4.夢は遙か遠く
この枯れ果てた大地に、いつか緑が芽吹くことを夢見ていた。
精根尽き果て、常に飢えと明日の心配をしている民たちに笑顔を取り戻すことを夢見ていた。
何も、犠牲にせずに済む。そんな国を、夢見ていた。
何もできない彼には全て『夢』の話に過ぎない。
権力でも、魔力でも、腕力でもいい。何かしらの力があれば変えられたものもあるかもしれないが、自身は飾りに過ぎず、何の力も持ち得ないことを知っていた。
友だと思っていた黄暁明ならば、あの魔力で何かを為せただろうか。
そんなことを考えながら、花香という国の東宮である紫俊熙は窓の外を見た。
(まぁ、私も彼奴に妖精の力をくれないか、と頼んでしまったからな。離れるのは仕方のない話だろう)
暁明がジニアという名の妖精を隠していることは察していた。
そして、国の状況が悪いことを知っていた。だから、国のためにと頼み込んだ。
けれど、どこか甘く見ていたのだ。
暁明の妖精への愛と、花香という国への憎悪を。
(今度、暁明が戻ってくる時は、この国が滅ぶ時だろうか)
父も、その側近も『神』という存在を甘く見過ぎている。
あれは、利用できる存在ではない。手を出していいものではない。
敵に回して、良いものではない。
俊熙が少し調べるだけで理解したそれを、誰もが否定する。
神などいない。神がいれば自分達は救われていたはずだと言って、それを否定する。
順序が違うのだ。
神に、弓引いたから。だから、花香は見捨てられたのだ。
神がいたとして、救われるはずがないのだ。
「それでも、民は守らなくては」
そっと首に触れながら、彼はそう呟く。
皇族の命は『そのためにある』ものだという自覚が、少なくとも俊熙にはあった。
されど、その前にやるべきことをやらなければ。できることを、しなければ。
「じゃあ、ちょっと知ってることを吐いてもらえると嬉しいなぁ」
気づかぬ間に入り込んだ少女の声に振り返る。
そこで、紺青の髪にレディッシュピンクの瞳の乙女、のような何かに、俊熙は暫し見惚れた。




