々が学び、戦場で守るために戦っている。
精霊院には精霊の力を宿した者が七人がいる。
人々はその七人を七つ星と呼んでいる。
これはその七つ星の物語




