34.この差は
ロナルドはハロルドの言葉の真意を探ろうとしていた。
何せ、ハロルド・アンバーという男はただの錬金術師であるはずなのに自分より多くの神の加護を得て、王家より信頼もされている。
(一時は俺が断られた王家との縁談も出てたらしいな)
王になろうとまでは考えていなかったものの、勇者という存在であるからには『姫』というトロフィーを欲しいと考えていた。未婚の王女であるアンネリースは愛らしい顔立ちとどこか儚げな雰囲気の少女であり、ドロレスは勝気そうな美しいという言葉が似合う少女である。
気が強い女は面倒であると考え始めていた時期だったので、アンネリースがもらえないかと考えていたが、入学してからの様子を見るに、見た目通りの性格とは思えなかった。ポンコツ感があって、欲しいとは思わなくなった。一応、イベリアという公爵令嬢が婚約者として割り当てられたということは、国も『勇者』である自分を尊重すべき存在と認めているのだろうと考えてはいる。
実際は、ルートヴィヒから引き離すための手段に過ぎないのだが、王家に距離を置かれているロナルドにそんなことはわからない。
しかし、そんなロナルドから見ても、狙われがちなのは、王家から信を得ているのはハロルドだった。
(狙われるのは弱いからだと思ってたが、魔法での戦いならかなりやれる方だろ)
実際に目の前で様子を見ていると、彼と妖精たちの実力が決してなめて掛かって良いものだとは考えられない。イオほどでなくても、攻撃手段もえげつない。
それに加え、アーロンという存在も大きい。こんな人間が近くにいるようであれば、力量の差が理解できるような者は近寄らないだろう。
だとすれば、弱いから狙われ、守られているだけではないのだとロナルドにも想像がつく。
(こいつは、単純に便利で役にたつんだ)
大地と豊穣の女神からの寵愛を受け、植物を育てる才能がある。それに加え、おそらく複数の神などから力を得ている。現在、魔物のせいで穀物が食い荒らされ飢饉の恐れがある地域もあると聞く。であれば、ハロルドの力は本当に単純に国の役に立つのだろう。
加えて、当人が『いい子ちゃん』だ。そのことにロナルドはあまり魅力を感じないが、国王などにとっては都合がいいだろう。
英雄になることが確定している自分よりも優遇されていると感じるのはかなり不服だが、そう考えると理解はできる。
ロナルドは思うのだ。
自分と、幼馴染に、何の差があるというのか。
強い力を持つのは自分も同じだ。戦いに寄ってはいるが、ロナルドの能力も高いと言える。
だというのに、どうしてここまで『差』を感じるのだろうか。
そんなことを考えていると、いい匂いがしてきた。
馬車の戸を開くと、ハロルドとアーロンが鍋を囲んでいた。何かが弾けるような音がする。
「揚げ物ってどうしてこんなにいい匂いするんだろうな」
「にんにくと生姜の匂いがこう、いいよね」
よく見ると、肉を揚げている。
懐かしの唐揚げのようだった。
「イイもん作ってんじゃねぇか」
「「あ」」
ハロルドとアーロンが止める前に、ロナルドは一個摘み食いをした。
塩唐揚げのようだったが、こちらの世界で食べられると思っていなかったことを思うとよいものだ。
「鳥の唐揚げか」
「鳥じゃねぇぞ」
「は?」
「フロッグ系の魔物肉だよ」
フロッグ。要するにカエルの魔物である。
鳥系の魔物や肉と比べてかなり安価で手に入るので、平民ではお馴染みの素材であったりする。
しかし、ロナルドの価値観ではそんなもの食べられるものではなかった。
「なんてもん食ってやがるんだ!?」
「普通の食用の肉じゃねぇか」
「そうだよねぇ」
ロナルドはやっぱり彼らが理解できなかった。
そして、若干悔しいことに味は美味しかった。




