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第二章 兆し モングレトロスの民

「あの子はどこに行ったやら。」

 女が一人、我が子を探している。、

 「またお山じゃないのか・・剣術の稽古に。」

 「やらしておけ。」

 「ここに生まれた子なら当然のことだ。」

 村の者達が次々とその女に声を掛ける。

 「とにかくお山に登ってみろや。」

それから暫く、十二、三の男の子が母親に耳を引っ張られ山を下りてきた。

 村人がほほえましそうに笑う中で母親の説教が飛ぶ。

 「家の手伝いもしないで一日中遊んでいるんじゃ無いよ。」

 「そう言ったって・・・」

 男の子が口を尖らす。

 「剣術やらを憶えても何の足しにもならないよ。家業を継ぐことだけをお考え。」

 「それは違うぞ、ニナ。この村に生まれた者としての使命がある。」

 「そうだ、平々凡々と自分の食い扶持だけを考えればよいというものではない。」

 村人が次々とニナの言葉に異を唱える。

 「だからって・・あんた達がそんなことばかり言うから、村人がここを去って行くんじゃ無いか。」

 「そういう者もおろう。が、我等は時に備えなければならない。」

 村人達の後ろから、嗄れた声が響いた。

 「長老様。」

 そこに居た皆が頭を下げる。

 「最近・・子供達が血を(たぎ)らせておるようじゃ。

 何かが・・我々が恐れる何かが始まろうとしているのかも知れん。

 感受性の豊かな子供達がそれに感応しているのかも知れん。」

 「それじゃあ・・・」

 「何が起きているかは解らん。・・・だが備える事じゃ。」

 

 その夜、村長(むらおさ)の家に村の主だった者達が集まった。

 その中で

 「星々が騒ぎ、日が揺れておる。」

 「大婆・・どういうことじゃ。」

 天の声を伝えると言われる老婆の声に長老が尋ねる。

 「何が起こっているのかは解らん。

 だが、大地がざわめいておる。時に備えて置かねばならぬ。」

 「子供達が騒いでいるのは・・・」

 「感応しておるのじゃ。

 時に感応しておる。

 その子供達こそがこの世を救う未来じゃ。」

 一人の壮年の男の声に老婆が応えた。

 「育てなければならぬか・・死を覚悟できる子等を・・・」

 村長(むらおさ)の言葉にその場が重く静まる。

 「それが我等の掟・・従わねばならぬ。」

 その静寂を破り長老の声が重く響いた。


 翌朝、時に感応したと思われる者達が老若男女を問わず広場に集められ、それ以外の者達は村の外へと遠ざけられた。

 残ったのは村長(むらおさ)、長老、大婆そして数人の村役だけ。

 その中で村長(むらおさ)が声をあげる。

 「何に感じておる。」

 「解りません。」

 そこに集まった者達が異口同音に答える。

 「血が騒ぎます。」

 「気持ちが落ち着きません。」

 「何かに押されるような感じがします。」

 その中から何人かが答え、その一つ一つに皆が頷く。

 そんな中、ニナの息子だけは黙って大婆の目だけを見ていた。

 「お前かい。」

 大婆の皺だらけの手がその子の頭を撫でた。

 「もう良いようじゃな。皆励め。」

 長老がニコニコと笑いながらその場の解散を告げた。

 村人が戻ると村長(むらおさ)は村はずれに修練所を造ることを提案した。

 何のために。と反論する者もいたが、モングレトロスの民の勤めだ。という村長(むらおさ)の言葉に人々は従った。

 修練所・・そこは肉体的な訓練を行うだけで無く、知識、戦いのための本も(うずたか)く積まれる予定だ。

 そこに若者を集め教育を施す。教授は・・いない・・・今のところ。

 その教授を探すために数人の気の利いた村人を各地に派遣することになった。

教練と学習の日々。モングレトロスの若者達は修練所の建物が建つ前から、日課に追われだした。

 村人総出の協力で修練所を建てる目途は立った。しかしこの貧しい村に残る問題は経済。若者の教授となる者も見つけても、その報酬はどうするのか。武器と防具を買い集める金はどう工面するのか。村長(むらおさ)を初めとする者達はこの問題に頭を悩ませた。

 修練所も出来上がったある日、教授となる者を探しに行った村の者が一人の戦士を連れて帰った。その男は赤黒い鎧に身を包み、槍とグラディオスと呼ばれる短い剣を持っていた。

 その男を教授にまず武術の訓練から始まった。

 槍と剣に若者達が振り分けられる。

 「馬に乗れる者はいるか。」

 鎧の男が声を掛ける。

 それに数人の若者が手を揚げ、その中にニナの息子もいた。

 「お前等は兵を率いねばならん。

 そしてその中の一人が軍の長となる。

 それを俺が選ぶ。」

 皆の前で宣言する戦士の肩を老婆のしわくちゃの手が叩き、一人の子供に顎をしゃくり、その姿に戦士が目をやる。

 「あの子が選ばれた。」

 何の事やら解らなかったが、その戦士は頷くしかなかった。


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