第十一話お似合いな二人
夕食を食べ終え、自室に戻ったシャルトは、今日のことを思い出し、嬉しそうにフワッと笑った。
「シャーリー・エンジェル伯爵令嬢か……。弟の婚約者じゃなかったら、なんて言ったら怒られるよな」
自分の事を、初めて『春』と評してくれた女性に好印象を抱くことくらい許して欲しい。
実はシャルトは、ブリリアント家の長男として、人の良い両親から生まれたと思えぬ程性格が悪い。『春』などと言う優しく穏やかな季節が、一番似合わない男だろう。
しかし、最初から、そうだったわけではない。父親が、他の貴族やラビナの父親に騙されそうになる度に、黙っていられず口を出してきた。
そして、不作続きの領地経営で忙しい父ラグドールが、王都の屋敷を空けがちになると余計矢面に立たされるようになった。
母は、王室の血筋からか、鷹揚としていて他人の悪意に鈍感だ。実質、シャルトが切り盛りしていたと言っても良い。
だから、嫌味も、侮りも、蔑みも、全てを跳ね返す為に冷酷な切れ者の仮面を被った。殆ど歳の変わらない弟達が、楽しそうに遊ぶ姿を執務室から見下ろす度、胸にどす黒い思いが湧いたのも事実だ。
『羨ましい。俺も、あの輪の中に、入りたい。』
年相応の願いを叶えられなかった彼が、多少捻くれても誰も非難できないだろう。
『もし、素直に、スクスクと育ったなら・・・俺は、『春』になれただろうか?』
シャルトの疑問に、答えはない。もう、過去には戻れないのだから。
しかし、スコットは、これから変わるだろう。ラビナに、髪の毛の色を貶され続けたスコットにとって、『穂』と言うキーワードは、禁句だった。
『くすんだ、汚い、小麦の穂先みたい。マックスの劣化版』
ラビナの悪口には、きりがない。刷り込まれ続けた劣等感は、スコットの奥底に、こびりついてしまっている。
しかし、今回、シャーリーが、スコットの髪を、
『豊かに実った稲穂。光り輝く実りの色として尊ばれる『黄金色』』
と評した事で、負の感情は、一変してしまうだろう。
母であるルビーも嬉しかったのか、『私が伝えるわ』と言ってた。多分、明日の朝、スコットの目は、腫れ上がってるだろう。
「マックス、お前、良い女を捕まえたな」
少しの妬ましさを持った言葉が、口から零れ落ちた。
『もっと早く出会っていれば。長男でなければ。あぁ、俺は、『春』のような男になりたかった。』
シャルトの願いは、一生叶うことはない。
だが、また、別の出会いが待っていることも、彼は知らない。
「マックス様、今日は、ありがとうございました」
「いえ、俺こそ、何度も気絶させてしまってすみません」
「それは、私が不甲斐ないだけの話で」
「いやいや、俺の方が」
紙袋被った男とずっとペコペコしてる女。
『お似合いっちゃーお似合いだけど、この会話、いつまで続けるのかしら?』
横で控えるカサンドラは、馬車で眠り込むサラとマリアが気になって仕方ない。早く孤児院へ返してやらないと、就寝の時間は結構早いのだ。
「お嬢様、そろそろ」
帰宅を促す声をかけると、シャーリーはビクッと体を震わせ、本気で驚いていた。
「あ、カサンドラ、いつからそこに!」
「いや、ずっといましたけど」
今更自分の存在を忘れるシャーリーを見て、カサンドラは苦笑する。
『うちのお嬢様は、馬鹿だ。頭は良いのに、馬鹿。初めてお嬢様付きのメイドとして、エンジェル家に来た時、アレやコレやと、私の世話をしようとしたくらい馬鹿』
カサンドラが、シャーリーに最初に教えた事は、
『貴女は、世話される側』
ということだ。大事なオヤツすら、自分の分を分け与えようとするのだ。ヨダレでベチョベチョになったりんごを欲しいかと言われれば、欲しくない。
しかし、大家族でオヤツなんて見たことのない子供には、それは、とても崇高な行いのように見えた。
だからこそ、カサンドラは、シャーリーに教えたのだ。貴女は、私が仕える大切な御主人様で、おやつを分ける姉妹ではないと。3歳のシャーリーに、理解させるのに1ヶ月かかったのは懐かしい話だ。
カサンドラの実家は子沢山で、貧乏だった。皆、8歳になったら直ぐ出稼ぎに行かされた。仲介役が悪党なら、とうの昔に、奴隷商か娼館に売られていただろう。
カサンドラは、たまたま運良く、教会で清掃してる時に、エンジェル伯爵に拾われた。
当主のジョン・エンジェルは、少し変わっている。貴族の癖に、お金儲けが好きだ。『金の亡者』と陰口を叩かれても、『それが、なにか?』と聞き返せるほどの守銭奴だ。
シャーリーを社長に据え、孤児達に運営させている商会ですら、きっちりマージン取って儲けている。決して慈善事業じゃない。だから、続くのだ、経営が。
そして、シャーリーも、ボーッとしているように見えて、金儲けの才能に満ち溢れている。商会の番頭役のジャック曰く、来年あたり、シャーリーの指示で支店を隣国に出すらしい。親子揃って、どれだけ儲けるつもりなのか?
「カサンドラ、もう、帰る?」
「いや、お嬢様が居たければ、二年でも三年でも。あぁ、もう、いっそ、マックス様をお持ち帰りされては?」
「カ、カサンドラ、それは、流石に早過ぎるわ!」
「え?マジで、持って帰るつもりだったんですか?」
墓穴を掘って、真っ赤になるシャーリーと身悶えしているマックス。
『あぁ、私は、この馬鹿達が、大好きだ。』
約1名馬鹿が増えたが、それもまた、楽しく嬉しいと思えるカサンドラも、相当のシャーリー馬鹿なのだが、本人だけ気付いていなかった。
今日も1日、私達頑張りましたね!
明日も暑いみたいだけど、セルフほめほめで乗り越えましょう♬
夕食の楽しみにしていただけたら、幸いです!




