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異世界偏食飯  作者: 愛姫
12/25

料理人として

 まずは玉ねぎの皮をむく。次にそれを半分にカット。

 繊維に沿って縦に切込みを。ここでポイントなのは切り落とさず、端のギリギリまでで停める。

 次は同じく切り落とす寸前まで横に切込みを入れ、切る! よくある玉ねぎのみじん切り!


「目に染みるぜ⋯⋯」


 換気扇を回す。空気中に感じる玉ねぎのエキス。

 なるべく切れる包丁と、腰は折らずに遠くから。

 顔を近づけると一気に涙が出てくる。



「うし⋯⋯次は牛と豚の合い挽き肉!」


 ボールに挽肉を入れ、切った玉ねぎ。


「ここに塩コショウ、酒一回し、ほんのちょっと牛乳、卵を一つ入れて、最後にパン粉!」


 山盛りに積み上がった食材たち。これを、


「混ぜる!」


 何度も何度もこねる。底の方から手を入れ、手のひら全体で揉む。全てが肉にまとわりつき、粘り気が出るまで。冷えた肉から体温を奪われ、手がかじかむほどに。


「出来た⋯⋯そしたらこれを何等分かにして⋯⋯」


 ひとまとまりになった肉。水分多めで少し緩く、柔らかい。だがこれでいい!


「そしたら次は――死ぬ気で空気を抜く!」


 手のひらサイズのたね。それを両手で交互にキャッチボール。手に肉を叩きつける。


「それができたらフライパンに油をしく。油が全体に行き渡ったらハンバーグの形に成形して、日を通りやすくする為に、真ん中を少しへこませる!」


 フライパンにハンバーグを並べてから着火。中火で初め、温まってて来た頃に蓋をする。


「そしたら付け合せだ!」


 大きく立派な緑の房。ブロッコリーの青い香りがしてくる。


「これは茎から包丁を入れて小房に。見慣れてる形にする! それができたら沸騰したお湯でさっと茹でる」


 完全にシナっとさせない程で切り上げる。コリコリとした歯ごたえのある状態に。茹ですぎると栄養もどんどん抜け落ちるから最低限に。


「次はじゃがいも!」


 芽の出ていない、皮まで食べれる状態のもの。軽く水洗いして、半分に切る。それを更に四分の一程の大きさに切る。ステーキの付け合せについてくるサイズに。


「そしたら耐熱ボウルにじゃがいもを入れ、少しの水。ラップをかけて五分ほど加熱!」


「そしたらその間にハンバーグは⋯⋯」


 静かに音を鳴らしている蓋を開ける。うっすらと火が通り、ほんのりピンクがかった色。ヘラを使い、裏返すとこんがりと焼き色が付いていた。


「そしたらここに水を入れて蒸し焼きに!」


 一回し水を入れると、水油と混ざり合い勢いをました。すぐに蓋をして、熱と期待を込める。ここで、火は弱火。ゆっくりと中まで火を通す。


「電子レンジは〜?」


 ラップを開けると水蒸気が吹き出した。

 箸がすんなり通るまで何度かじゃがいもを調整する。それが出来たら、新しく出したもう一つのフライパンに多めの油。少し浸るぐらいまで入れ、ガンガンに油を温める。


「そしたらここに切ったじゃがいもを入れる! きつね色に焦げ目がつくまで揚げ焼き!」


 パチパチと音を立て、段々と色づいて来る。

 箸で表面をなぞり、バリバリとした音が出ていたら一度引き上げる。


「残った油は別容器に写して〜」


 空のフライパンにバターを入れ、溶かす。

 そこに再びじゃがいも。バターを吸わせ、まとわりつかせる。塩を適量入れ、味をつける。

 テカテカに光り輝くじゃがいもが出来たら完成!


「付け合せはこれでおしまい! さてさてハンバーグは〜」


 先程とはまるで別人。ふっくら、おおきく仕上がった。表面の焦げ目からとてつもなくいい香りが襲ってくる。


「念の為、火が入ってるかな〜?」


 中心の一番膨らんでいる場所に箸を刺す。赤色の肉汁だったら火は入っていないが⋯⋯プスッと空いた穴。そこから溢れ出る黄金色の肉汁。油が浮き出て、見ればわかる美味いやつ。


「そしたらハンバーグをお皿に乗っけて⋯⋯仕上げのソース作り!」


 フライパンの中にある旨みの塊。焼いてる時に漏れ出た、残り香とてらってらに輝く油。火をつけ、そこにケチャップとウスターソース。煮立たる調味料にバターを入れ、フライパンの底についてる旨みたちをこそげ取り、共に混ぜる。火が入り、気泡が浮き上がってきたら完成。


