16.瑠璃色の少年
ハロルドたちが家に帰ると、家の前で少年二人が立っていた。
一人はペーター。
もう一人は夜の海のような髪に、瑠璃色の瞳の少年だった。穏やかそうな笑みを浮かべている。少し困ったような雰囲気にも見えるが、それはペーターが彼をガン無視しているからだろう。
その少年に、ハロルドとアーロンは心当たりがあった。
「あ、み……じゃなくて、もしやハロルド様とアーロン様でしょうか」
ハロルドたちに気がついたのか、少年は駆け寄ってこようとするものの、アーロンが前に立ちはだかった。彼は「み」から始まる言葉を「神子」であると理解していた。足元でスノウが唸り声をあげる。
「ハルに何のようだ」
「え、えっと……ゴーダ様、ゴーダ・オブシディアン様から私を助けてくれた方だとお伺い致しまして……その、お礼に参りました」
ゴーダという名前には心当たりはないものの、オブシディアン辺境伯のことは知っている。ハロルドたちの住んでいる村を含めたあの辺り一帯の領主の姓である。
ミハイルは二人に「オブシディアン辺境伯令息様の名です」と小声で伝える。そのことで警戒心が緩んだことを感じたのか、少年はホッと一息ついた。
「改めまして、私はデイビッドと申します。姓や生まれについては申し訳ないのですが、死にかけたせいなのか記憶が失くなってしまい、お伝えはできませんが、現在はオブシディアン辺境伯家に保護していただいております」
その言葉は嘘ではなさそうだ。けれど、ミハイルが油断できないという目を変えていない。だからこそ、「さっさとお礼だけ受け取って離れたほうが良さそうだ」とハロルドは判断した。
「その節はありがとうございました。私は……多分、何としても生きていなければならなかったのです。今すぐとはいきませんが、いつか必ずあなた方の善意に報いてみせます!」
「いいえ、結構です」
ハロルドが躊躇いなくそう言ったことに、デイビッドは驚いたような表情を見せた。
「私はこれも女神の意思と、その教義の元で助けたに過ぎません。何かありましたら、フォルテ様へ感謝を。では」
感じが悪いだろうとは思ったけれど、ハロルドも何か厄介ごとの臭いを感じ取っていた。何か言おうとするデイビッドを「ハロルド様はアンタを歓迎しないみたいだ。ね、帰ってくれる?」とペーターが遮った。「お願い」「任された」と幼馴染二人はアイコンタクトで交わして、家の中に入る。
「あの方、おそらくマーレ出身……しかもかなり位が高い方ではないかと」
「どうして分かるんだ?」
「あの国では高貴な出であればあるほど、その瞳の色が美しい瑠璃色になるといいます。王族の可能性もありますね」
この国の側妃エヴァンジェリンが、生まれ故郷であるマーレ王国で冷遇されていたのは、その瞳の色のせいもある。彼女の瞳はアイスブルー……マーレ王国内での高貴な色とは程遠い。
助けたタイミングや、ミハイルの言葉にまた近いうちにあの王国と関わることになる予感がした。
「とりあえず帰ってもらったよ」
「ありがとう、ペーター」
「そういえば、今日の儀式で教会の人にスカウトされたんだけど、行ったらハロルド様のお役に立てる?」
「ぜっっっっったい止めて。俺の胃に穴が開く」
マーレ編そのうち多分やる。計画上は早くて来年中かなぁ……




