12.聖剣を求めて
ハロルドは自分が餌付けしているなんて自覚のないまま、とりあえずおやつを神殿にお供えしていた。フォルテにきちんと届いているのは把握済なので、これでよしと思っている。
(それにしても、俺が作った菓子なんてそんなに価値があるか?)
ハロルドはそう思いながら首を傾げるが、ルートヴィヒは「多分妹たちは気にいるだろう」という自信があった。特に第三王女ドロレスは流行り物が大好きだ。彼女に気に入られたならばおそらく、王妃パトリシアや姉であるクラリッサに話が行き、そこから貴族間でマカロンが大流行りするだろう。なんとなくそれが予想できた。アンネリースは単純に可愛いものが好きだ。丸くてカラフルなお菓子に瞳を輝かせる姿が容易に想像できる。
(今度はもう少しデコレーションしてみるか……?いや、うちの妖精たちが毎回それを強請って来ても面倒)
ハロルドは元々お姫様向けに作ったものではないしと開き直った。凝ったものを作れば作っただけリリィのこだわりが増していく。甘いものに目がない彼女は、小さな体であるからあまり食べられない。その分、『できる』と思ったなら毎回やらせようとする。
逆にネモフィラは野菜が美味しく食べられれば満足なので、盛りつけなどにさして興味はない。ちょっと楽である。
「ハル、そろそろ戻るか?」
「そうだね。ほとんど手配は終わったし」
それに、ハロルドに文句を言うために神殿へ乗り込んできていた貴族の面々はおおよそウィリアムに追い返されていた。そのせいで中々外に出られなかった彼らは同時に溜息を吐いた。
シャルロットの持つ聖剣が欲しいなんて理由で、縁談を申し込む人間の方が悪いだろう。
背後にいるのが、この国で一番多く神の加護を得ているハロルドだとはいえ、爵位が低いためか舐められている部分もあった。婚約者が侯爵家の令嬢とはいえ、ハロルド自身にはつけ入る隙があると思われているのだ。
「勇者がまだ聖剣を持っていないせいだろう。しつこいな」
「フォルツァート神にでももらえばいいのにね」
「本当にな。自分たちが手に入らないからと、他から奪う行為は見苦しい」
ハロルドに「お前が新しい聖剣を作れ」という手紙を送りつけてくる者もいる。無茶を言うなという話である。そもそも、シャルロットの聖剣を修復しただけでも手が焼き爛れて大変な目にあった。手をさすりながら「痛かったなー」と棒読みで呟いた。
聖剣に認められなければ、修理目的だろうと容赦なく手を焼いてくるような剣だ。できればもう関わりたくない。
「あんな自由にならない剣を持っていたってどうにもならないと思う」
そんなことを言いながら、「そういえば、あの声はどの神様だったんだろう」なんて思って首を傾げた。割とどうでもいいので忘れていた。
「そういえば、母上が昔、聖剣の話を少しだけしていたような……」
「へぇ……」
「マーレにある剣の話ゆえ、私たちには関係がないことだが」
聖剣の伝説があるのは、エーデルシュタインだけではない。聖なる槍もあれば、盾の伝説がある国もあるという。
ハロルドも話だけなら「面白いな」とワクワクしながら聴くことができる。
(まぁ、作ったり修理したりはもうやりたくないけど)
命の危険だったから、痛いのを我慢して修復したが、ロナルドのためになんて絶対そんな思いをしたくなかった。




