6.実りなき国
ブライトが実際にハロルドの父を振り回しながらやらかしているのを知らないハロルドたちは、彼が無事だと信じつつもやはり心配していた。
ケリーがどうにも子どもを守るタイプの大人に見えないことも原因の一つかもしれない。
「それにしても、砂漠が終われば次は熱帯雨林。そこを越えればまた砂漠なんてどんな地域だよ」
ロナルドがそうボヤきながら周囲を見回す。草木全てが枯れ果て、辛うじて少し傷んだ家々がある。
動物も見当たらず、稀に住民らしき影を見るが、総じて痩せ細っている。
花香に入ってからずっとそうだ。マーレ王国のように病が広がっているわけではないのに、その状況の深刻さはこちらの国の方が上かもしれないと思えるほどだ。
あるいは、緑が少しも見当たらないことも原因だろうか。
「この国で食糧が手に入らないだろうって教えてくれたジャファル王太子殿下にはお礼をしとかないとね」
ハロルドたちがラムル王国を通過すると聞いていたらしい王族から、手紙が送られてきて、そこに忠告として書かれていた言葉を思い出して苦虫を噛み潰したような顔をする。
確かにそう書かれてはいたが、ここまでの事態だなんて思ってもみなかった。
しかし、一方でここで不用意に手を差し伸べてはいけないことも理解している。
女神の機嫌を損ねる可能性が高く、加えて、他国民であるハロルドたちが一時的に手を出してどうにかなる問題ではない。場合によっては状況を悪化させるだろう。
他国からの支援などではなく、もっと根本的なところから変化しなければ、どうしようもないだろう。
「この国に来てから、何度か襲撃も来てるけど、弱いし面白くねぇな。噂の武器でも出してくればいいのによ」
ロナルドの口から出たそれに、黄暁明が「無理だろうな」と答えた。
「こんな国に来る妖精も、精霊も、もういない。以前はマーレ王国からも輸入していたそうだが、今は政治体制も変わって、この国とは縁を切っているはずだ。奴らにとって『燃料』となるべきものも、それを使用する人間の魔力も枯渇している状況で、魔導武器など使用できるはずもない」
「人間の魔力の枯渇……?」
「はい。神の怒りかは分かりませんが、花香の国民のほとんどは、魔力を持たずに生まれてきます。魔道具すら、扱えない程に」
「自業自得、というやつなの」
暁明の肩に、緑色の翅を持つ愛らしい妖精が座る。ふん、と鼻を鳴らしてサイドテールにした髪をくるくると指でいじる。
かつて、ローズたちと共にマナという名の女性と旅をしていた妖精の一人であるジニアだ。
花香に嫁いで行ったマナと共にいた彼女は、現在、その息子である暁明と共にある。
「だからってやっていい事と悪いことがあるものだ。特に……お、私から母を奪い、ジニアを奪おうとした連中です」
母子揃ってよくない扱いを受けてきた暁明の目は荒んでいる。落ち着いているのは、この国の終焉が近いことを理解しているからかもしれない。
暁明自身は自分も処されることを覚悟している。半分はこの国の血が入っているし、少しとはいえ、ハロルドたちの身を危険に晒した。ジニアはそのことを心配に思っているけれど。
人の生まれは変えられないものだ。彼自身のせいでないことを、罪に問わないでと願うことしかできない。
「まぁ、とりあえずはブライトを拾わないと」
「それだけではないでしょう?」
不機嫌そうな女の声が響く。
赤く、長い髪が美しい女だ。
フィアンマ帝国皇帝であるカトルが、そこにはいた。
「私のものを奪った対価を、必ず支払わせなければ」
弧を描く唇と獰猛な笑みを見たハロルドは「自称父はよく死なずに済んだな」としみじみ思うのだった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
ブライトは守られるタマか?という意見は置いといて。
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