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異世界偏食飯  作者: 愛姫
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激辛好きが攻めてきた!?

「飯郎よ⋯⋯」


「ど、どうした姫龍⋯⋯」


 呼び出され、入ってすぐに分かる物々しい雰囲気。

 机に両肘立てて真剣な眼でこちらを見る。


「実はな⋯⋯」


(な、なんだ⋯⋯)


 固唾を飲み、口が開くのを待つ。


「明日、近くの森に住んでいる種族がうちに来るのじゃ」


「ほ、ほう? お客さんてことか?」


「そうじゃ。ただ、ハッキリ言ってあまり仲が良くなくてな」


「どうしてだ?」


「その種族が⋯⋯その⋯⋯」


「? そんなに言いづらい事なのか?」


「いやぁ⋯⋯馬鹿舌なんじゃ⋯⋯」


「⋯⋯はい?」


 姫龍が言ってた隣人。その人たちは獣人じゅうじんと言うらしい。文字通り獣の人、つまるところ犬とか狼みたいな生き物が進化して二足歩行で喋るようになった⋯⋯らしい。


「そいつらはな⋯⋯辛い物しか食べないんじゃ!! 辛いどころじゃない! もうあれは毒じゃ! 素材を殺し、ただ辛味だけを求める狂人!」


「そ、それで馬鹿舌ね⋯⋯」


「頼む飯郎! そんなヤツらにも美味いと思わせる料理を作ってくれ!」


 机から身を乗り出して懇願した姫龍。思わず了承してしまったが⋯⋯



 ◇◇◇



「何作ろう⋯⋯俺辛いの苦手なんだよなぁ⋯⋯」


 生まれてこの方、作ってこなかった料理。食べれても中辛の口にそんなものが作れるか⋯⋯


「はぁ⋯⋯激辛じゃなくて、辛いものが合う料理だったらいけるんだけどなぁ」


「ほう? 例えば?」


「チーズ牛丼とかだな。チーズと肉のこってり×油。そこに酸味の効いたタバスコ。香りと味のどちらも邪魔せずに舌にガツンと来るんだよなぁ」


「他には何か?」


「後はキムチ鍋とか? 好きな食材入れて野菜や肉から出た出汁達が食材を美味しくするんだ。ピリ辛の食材達が食欲を掻き立てる! 残った汁にうどんを入れたり、白米を入れたり⋯⋯食いたくなってきたな⋯⋯」


「ピリ辛? それは赤子用ではないのか?」


「いやいや、辛ければ美味いもんでもないですから。

 程よい辛さが一番⋯⋯おいし⋯⋯」


 振り返って見てたのは黒。顔を上までやると天井に届きそうな身長。とても暖かそうな毛と随分立派な牙⋯⋯


「えっと⋯⋯誰ですか⋯⋯」


 厨房の中、料理人の誰かが話しかけてると思ったら⋯⋯全く知らない毛むくじゃら。


「私は獣人族のゲキカラーノ・ミズ・ノミマクールだ」


「水飲みまくるさん?」


「そうだ」


(それ辛いの痩せ我慢してるんじゃ⋯⋯)


