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異世界偏食飯  作者: 愛姫
24/25

決戦

「それで? 勝負と言っても何でする?」



「んなもん決まってるだろ? 卵料理さ!」



 昨日の敵は今日の友。数分前まで他人行儀だった俺たちだが、今は互いにライバルとして認めている。争いから生まれる友情。結果として一気に距離が縮まった。




「何? 卵料理だと? 本当にいいのか?」



「お前こそいいのか? 自分のフィールドで負けても。言い訳なんてするなよ?」



「いいだろう、その挑発に乗ってやる。お前こそ負けても言い訳などするな」



「あったりめぇだ!」




 ◇◇◇




「さて、ルールは決まった。異論はあるか?」



「問題なし」



 勝敗は姫龍、神様、料理長の三人にそれぞれ料理を出し合い、美味い方に手を挙げさせる。絶対に票が割れる関係上、二人以上が手を挙げたらその人の勝ち。今の流れを一ラウンドとし、先に二ラウンド分取ったやつの勝ち。最短二品目で運命が決まるドキドキハラハラな勝負。誰が作ったのか言わず、単純な美味さだけで競う。



「料理は双方が作れた瞬間に出し、一ラウンド事に作る。いいな?」



「問題なし!」



「よし、それでは⋯⋯始め!」



 戦いのゴングが鳴った。まずは急いで食材の確認。



「何を作ろっかな〜」



 初めての場所で始まった生死をかけた戦い。圧倒的不利な状況をどう覆すか。相手のパフォーマンス以上を発揮しなければ、そもそも戦いの土俵にすら立てていない。冷静に見極め、得意分野に持ち込む。



「あ、そういえば俺いい事聞いてたな⋯⋯」



 これも勝負。卑怯とでもなんとでも罵ればいい。思い返せば、こちらも有利な事があった。それは――





 ◇◇◇




「ちょっと! 我は認めないんだけど!?」



「まぁまぁいいじゃない。やらせとけば」



「飯郎様よ。審査員になる以上、敵にも味方にもなりますが⋯⋯いいのデースか?」



「おう! はっきりと美味い方に手を挙げてくれ!」



 珍しく、俺を心配して駄々をこねる姫龍を上手いこと丸め込んでいる神様。それと意外だったのが、俺以外が相手だと大人の対応をしている様子。喧嘩は同レベルの者同士しか起きないと言うがこの場合はどちらが悪いのだろう。



「もう分かったわよ! 飯郎! その代わり絶対勝ちなさいよね!」



 渋々な顔をしているが言いくるめられたようだ。伊達に歳をとってない。舌戦だったら負け無しな言い訳大魔神の底力。何度も顔を見てはアイコンタクトを送ってくる。



「おうよ! 任せとけ!」



 口に出さずとも言いたいことは分かる。多少なりとも俺に期待しているから出た行動。答えない訳にはいかない。全ては俺の手にかかっているから。




 ◇◇◇




「それでは公平を期す為に審査員の皆様には目隠しをしてもらい、机の上にお皿が乗ってからお食べ下さい」



(さて相手は何を作ったのか⋯⋯)



 あまりまじまじと見ないようにしたが果たして――



「それでは目隠しを外してください」



 三人の前に並んだ料理。今初めて対面した。



「ふ〜ん⋯⋯卵焼きと、そうめん⋯⋯そして卵液」



 神様からのありがたいお説教。目で語りかけてくる。バレバレじゃねぇかと。誰が作ったのが分からない上での審査と表向きはなっているが、実際は丸見え。俺たちをおもてなしする為に、これでもかと机に並べられていた卵焼き。普通に考えれば同じ料理を出す訳がない。

 それ即ち、作ったのが俺と宣伝しているようなもの。



「卵焼きは分かるのじゃが⋯⋯な、なんじゃ? この溶いた卵は?」



「龍の姫君よ、そちらは言わばつけダレでございます」



「なぬ! そうめんにつけて食うのか!?」



 これはやられたな⋯⋯




 ◇◇◇




「飯郎よ」



「ん? どうした?」



「この出汁。自由に使って構わん」



「え? いいのか?」



「俺も使うからな。それにこれは今朝用意したもの。勝負と言っておきながら、作り置きの品を独占するのは違う」



「なるほどね! そゆことなら遠慮なく〜」




 ◇◇◇




 出汁を使うと堂々の宣言。何をするのかと思ったら⋯⋯ダメだな。敵が作ったものなのにすげぇ美味そうで困る



「とにかく食べましょ」



「そ、そうだな。それでは頂くとしよう」



 真っ白なそうめんが染まった。卵液に潜らせてまとわりついた色味。ズルズルと音を立て、口周りが光っている。



「う、うまい⋯⋯初めての味でなんと言っていいか分からぬがこれは⋯⋯」



「卵の芳醇な香り! ただそれだけではアーリません!」



「出汁とのブレンド。見る人によっては一見身を引いてしまう卵液汁。ただこれが飲み物に昇格しているわ。そして極めつけはそうめんの下ごしらえ。普通はサッと茹でて冷水でしめるだけ。ただこれはしめの段階でよく洗われている。何分も水を流しながら表面のぬめりを極限まで落とす。そうしてようやく本来の在るべき姿。喉越しの良いツルンとした食感が現れているわ」



