第三十五話温かな思い
「サラ!マリア!超特急だよ!」
「「あい!」」
二人のチビッコは、クイーンの前で一人前に敬礼をした。
「この布の縁に、こっちのレースを縫いつけるんだ。シャーリー様の頭を飾るベールだよ!他の縫い子達は、マックスの結婚衣装にかかりきりだ。頼めるのは、アンタ達だけだからね!」
「たいへんよ、シャラ!(大変よサラ)」
「たいへんよ、マリャ!(大変よ、マリア)」
二人は、薄くて軽い真っ白な布を手に持って顔を真っ赤にした。フツフツと湧き上がる使命感に、体がプルプル震える。
布は、兎に角、柔らかい。向こう側が透けるほど薄く、強い風が吹くと飛んでいきそうだ。大人なら、強く握るとヨレが生じそうで、力加減が難しい。
しかし、二人の手は柔らかく、そこまで力は強くない。細かい作業は、刺繍で鍛えた針さばきで得意中の得意。ベールを縫うのには最適な人材と言える。
「シャラ、あしょんじゃ、め!(サラ、遊んじゃ、駄目)」
マリアに怒られ、サラは、首をすくめる。
「あしょんで、ないもん。ちょーっと、ほっぺた、うずめただけだもん。(遊んでないもん。ちょっと、ほっぺた、埋めただけだもん)」
あまりに滑らかな布にウットリしてしまったサラは、プクプクのホッペを布から離した。さらさらな肌触りが名残惜しく、口が少し尖ってしまう。
「むー、しなぁーの!(むって、しないの!)」
「してにゃいもん(してないもん)」
同じ年なのに、お姉さんぶるマリアに諭され、サラは、益々頬を膨らませる。
しかし、今は、そんなことをしている時間はない。
「ぬうの!」
「ぬうもん!」
「がんばるじょー!」
「がんばるじょー!」
「「えい、えい、おー!」」
掛け声で気分を切り替え、二人は部屋の隅に道具と布、レースを持っていき、仕事用の小さな椅子に座りチクチク縫い始めた。
決して早くはないが、丁寧な仕事ぶりに他のお針子達も感心する。
「アンタ達も、この子達に負けんじゃないよ!」
クイーンの叱咤激励に、マックスの婚礼衣装担当者達は、深く頷く。
彼女達も、一斉に作業に取り掛かり始めたが、
「チッ、時間がないのに、既製品が合わない体って、なんなんだい!」
魔道士のくせに、やたらと筋肉質で長身なマックスに舌打ちをする。
マックスは、メジャーで体のあちこちを採寸されながら、お針子さん達に、怒られ続けていた。
『いや、怒られたからって、俺の体のサイズ縮むわけないだろ。』
内心、理不尽な怒りに晒され、マックスも憮然とした表情になる。そんな彼にお構いなく、縫い子達は、バタバタと周りを走り回った。
「布、足んない?」
「えー、マジ?もう、テーブルクロスで良くね?」
「誰か~、食堂のテーブルクロス取ってきて~」
全員が、シャーリーの前に居る時のしおらしさなど脱ぎ捨てて、本気モードだ。
『マジか~、テーブルクロスか~』
マックスの目は、もう死んでいる。
「倉庫に、ピンクの布なら、山程あるけど?」
「それで、いく?」
「いやーん、横に立ったシャーリー様が、可哀想でしょー?」
五人程いるお針子さん達が、ハンターのような鋭い視線を交わして意見交換してる。もう、マックスが口を挟める状態ではない。
「魔道士団の正式衣装あんじゃん。アレ、改造する?」
「いーねー。手っ取り早いねー。それでいい?クイーン?」
縫い仕事担当でもないのに、現場を取り仕切るクイーンを全員が見上げた。彼女は、ゆっくり左右に首を振り、
「いや、あれ、国からの支給品で、勝手に弄っちゃダメなヤツだろ?まったく、使えねーヤツだなマックス」
と悪態をついた。
「え?それ、俺のせい?」
もう、何もかもがマックスのせいになってきた。反論したいが、口で勝てる気はしない。
「仕方ないね、アンタ達、晩御飯ははずむよ!頑張っておくれ!」
「「「うぇーい」」」
滅茶苦茶返事はいいが、顔はヤル気ゼロなお針子達。羨ましそうにサラ達のベールを見ている。
「アタイも、ベールが良かったなー」
「そりゃ、私も、同じだって。ヤローの服なんか、どーでも良いんだよ」
その後も、言いたい放題、やりたい放題のお針子チームの中で、マックスは、無言で立ち続けた。
そして、悟る。彼女達には、絶対に逆らってはならないと。
その日、グレイ商会の店頭にジャックが立っていると、八百屋の親父が声を掛けてきた。
「おい、ジャック!シャーリー様の話、聞いたぜ!」
バン!
思い切り叩かれ、体が前にのけ反る。
「うげっ!いきなり俺の背中を叩かないでくれ。息ができなくなるだろ!」
ケホケホと咳込みながら振り返ると、
「水臭ぇーなー!宴会の食事、準備出来てんのかよ!」
八百屋の親父がニヤニヤと聞いてきた。それは、ジャック達が置かれた状況を把握しておいて、あえて質問してきていると分かるイタズラっ子のような笑みだった。
「い、いや、まだ。式を挙げる準備で、一杯一杯だ」
正直に答えると、待ってましたというような顔をする。
「だろーと、思ったぜ!おい、皆、まだだってよー!」
親父の背後には、花屋、肉屋、魚屋、レストランの料理人、他にも、多種多様の店主が立っていた。
「宴会は、俺らに任せろ!街あげて、全面サポートするぜ!」
「ははは、祭りかよ。すげーな」
そう感じさせるくらいの熱量で、皆の目が、輝いていた。
「場所は、うちを使ってくれ!」
手を挙げたのは、王都で1番の大きさを持つ劇場のオーナーだった。
舞台を見ながら食事を摂るスタイルで、踊り子から歌姫まで、様々な演目を連日公演して、予約を取るのも一苦労の人気店だ。
「良いのかよ?一日、儲け損ねるぞ」
「シャーリー様ご成婚時の宴会会場ってなりゃ、こんな宣伝効果ねーだろ!」
「あぁー、なるほど。ちゃっかりしてんなー」
恩も売って、利も得るって事なら、頼みやすい。
「なら、今から、話、詰めるぞ」
ジャック達は、そのまま、近くのバーに向かい、それぞれの分担を話し合い、結局、どんちゃん騒ぎの飲み会になった。シャーリーと出会って、彼らは、人生を180度変えたと言える。
なんだか、途中から、涙が止まらなくなって、次の日、二日酔いと泣き過ぎで、一日中頭痛と闘う羽目になった。
「馬鹿だねぇ」
水をくれるクイーンの目も、ほんの少し潤んでいたが、照れ屋の彼女の為に、ジャックは、見なかったことにした。
こうして、シャーリーとマックスの結婚式の準備は、着々と進んでいった。その原動力は、王都民のシャーリーとマックスへの温かな思いだった。
今夜7時に、三話完結の短編「ですから、噓ではありません」を投稿します。
以前別サイトで書いていた物を加筆修正しております。訂正前の分は既に引き上げていますので、読めるのはここだけになります。
感想へのお返事などが書けず、申し訳ございません。楽しんでいただけると嬉しいです。




