6.女神案件
謁見の申し込みはすんなりと通った。珍しいハロルドからの連絡に、何かが起こっていると勘付いたからだろうか。
妖精たちの作った扉から入ると、ウィリアムとシャルロットがいた。
「あれ、お久しぶりです」
「お久しぶりです、ハロルドくん」
にこやかに挨拶を返してくれるウィリアムに対して、シャルロットは静かに、厳かに礼を取る。
彼らはフォルテの神官であり、その教会の聖騎士だ。今回の「女神案件」に合わせて呼び出されていた。なお、その案件の女神がユースティアであることをまだハロルド以外は知らない。ローズも「怖い女神からの伝言だってー!」としか言っていないからだ。怖い、という表現には首を傾げたものの、ハロルドを知る者の中では女神=フォルテだった。
そんな微妙なすれ違いが起こっていることを知らないハロルドは「なんでこの二人が一緒なんだろう」と思いながら謁見の間に向かっていた。
扉が開くと、リチャード王、パトリシア王妃、王太子アンリ、第二王子ジョシュア、そして第三王子ルートヴィヒが並んでいた。王の後ろで宰相が、王族たちの前には大臣も数名居た。
ルートヴィヒはハロルドを見つけると表情を緩めて小さく手を振る。
「久しいな、ハロルド。早速で悪いが、女神からの言伝を聞きたい」
「はい」
ハロルドもリチャードも「面倒ごとはさっさと終わらせようぜ」とアイコンタクトをしていた。苦労人同士通じ合うものがあるのかもしれない。
「天秤の女神、ユースティア様より神託が下りました」
「待て、ユースティア様……?フォルテ様ではなく?」
アンリがそう言った瞬間、ハロルドは口元だけに笑みを作る。心なしかその目は虚ろだ。
「特に何かをしたつもりはなかったのですが、加護を頂きまして」
「そうか。このことはここにいる者以外に漏らすことは許さん」
ハロルドを見て何かを察したのかリチャードがそう宣言すると、皆恭しく首を垂れた。その様子にリチャードは頷くと、ハロルドに先を促す。
「海の国から輝石の国に向けて悪意が迫っている。それは、ドラゴンである。ユースティア様はそう仰っていました」
もう一方の「あなたはそれを迎え撃ち、英雄となれるでしょう」の方は口を噤んだ。ユースティアも「あなたは嫌なのでしょう?国にやらせなさい」と言っていた。
ざわざわと話し合う王国の権力者たち。パトリシアは何かに気がついたのか、「他に何か言っておられたのでは?」とハロルドに尋ねる。
「その神託だけで、あなたがそんなに怯えるはずはないもの」
パトリシアはハロルドから確かな「恐れ」を感じていた。
だから、念のために尋ねたのだ。
「勤勉で可愛い子。覚えておきなさい。国一つや二つより、人の百や千より、わたくしはあなたが気に入っているわ。あなたが生きにくい場所ならば、そんなところ、滅びてしまえばよいのよ」
ハロルドの口から出た言葉はいつもよりも高く、どこか威厳を感じさせる。
その瞳は紫に染まっていた。柔らかな笑みは一方で自分達が見極められる立場であると理解させられた。
「そう、この子に伝えたの。大事になさい。わたくしは夫のように、フォルテ様のように優しくはないから」
そう言ったハロルドの身体が力を失ってぐらりと揺れる。倒れる寸前にシャルロットがそれを支えると、ハロルドは真っ青な顔で気を失っていた。
「これは……」
「神子に直接干渉してくるとは……よほどこの子が気に入ったらしい」
仕えるべき人が倒れ、心配するシャルロットにウィリアムはどこか彼を案じるようにそう話す。
「神が人の身体に降りるにあたって、その負担は大きなものになる。倒れるのも無理はない」
アルスのように直接出向く神などそうはいない。夢に呼ぶか、相性の良い聖職者、神子の身体を借りるといった形で気まぐれに話しかけてくることの方が圧倒的に多い。
それでも神が訴えてきた内容から考えると、ユースティアはかなり本気でハロルドに力を貸している。人の世界のバランスなんて一切考慮していない。
倒れたハロルドの周囲を花が舞う。
その下に六枚の翅と小さな花々の陣が現れる。
「おいで。わたくしの子……母はわたくし一人で十分よ、ね?」
花と光が、ハロルドたちを攫って行った。
意図してないとはいえ、人外に好かれすぎなんよ