 さすが神様。食材の一つ一つの事を分かっている。料理人が見えない手間暇をちゃんと拾い上げて、全てを評価。料理に対する狂いのない目。そして知識。これ以上ない審査員。



「さて、それじゃあ次は卵焼きね」



「先程から気になっていたんだが⋯⋯なぜ二つなんじゃ?」



「ふ〜む⋯⋯片方はかなり濃く焼き目が付いていて、もう一つはかなり大きいデースね?」



「貴方たち。これはかぶりついて食べなさい」



「か、かぶりつく?」



「そうよ。絶対割ってはダメ」



 神様⋯⋯ほんとに貴方は全てが見えている。俺の卵焼きに隠された秘密をいとも簡単に。



「ま、まぁ⋯⋯わかったのじゃ」



「いただきマース!」



 言われた通りに、口を大きく開けてかぶりと。ビジュアルも相まって恵方巻きを食べるみたく。



【ん!?】



 二人が目を見開いた。そして驚きの声。同時に反応を示した。



 あのキッチンはウ・コッケイの庭であり独擅場どくせんじょう。生半可な小細工を駆使しても勝てるわけが無い。そこで考えた。俺だけが持っている有利な情報はないのかと。そこで思い出した。審査員の三人。良く考えれば、全員の好みを把握しているではないか。それぞれの味覚を知っている。これは大きなアドバンテージ。その上で考えた今回の作戦。今思い返すとヒントが散りばめられていた。神様の卵焼きが大好物だという発言。少なくとも、三人のうちの一人を確実に引き込められ、尚且つ勝ち目がある料理。そしてもう一つ。王手をかける一打。




「あんみゃい⋯⋯もはやこれはデザート⋯⋯」



 砂糖をふんだんに入れて作る卵焼き。姫龍は甘い物に目がない。その事を知っていて仕込んだ罠。しょっぱいと思っていた味覚に、角度のつけた予想外の攻撃。



「トリビア〜ンヌ! 中にはとろーり溶けたチーズ! そしてハムが巻いてアール! 卵とチーズなど言わずもがなのコンビネーション。そしてここに主役級のメイン食材。これまさに! ジャンクに炭酸、パンケーキにメープル、甘いものにはバターのように! 手を取り合いさらに美味しく、驚きを届けてきマーした!」




 そして料理長は油物に目がない。味が濃く、言ってしまえば口中がこれでもかと暴れている料理が大好き。

 チーズとハムを交互に巻いて何層にも作り上げたカロリー爆弾。料理長を完全に狙い撃ちした一品。



 先程食べた、だし巻き玉子と比べたら少し邪道で卑劣かもしれないが⋯⋯さぁどうだ。完全に流れはこちらのもの。



「⋯⋯」



「それでは美味しかった方を指差してください」



「そ、それでは行くぞ? ――いっせーのーで!」



 姫龍が合図をかけ、一斉に各々が動き出した。さすがに息をするのも忘れる。極度の緊張。今になって震えてきた。スローモーションのように視界が流れる。自信はあるが果たして――



「卵焼きに二票、そうめん卵液に一票。ということで一ラウンド目の勝者は飯郎様に決まりです!」



「ふぅ⋯⋯」



 たかが一回戦目なのにこの疲労感。とはいえかなり余裕が持てた。心の余裕があるだけで体が軽い。



「め、飯郎だったのか⋯⋯」



「さすがデース!」



「これは一本取られたな。中に食材を包むのはかなり至難の業。数日練習した程度では出来ん。それに形が崩れないで、立派な四角の卵焼き。中のチーズも漏れ出た形跡が無く、食べて始めて気付く。これが普通では無いことに」



「とんでもない好評だな?」



「はっきり言って敵に塩を送ったと後悔している。出汁を使われたところで勝つのは余裕だと。だがもう油断はしない。ここからは私が全て勝つ」



「いいぜ、かかってこい! 次も俺が勝つからな!」



 ぶっちゃけると負けてもおかしくなかった。だが次からは通用しないだろう。自分を脅かせ、油断すると狩られる立場になったと自覚したから。



「次の料理まだかしら〜?」



 心残り⋯⋯いや、予想だったことがある。神様が俺を選ばなかったこと。あの人だけは俺を選ぶと思っていたがそう甘くは無いか。飯に対しては一切の妥協を許さない。だからこそ公平に審査した結果、俺が劣っていたんだろう。ウ・コッケイとの勝負。それも、もちろん大事。ただ、もう一つ決めた。



(神様――必ず貴方に俺の料理を指してもらう)



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