9.戦前の憂鬱
ハロルドは落ち着かない様子で元はジャンナガーデンの鍵だったブレスレットを撫でた。
それは美しいものの、少しの変化が見られる。水色の石に金色の光が混ざってより美しくなっており——……何より、もうハロルドから外れないようにしてもらわなければいけないような物体になってしまった。加えると、ハロルドの死後、もしくは手首を切り落とされるなどで外れた場合も同様だ。
(妖精王と神二柱の力を借りたブレスレットとか、俺には重過ぎる)
胃が痛い。
ただ、必要になりそうだとは感じている。
セルピナの動向はわからないが、何やら含みのようなものを感じていた。
納得したように見せたのはユースティアの目の前だったからだろう。彼女は恐ろしい女神ではあるが、存外、人がいい。
セルピナが今まで人に対して、そう厄介なことを引き起こしたことがないのなら、ハロルドほどに彼女を警戒してはいないだろう。
その点を思えば、コンタクトを取ってきた彼の方がよほど感覚が近いかもしれない。
「もうすぐ、か」
友人を拐われ、家族を危険に晒された。
だから、必要以上に手を下すことを躊躇しているわけではない。
しかし、大きな力を行使するときはいつだって気が重いものだ。
逃げてしまいたいと思うほどに。
「ハル、寝れねぇのか?」
「……うん」
隠しても仕方がないことなので、素直にそう返す。
すでに深く寝入っているロナルドの姿を確認してハロルドは苦笑した。かなり図太い。
「どうしても、色々と考えることが多くて」
「そりゃそうだよな」
アーロンだって、今の状況に思うところはある。神に対しても。
だが、どうやったって『人』がどうこうできる問題ではないのだ。だからこそ、少しばかり嫌いになってしまった神もいるのだが。
「悪人でも人死にが関わると気分も悪い」
「そうだよね」
しかも、自ら手配しなければいけないというのがさらに気が重い。
友人が共に巻き込まれてしまっているのも、辛い。
いつだって、それが変わることはない。
「とりあえず、ブライトが脱出したことだけを喜んでおこうぜ」
少し前に届いた伝令を思い出して、二人は頷いた。
彼はどうやら、花香の魔導武器をしっちゃかめっちゃかにして兵の一部をのした上で、馬を掻っ払ってこちらに移動しているらしい。
手紙には、「あんまりうるさいから、ケリーさんで二、三人ぶん殴ったらようやく静かになったよ」と書かれてあったが、これは流石にカトルには言えないな、と両者共思った。
ところで静かになったのはケリーなのか、相手なのか。
と、同時に「そんな面白いことがあったんなら見たかった」と思ってしまったあたり、二人からケリーへの好感度は低かった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
どっちもかもしれない。
【お知らせ】
続刊、コミカライズが決まりました!!
最新4巻は1月25日発売いたしました。
WEB版より3万字程加筆しております。
コミカライズに関しましては、情報解禁許可が出次第、またお知らせさせてください。
現在、1〜3巻も好評発売中です。こちらもよろしくお願いいたします。
4巻店舗特典はこちら↓
OVERLAP STORE様
書き下ろしSSペーパー『黒猫と王女様』&イラストカード
全国の特約店様
書き下ろしSSペーパー『苦労神と苦労人』
これも応援していただきました皆様のおかげです。引き続き、本作をよろしくお願いいたします。




