27.猫の間
「なるほど」
ハロルドは目の前の惨事に引き攣った顔をしながらそう言った。
単に植物を育てただけでクリア、というのはやはり虫のいい話であったらしい。
虫の魔物大発生だけに。
「なるほど……」
二回目のなるほどには薄らと殺意が籠っている。
ハロルドの趣味は家庭菜園である。
そして、ハロルドの野菜は美味しいがゆえに多くの獣、虫、魔物に狙われてきた。幾度も対策を重ね、その結果として結界の魔道具を作り出すくらいには苦労をしていた。
「久しぶりに、かなりムカつく」
「虫嫌い」
ハロルドの上でネモフィラも嫌そうな顔をしている。
そこにあった種は麦だった。それを魔法で育て切った瞬間に大量の虫の魔物が現れた。それは真っ直ぐに麦に向かって飛んできて貪った。ハロルドも結構な数を倒したが、追いつくような量ではない。
「家だったらもう少しまともな対策が取れるのに……本当に、人の努力を何だと思ってるんだこの虫共は」
該当の魔物だけではなく、今まで苦労させられてきた分の苛立ちまで重なって、かなり本気の殺意に目覚めている。冥神セルピナが見たら「それ!その感情を彼らに向けてくれないかなぁ!!」と言いそうである。
「よし。アレを使おう」
「アレってぇ……確かみんなに止められたやつぅ? 益虫も殺しちゃうからって」
「大丈夫。ダンジョンに普通の虫はいない。敵は滅するもの」
リリィはハロルドに向けられた穏やかな笑顔に逆に震えが止まらなかった。笑顔なのだ。本当に、優しそうな。
だが、その目だけは殺意に燃えている。
「その前に……この子は生きてるみたいだからちゃんと保護をして」
白猫に守護呪符を使用すると、ハロルドたちは容赦なく蚊取り線香に似たものを取り出した。明らかにヤバそうな紫色をしている。
「ローズ、火をつけてもらえる?」
「了解!」
「リリィ、ネモフィラ、ルクス。もう一度やるよ」
「はぁい」
「わかった」
「はい」
ルアは白猫と一緒に座っている。
ハロルドたちの殺意に満ちたダンジョン農業を見ながら、「植物を育てるのは、戦いなのだな」と呟いたルアに答えるように、白猫が「ナァーゴ」と鳴いた。
なお、仕留めきれなかった虫もいたため、ハロルドは更に線香を増やしてもう一度育てることになった。
終わった頃の目は血走っており、「虫系の魔物はすべて滅ぼすべきでは?」とかなり極端なことを言っていた。
しかし、やった甲斐はあったのか、白猫は面白そうに一鳴きすると、ハロルドの肩に乗ってきた。ゴロゴロと喉を鳴らし、頬擦りしている。
その猫を腕の中に移動させて、ハロルドはようやく開いた扉の向こうに進むのだった。




