30.精霊猫1
不思議な精霊猫と共に、ハロルドたちは宿へと戻った。その部屋の中で、ハロルドは考え込んでいた。
「いつまでも『猫』呼びは不便だな……」
「そうだな。でも、名前つけるとそれこそ置いていけなくならないか……イッテェ!脛を噛むな!!」
猫は、本当に離れる気がなさそうだった。
むしろ、置いて行こうとすると脛やら頭やら鼻といったかなり痛い場所に的確に攻撃を仕掛けてくる。絶対付いていってやるぞといった謎の気合いが感じられた。
「何でこんなに懐かれたんだろう……」
ハロルドは虫系の魔物にブチキレながら農業をしていただけである。
妙にルンルンで着いてきたが、意味はわからない。
「これ、連れていくのに国の許可とかいったりしないよな」
「ええ……勝手に付いてきたのに……」
そもそも、フォルツァート関連の猫なのでは、と思いながら白猫を抱き上げる。とても可愛らしい。
「それにしても、フォルツァートがハルを指名してきた理由は絶対コイツだよな。大地と豊穣の加護か農業適正の方かはわからねぇけど、あれを勇者がどうにかすんのは無理だろ。マリエさんも向かないだろうし」
アーロンがそんなことを言いながら猫を撫でる。その足元で、スノウがアーロンを思い切り頭突きしている。ハロルドにはわうわう言っているようにしか聞こえないが、彼には何を要求しているのかが理解できるようで、抱き上げて頭を撫でてやっていた。とても狼とは思えない。そして、かなり満足そうである。
「何を考えてあんなダンジョンを用意したのか。あれ、多分試練型ダンジョンでしょ?」
「先生たちの予想みたいに呑み込まれてああなったのか、始めから勇者に試練を与えるためのものだったか……。ま、俺らが考えることじゃねぇだろ」
肩を竦めるアーロンに、ハロルドは「そうだね」と返して微笑む。
そう、関係がないはずだ。
しかし、フォルツァートが自分たちを巻き込もうとしていることがどうも気になる。
それは、ロナルドへの気遣いなのか、安全策なのか。関わりが薄い神のやることは知っている神々よりもなお想像がつかない。わかっていることは、ロナルドが危険な目に遭って死んだ場合、理不尽ともいえる災厄に見舞われる可能性が高いということだけだ。
(みんな、フォルツァートを何も考えていない、って言うけど、その行動に、本当に意味はないのか?)
そんなことを考えるハロルドの膝の上で、妖精女子組と精霊猫が場所を争っていた。相手が妖精だからか割と本気の猫パンチが繰り出されている。
「猫が虐めるぅ!!」
「置いてこ」
「ね?可愛いはアタシたちで十分よね?いらないわよね!!」
今日も彼女たちは騒がしかった。