「皿の真ん中にハンバーグ。そして付け合せのブロッコリーとじゃがいも。そこに上から特製ソースをかければ⋯⋯」


【――完成、ハンバーグセット――】



「さて、出来上がったが、ここまでは入口にたっただけ。本番は⋯⋯これから!」



 ◇◇◇



「龍族の姫よ。この度は我が娘が多大なるご迷惑を⋯⋯」


「ごめんなさい」


「いやいや! 驚きはしたものの迷惑では無く⋯⋯」


 料理を運んでる最中、何やら頭を下げている、ノミマクールともう一人。姫龍の動揺と本人からの口ぶりからするに⋯⋯あの人が獣人族の王様⋯⋯


「ん? いい匂いが」


 お辞儀の時、鼻がピクリと動いた。しっぽが大きく円を描き、暴れている。


「おお! 飯郎ではないか! 出来上がったのか!?」


「出来たぜ! 渾身のやつが!」


 目を輝かせる姫龍。その後ろで顔を上げ、目が合った。


「龍族の姫よ。この方は? それになにやら良い香りがしてきますが⋯⋯」


「獣人族の王よ。この者は女神様が遣わした世界一の料理人。地球を住処に活動をし、異世界から来た飯郎じゃ!」


「なに!? 地球から来ただと! それに女神様に⋯⋯初見だった。すまない、挨拶が遅れて。私は獣人族の王をしている、ヤセガマン・ミズ・ノミマクール・デンジャラスだ」


「ど、どうも⋯⋯」


 まさかノミマクールが苗字だった驚きと、親子なのに違いすぎる見た目。姫の方は狼に近しいのに対して⋯⋯ぷにぷにの肉球! 毛の一本一本が艶やかに発光している。目は大きく、瞳が動く。夜目がとても良く効きそうな⋯⋯虎⋯⋯?

 差し出された手はものすごく気持ちのいい触り心地。

 ただ、


(ネコ科の人からイヌ科が産まれるの⋯⋯)


 変なところで感じるファンタジー。地球では考えられない事のオンパレード。


「さて、飯郎よ⋯⋯」


 切り出した姫龍。真剣な眼。俺の顔を伺っている。

 それに大きく頷き、話し始めた。


「獣人の王よ。この度、獣人族の方々がお目見えすると聞きまして、私が自ら料理を作らせて頂いたのですが⋯⋯御一緒にお食べになられませでしょうか?」


「ほう!」


 ピクピク動く耳。対してしっぽは動かず。


「王よ! はっきり言って飯郎の料理はこの世界で一番ぞ?」


 期待させるような顔。にやけ顔から予想できる雰囲気。


「それは⋯⋯」


「お父様、私も頂きましたがはっきり言ってレベルが違います」


「おお⋯⋯おお!」


 揺れ動く⋯⋯どころじゃないほど動く耳。バタバタと音が聞こえてくる。


「龍族の姫よ。迷惑で無ければ頂こう!」


「もちろんじゃ! それでは食堂に行くぞ!」



 ◇◇◇



「それではお召し上がりください。異世界で最高峰の肉料理。ハンバーグでございます〜」


 被せた蓋を開けた。途端、辺り一面に香りが広がる。


「なんじゃこれは!? コクのあるソースの奥深い匂いと、ガツンと主張してくる肉!」


「これはこれは⋯⋯確かに美味しそうです。ただ⋯⋯」


 そう言い、料理に鼻を近づけた。


「唐辛子や辛味のある匂いがしませんな。香辛料はお入れに?」


 空気が凍った。明らかに目が泳ぐ姫龍。料理を目の前に暴れていたのにしっぽが落ち着いたノミマクール。


「香辛料ですか⋯⋯」


 俺が喋り始めた時、二人が固唾を飲む音がした。


「勿論ですとも! 姫のノミマクール様からお話は聞いていますので!」


 目が点になり、明らか動揺する二人。口がパクパク動き、何やら言っている。


(飯郎!? お主嘘つきおったな!)


(この料理に香辛料入ってないんだけど!?)


「それでは頂くとしよう。異世界のシェフに感謝を」


 そう言い、ハンバーグを切り口に入れた。咀嚼音が だけが聞こえる。一言目。何を言い出すかと胸がはじけそうだ。


「う、美味い⋯⋯この世の中にはこんなにも美味しいものがあるのか⋯⋯

 ソースの滑らかで濃い味と、肉と玉ねぎの言った一体化。柔らかい食感の中にある歯ごたえが癖になる。

 肉肉しさと甘みとソースの酸味、どれを取っても再現できない」


 その言葉に目と口を開け、胸を撫で下ろした二人。ただ、安心するにはまだ⋯⋯


「所で聞きたいのだが⋯⋯何をお入れに? はっきり言って辛味は感じられなかったのだが⋯⋯」


(やばいぞ飯郎! どうする気じゃ!)