「ええっと⋯⋯こんにちは。獣人の方々は明日来られると聞いて居たのですが⋯⋯」


「すまないな。うちらの種族は気分屋なんだ。一日早く来てしまった」


「な、なるほど⋯⋯」


 揺れ動く茶色と黒のしっぽ。俺の身長よりも大きそうなサイズ。


「それで⋯⋯ここには何を⋯⋯?」


「いやすまないな。激辛というの言葉が聞こえてな。思わず走ってきてしまった」


 なんとも言えない表情。眉一つ動かさず、淡々と喋る。感情が読み取れず、会話が難しい。


「申し訳ないのですが、ここはお客様が立ち入る所では⋯⋯」


 その時、腹の虫が聞こえた。


「すまない。私は腹が減ったようだ。何か作ってくれないか」


 なんとも掴みどころがない人物。何を思ってるのか分からない。ただ、何となく食欲がありそうなのはわかった。


「よし! 承った! 最高に美味いピリ辛料理を作るぜ!」


「頼んだ」


 そう言って頭を下げてきた。


「おう! 任せとけ! (外見はあれだけど中身はもしかして良い人達なんじゃ⋯⋯)」


 募る疑問。何から何まで聞きたいことだらけだ。


「でもまずは料理だよな〜さて、それじゃあまずは出汁から取る⋯⋯」


「すまないシェフよ」


「ん? どうした?」


「そういえば私、一週間以上ご飯食べてないから餓死しそうだ」


「⋯⋯え」


「早く胃に何か詰め込まないとこの場で倒れてお陀仏だろう」


 嘘なのか冗談なのか分からない。ただ、先程から暴れ馬のごとく鳴っている腹が真実を告げていた。


「まじかよ!? それじゃあ作戦変更! ネギを斜めに切って、油揚げ、豆腐、しらたき、しめじ、豚バラ肉を切る! その食材を鍋に詰めて水! そして粉末の出汁を入れて着火! 」


「おー手際がいい」


 まるで他人事のような感想。ますます変人に拍車がかかる。


「ん〜これだけだと料理したって言えないしな⋯⋯何か食べたいものありま⋯⋯あれ? どこに行った?」


「私はここだぞ」


 何故か下の方から声がした。見ると知らぬ間に地面に突っ伏していた。


「え!? 何してるんです!?」


「なに、立ちくらみがして起き上がれないだけだ」


「ウッソぉぉぉ!?」


「心配するな。具材達の匂いからカロリーを少しずつ摂取しているからな。後三時間は耐えられる」


「いや、死まで秒読み!?」


 グツグツと煮込むだけ。途中、出てきたアクを取り除いて放置するのみ。その間、何度も話しかけては煮え切らない返しが続いた。


「うーん⋯⋯そろそろいいだろ! かけるだけで出来るキムチ鍋の素! これを二回しすれば」


【完成! キムチ鍋家庭バージョン!】




「おお〜色味は赤いな。匂いは⋯⋯とても良い」


「ゆっくり噛んで召し上がってくれよ!?」


 こっちは急いでるのに本人は優雅に見た目を楽しむマイペース。


「それじゃあ頂こう⋯⋯まずは汁から」


 スプーンを沈め一口。目を閉じ、何度も舌で味わっている。


「な、なんだこれは!?」


 突然スプーンが叩きつけられた。


「ま! まさか口に合わなかったか!?」


 初めて露にした感情。眉間にシワがよっている。


「こ、これは⋯⋯」


 訝しんだ顔をして、よそったお皿を上に持ち上げ⋯⋯ひっくり返した。


「待て!」


 俺の声は届かなかった。次々に落ちる汁と食材達。それを見てとてつもない虚無感に襲われた。ただ見ることしか出来ない⋯⋯口に会う料理を作れなかった自分への怒り。

 スローモーションのように映る俺の目には食材達の悲鳴が聞こえて⋯⋯


「あーむ。うむ、美味すぎるだろこれ」


「⋯⋯え?」


 一口⋯⋯たったの一口⋯⋯口を開けたかと思ったら、落ちた食材全てを飲み込んだ⋯⋯


「シェフ。実は私辛いの苦手でな。とても有難かったよ」


「苦手⋯⋯? そうなの?」


 次々起きる感情の起伏。人を丸呑みできそうなほどの大口⋯⋯残った鍋を素手で掴んで掃除機のごとく次から次へと口に流し込む様子。みるみるうちに腹が膨れ、言われた衝撃の事実。


「飯郎〜我はお腹がすい⋯⋯」


 頭を抱えている時、キッチンの扉が空いた。


「あ、姫龍⋯⋯」


「な、なんで⋯⋯なんで獣人族の姫がおるのじゃあ!?!?」

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