表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命だと思っていた相手は、妹の婚約者でした  作者: Aro Aiura


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/13

欲した者と、積み上げた者

侯爵領からの調査を終え、三日ぶりに侯爵家へ戻ったとき。

私たちは、はっきりと“空気が変わっている”ことを感じ取った。


出迎えた侯爵夫妻は、以前よりも柔らかな笑みを浮かべ、まるで旧知の家族を迎えるかのように私たちを迎え入れた。

そして――そこに、エリシアの姿はなかった。


「あっ、あの妹は?」


不思議に思う間もなく、侯爵夫人は静かに告げた。


「エリシア嬢なら、すでに伯爵領に戻っていますよ。」


「えっ!?」


妹は、すでに侯爵家を去るよう命じられていたのだと、その時初めて知ることとなる。


四日前、侯爵家の応接室――。

レオンハルト、侯爵夫妻、そして妹――エリシアがその場にいた。


エリシアは不満げ顔を浮かべ、視線をあちらこちらへと向けていく。

その姿を見て、レオンハルトは静かに一歩前へ出た。


「エリシア嬢」


名を呼ばれ、エリシアは一瞬だけ期待に目を輝かせた。

――ついに婚約者として選ばれると、期待に胸を膨らませた。


「あなたを僕の婚約者として、選ぶことはありません。」


淡々と、容赦のない言葉。


「なっ……!? どういう意味ですの!?」


声を荒げる妹に、彼は眉一つ動かさない。


「使用人への暴言と暴力。

授業放棄と虚偽の報告。

社交の場での他者への侮辱。

そして――姉君を貶め、自身を良く見せようとした数々の行為」


一つひとつ、事実を積み上げる。


「それらはすべて、確認済みです。」


妹の顔から、血の気が引いていく。


「わ、私は……!

お姉様が地味で、頼りなくて……だから!」


「言い訳になりません。」


きっぱりと遮られた。


「努力する者を踏みにじり、

誠実な者を笑い、

選ばれる資格があると本気で思っていたのですか?」


冷たい視線が、エリシアを射抜く。


「私は――

最初から、アリアしか見ていませんでした。」


その言葉に、エリシアは息を詰まらせた。


「彼女は、誰にも見られないところで努力し、

誰にも誇らず、

それでも人を思いやることを決してやめはしませんでした。」


「……っ!」


「彼女は、あなたの影に隠れていたのでありません。

初めから光り輝いていたのは、彼女だけです。」


沈黙。


もはや、エリシアには取り繕う言葉すらもでてこなかった。


「よって――」


レオンハルトは、侯爵夫妻へ一礼した。


「侯爵家としても、これ以上の庇護は不要でしょう。」


侯爵が深く頷く。


「エリシア。

本日をもって、侯爵家の婚約者候補としての任を解きます。」


エリシアは震えながら叫んだ。


「そんな……嘘よっ!

私が、選ばれないなんて……そんなことあるはずないわっ……!」


レオンハルトは、最後に告げた。


「あなたがこれまで選ばれてきたのは、ご両親の愛情深さとアリアの努力の賜物です。」


絶対零度の凍り付いた瞳が告げていた、エリシアに対する嫌悪の感情を。


「その二つがなくなってしまえば、一体誰があなたを選ぶというのです?」


その言葉が、決定打だった。


エリシアは音もなく泣き崩れ、床に伏せた。

みんなが去った後も、彼女はしばらくその場から動くことができなかったが、誰も助けてもくれなかった。


「エリシア嬢、少しの間でしたがお疲れさまでした。

伯爵領に戻ったら、ご両親によろしくお伝えくださいね。」


最初は「お転婆な令嬢」として微笑ましく見守っていた侯爵夫妻も、次第にエリシアの本性を知ると、目を背けられなくなった。

侯爵家に滞在する“未来の婚約者候補”として、あまりにも問題が多すぎた。


そしてなにより決定打となったのは、社交界での評判だった。


実は――

社交界デビューの日、妹の素行を目撃していたのは、レオンハルトだけではなかった。


私と挨拶を交わした令息たちの多くが、あの光景を見ていたのだ。

私が疲れているだろうと、気遣いの言葉をかけてくれた直後、もう一度声をかけようと近づいたそのとき、エリシアの悪行はみんなの知るところとなった。


他にもエリシアとあった多くの貴族の間では、彼女は他人を見下し、品位をかなぐり捨てた態度を晒していたことで有名だった。


誰もが、それを“見てしまった”。


結果、社交界で囁かれていた「問題のある令嬢」は、実は私ではなくエリシアのことであった。

それを、侯爵家は正確に把握していた。


さらに、伯爵家――私の実家でも同じだった。


家庭教師も、使用人も、皆が私の努力と誠実さを認めていた。

けれど、その事実を伯爵夫妻だけが受け入れなかったため、公にされることはなかった。


侯爵家から事実を知らされたとき、伯爵夫妻は蒼白になったという。

長い間、比べ、誤解し、見誤っていた娘が、どちらだったのか。

彼らは、何度も何度も私に詫びたと聞いた。


そして、あの日。


私たちが侯爵領へ向かう出立の朝。

妹は、必死な形相で私に近づこうとした。


その瞬間――

レオンハルトは、迷いなく私を抱き寄せ、妹の視線を遮った。


はっきりとした拒絶。

誰の目にも明らかな、選ばれた者と、そうでない者の境界。


妹は言葉を失い、その場に立ち尽くしたまま、やがて背を向けて去っていった。

それが侯爵家でのエリシアの最後の姿だった。


こうして、すべては終わった。


侯爵夫妻は、私が婚約者となってことを心から喜び、

レオンハルトは誇らしげに私の手を取り、

多くの人々が祝福の言葉を贈ってくれた。


「何も選ばれない」と信じ込んでいた令嬢は、

初めて――自分自身の意志で道を選び、

そして、選ばれた。


「行きましょう、アリア。」

「はい、レオンハルト様。」


これは、誰かを蹴落とした物語ではない。

ただ、誠実に生きた者が、正しく報われた物語だ。


唯一、自分で選んだ幸せを手に入れた令嬢は、

穏やかな笑顔で未来へと歩き出した。


――おしまい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