(お父様に嘘がバレたら⋯⋯殺され⋯⋯)


 心臓の音しか聞こえない。互いに顔を見合せて、この先の予測不可能な状況を乗り切れるか願うのみ。


「申し訳ないです。嘘をつきました。この料理には香辛料も唐辛子も何も入っていないです」


「⋯⋯」


 俺はそう言って頭を下げた。


(飯郎!? なにバカ正直に!?)


「ま! 待ってお父様! 私が頼んだの! だから!」


「静かにしなさい」


 その一言。たったそれだけで身の毛がよだつ。あまりの圧迫感と立っていられないほどの睨み。

 ただ座っているだけなのに、まるで死の寸前。首元に歯を突き付けられた⋯⋯そう錯覚してしまうほどの。


「さて、娘が頼んだのは分かったが。なぜ君はこの料理を私にだしたのかね? 説明して欲しいな」


「はい」


 至って冷静なくちぶり。ただ、顔を上げると。猛獣、手のつけられない虎が居た。生身の人間が逃げ場の檻の中で虎と対面した。相手の気分次第でいつでも殺られる⋯⋯握られた生殺与奪。


「そうですね⋯⋯はっきり言ってこれはただの自己満足です」


「⋯⋯ふむ? それはどういう?」


「聞きました。獣人族の歴史と、なぜ辛味を求めているのか。俺なんかには考えられない人々の想い。赤の他人の俺が口を出していい問題じゃない事も」


「そうか。それならなぜ――」


「ただ、そんな俺だから言える。今の掟はこの時代にそぐわない。それどころか足枷だと」


「⋯⋯なに?」


 皿が揺れ、机が揺れ。ミシミシと音を立てる建物。


「うおおう! 待て待て! この城を壊す気か!」


「お前に何がわかる⋯⋯お前に⋯⋯」


 震える拳。その手に詰められた想いと責任。苦悩の表情。


「ほんとにそうです。俺に言える資格なんてない。

 ただ――今のこの状況をご先祖さまが見たらどう思うか。それなら分かります」


 突如弾けたガラスのコップ。粉々に砕け散り、水だけが取り残された。


「そうか――それがお前の遺言か?」


 血走る目。おれを獲物と認識した⋯⋯そんなような。


「お父様待って!」


「馬鹿者! 飯郎逃げよ!」


 残像。迫り来る虎。二人が走っても間に合わないだろう。


「戦争を体験したばあちゃんから聴いたんですよ」


 目の前。ほんの数ミリ。開かれた口、そして牙。


「食べ物なんて無くて、あっても女には回ってこない。その場の空腹を凌ぐために山に行って食べ物を探したり、それでもダメならその辺の草を食べたって」


 小さくなる瞳孔。それを聞いて口を閉じた。


「俺が料理人を目指した理由。それは、ばあちゃんのご飯が美味しかったから。毎日たらふく食わせて貰って、その度に俺の顔を見て笑ったんだ。

 苦しい思い⋯⋯ 一生分味わった飢えの体験を可愛い孫に味わって欲しくない。そんな想いが」


「⋯⋯」


「ばあちゃんが俺にしてくれたみたいに⋯⋯料理一つで誰かを笑顔にする為に。それが俺の生きる道。そして⋯⋯俺が首を突っ込んだ理由。獣人族の王様よ、もういいんじゃないか。この世には美味しい食べ物が沢山あるんだ。その当時の人達が今の世の中を見たらなんて言うと思う」


 俺の言葉を聞き、空を見あげた。思いふけた顔。


「娘よ」


「なに⋯⋯? お父様⋯⋯」


 重い沈黙。やっと開けた口。


「お前はずーっと言ってたな。今の獣人族は遅れている、間違っていると。その通りだ⋯⋯分かってた。それなのに⋯⋯私は選べずに居た」


「分かってる⋯⋯お父様だって本当は変えたいと思ってたことも。今の私と同じように行動してたことも」


「違うさ。俺は思ってただけで行動などしなかった。進む勇気が無かったんだよ⋯⋯」


「王様⋯⋯どうするんですか。このまま同じように進むのか、それとも――」


 今になって震えが来た。覚悟が決まってたからか、アドレナリンが出ていたからか。ただそれも限界らしい。


「あ⋯⋯やば⋯⋯」


「飯郎!?」


「おい! 大丈夫か!」


 崩れ落ちるように体が地面に吸い寄せられた。皆の心配する声と顔。どんどん薄れゆく意識。


(この感じ⋯⋯前にも⋯⋯あぁ、これ死んだ時の⋯⋯)

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