34.彼女の本音
夜になって、そっと外に出る。ルクスとルアだけがハロルドと一緒だ。珍しいのはローズが真っ先に「部屋で寝ているわ」なんて言ったことだろうか。
空を見ると、たくさんの星が見える。前世の日本ではもうあまり見れないような空だった。
「ハル」
名前を呼ばれて、駆け寄る。そこにいたのは婚約者であるエリザベータだった。遠くに数名が控えているのが見える。それを見ると、何となく環境が大きく変わったことを自覚する。
「どうしたの、エリザ?」
「どうしたの、はこちらのセリフです。どうして一人で外に出ているの?」
「たまには一人になりたくなるよ。……それに、彼らもいる」
頭の上と肩でルクスとルアが手を振った。
それを見た彼女は、「今日はあのおしゃべりさんたちではないのね」と呟いた。確かに妖精の女性組は割と騒がしい。それをよく知るハロルドは苦笑した。
「あなたのお義祖父様とお義祖母様、本当に良い方たちね。ハルが真面目で優しく育ったこと、わかる気がするわ」
「そうかな。少しでも自慢の孫、と思ってもらえていればいいんだけど」
どこか弾んだハロルドの声に、エリザベータはどこか寂しそうな笑みを浮かべた。
彼女には家族、というのが縁遠い存在だった。だからこその、羨望と不安。それに、魔道具を通じて聞いた特例法による婚姻の件。どこか動揺があったのは否めない。
そうできることは知っていた。けれど、話の全てを叩き潰してきた。
「ハル」
「なに?エリザ」
この優しい声が、手が、瞳が。
自分以外に向けられるなんて、許せない。
「わたくし、あなたのことを独占したいのです」
それは願うような、請うような、縋るような、彼女の本音だった。
エリザベータは家族に恵まれなかった。だから憧れた。愛し、愛される関係に。自分が得られなかったものを、手に入れたいと願っていた。
それは目の前にいるハロルドと出会ってようやく手に入るかもしれないと思えたものだった。
他の誰かに奪われるなんて、もう嫌だった。
「そう思ってもらえて嬉しい」
そう言って微笑みかけてくれるハロルドだから、希望を持ったのだ。
「けれど、あなたが望むなら、わたくしは」
そこから先を言う必要はない、とハロルドは人差し指で彼女の唇を軽く押さえた。
「誰?君に要らないことを吹き込んだのは。俺はまぁ……確かに複数の神様から加護をいただけたけど、それをいいことにたくさんの妻を迎える気はないよ。ミハイルの言い分だと、もう一人は迎えるべきって感じだけど、俺は君を大事にしたいし」
呆れたようにそう言うハロルドに、エリザベータは消え入りそうな声で「そういう声は、前からありましたの」と答える。
「君は嫌だったんでしょう?」
「はい」
「じゃあ、そう言っていい。困るな、と思うことはまぁまぁあるけど、君からの独占欲?それは厭うほどのものではないし。さっきも言ったけど、俺は君を大事にしたいし、ちゃんと好きだよ。君ほど俺を思ってくれる人がどこにいるって言うんだい?」
エリザベータは間にさらっと挟まれた好きだよという言葉に赤面した。初めて真っ直ぐに伝えられた言葉だ。
いつかは自分だけの婚約者でなくなるかもしれない。けれど、ハロルドはエリザベータの心情を慮ってくれた。そう言っていいのだと肯定してくれた。
(ならば、強くならなくては)
一番好きな人が、誰からも傷つけられることがないように。




