1.とある国の、終わりの始まり1
花香に到着したブライトたちは皇帝の前に引き摺り出されていた。
殺されたらどうしよう〜なんて直前までぴえぴえ泣いていたケリーと違って、手錠を見ながら「まぁ、いざとなれば逃げられるか」と判断している彼は冷静だ。
(ハロルドくん、ほんっとにコレと血が繋がってるの?まるで似てない……いや、顔だけは少し似てるか)
ブライトはそんなことを思った後、自分も他人のことはどうこう言えないかとため息を吐く。ブライトと他の兄妹だって似ていない。母似の顔立ちに、ベキリー家特有の髪と目の色ではあるが、内面はまるで違う。生育環境によって人間はある程度変わるのだろう。そんなことを思っていると、連れてきた男に無理やり頭を下げさせられた。
(乱暴にしないで欲しいんだけど!)
心の中で舌打ちをするが、ブライトにとって彼らはすぐに蹴散らすことのできる雑魚にすぎない。仕方なく受け入れてやることにする。
「それで、神獣の契約者というのは……」
「は。そこの少年にございます」
そう告げる男を前に皇帝は満足そうに頷いた。
神獣にとって契約者は大切なものだ。特に、フィアンマ帝国の神獣はつい先日まで力の大部分を失っていたという。契約者がいなくなれば自身がどうなるかを考えれば、おそらくすでに追いかけてきているだろう。自分たちは少年を閉じ込めて、それを待つだけでいい。
「豊穣の女神の子は守りが堅く、奪取することは叶いませんでした。その周囲の妖精も同様です」
「そもそも、あの妖精たちは我々が今まで相手にしてきた者たちとかなり違うように見受けられます。もっと入念な準備が必要かと」
その言葉に、皇帝は鷹揚に頷いた。
男にとって、重要なのはこの国の存続だけだ。そうしなくては、王で居続けることができない。
「その点、この少年は実に素晴らしい。彼自身が餌となるだけでなく、事が終われば梟に売り飛ばす事ができる」
男たちの楽しげな声に、ブライトは口角を上げそうになるのを必死に抑えていた。毒の効きづらい彼をも沈めるような毒、その主が彼らの裏にいると確信していた。
ブライトには、もうその薬は通用しないだろう。しかし、相手が彼の友となると話が変わってくる。
(調子に乗って、全部吐いちゃえ。今度はこちらから殺しに行く番だ)
ブライト・ガーネットという少年の異常性を把握せぬまま、楽しげに『これから』の話をするこの花香という国の皇家とその側近たち。
伏せられた瞳に悲壮さはない。ただ、「これからどう動こうか」という計算が彼の脳を駆け巡っている。
「ついでにこの男を使って、フィアンマの女帝から金を巻き上げるとしましょう。良い取引になりますよ!」
ブライトは、楽しそうな男たちの声を聞きながら「それはやめといた方がいいんじゃないかなぁ」と思ったが、こんな国がどうなろうと知ったことではないので口を噤む。やはり、この国は何も知らないのだ。それを少しも哀れに思うことなく、ただ都合がいいと思うのは、ブライトもまた怒りを感じているからだろう。




