バルカ王子と妹の憂鬱
今日はセラを追放した、バルカ王子と妹視点になります
バルカ王子視点
バルカ王子はイラついていた。
「ああ、どうしてだ。どうして、上手くいかない!」
筆頭聖女だった、あの気に入らないセラを追い出せたのに、彼の周りは悪化してばかりだ。
セラの妹のミルアナも、見た目はいいが使えない。
目覚めたという治癒術もしょぼいもので、小さな切り傷を治せるだけ。これでは、欠損部分も治せたセラの方が何倍もできる聖女だ。
しかし、あの女は戻したくはなかった。
(セラは俺に構ってくれない。いつも、王妃教育と聖女の仕事で、俺のことを無視する。それに……)
思い出せば出すほど、イラついてくる。
今、夜会に出るたびに笑われているのだ。どこまで、あの女はバルカ王子を追い詰めれば、気が済むのか。
王子は、溜息を吐いた。
『いくら無能魔神と契約していると言っても、筆頭聖女を追放するとは』
『勝手に、筆頭聖女を追放したようだ。さすが、馬鹿王子ですな』
夜会で囁かれる言葉を思い出しては、地団駄を踏む。
それに、セラが気に入らないのはもちろんのことであるが、あの女以上に、ヴァルという男が一番気に入らなかった。
(あの男、俺の女の側に俺以上に近寄りやがって。そのくせして、どうして周りは何も言わない!)
しかも、あの男。バルカ王子を見ると、いつも鼻で嗤うのだ。
あんなのと一緒にいるセラも、本当は聖女とは程遠い人物なはずだ。
「だが、だが……俺の計画が」
あの商人、詐欺師まがいなことをしていた商人を脅し、セラを犯罪者に仕立て上げようとしたが、上手くいかなかった。
これでは、いつまでもあの女は、聖女という敬われる立場にいることになる。
「それだけは嫌だ。聖女は、王子と同等の位だと、俺は認めない!」
ならば、何とかしてあの女を追い落とさなければ。
「あら、君。美味しそうな、魂をしているわね」
「誰だ!」
振り返った先には、深くローブを被った正体不明の女がいた。
ローブで顔が見えないが、口元だけ露出している。ピンク色の。小ぶりな唇に、覗く肌は雪のような白さがある。ゆったりとした服の上からでも分かる豊満な体に、バルカ王子の劣情は煽られた。
女はバルカ王子を見ると、ローブの下からニヤリと笑う。
「私も陥れたい奴がいるの。私とあなた、目的が一致しているもの。協力しません?」
「おお、いいぞ! あの女が消えるなら、大歓迎だ」
同意を得れた女は、うふふ。と小さな笑い声を上げる。
バルカ王子の地獄への道は、一つ進んだ。
妹、ミルアナ視点
ミルアナにとって、姉というものは遠い存在だ。
両親は、生まれると同時に教会に取られた姉のことをすっかり忘れ、侯爵家ではミルアナが一人娘。ということになっている。
ミルアナ自身も社交界に出るまで、自分は一人娘だと思っていた。
『あら、あなたがあの……筆頭聖女様の妹なのね』
『見た目はいいけれど、あのお方の妹にしては、足りないわね』
婦人方は、ミルアナを見ることなく、会ったことさえない姉を見てくる。ミルアナ本人を見ることがあっても、嘲笑うばかり。
家では、いつも一番だったミルアナにとって、無視されるのは受け入れ難いこだった。
(私の方が、セラより綺麗だし。男にもモテる。見た目だって、私の方が聖女らしいわ)
ミルアナには過剰な自信ばかりがついている。
自分を見つめ返せず、自分に都合のいい世界ばかりを信じる。策謀をしている人にとっては、いい囮の人材だった。
だから、バルカ王子がミルアナに目をかけたのも必然だったのだろう。
バルカ王子は考えの足りない男だが、何も考えないわけではない。策を弄するだけの、知能はあった。しかし、その策が上手くいくことは、ほとんどなかったが。
『お前があの女の妹か……あいつと違って見目もよければ、その性格もいいものだ』
姉の婚約者であるバルカ王子の言葉に、「勝った」と思った。
それから、バルカ王子と懇意にしていたが、王子の婚約者になることはできない。
聖女。という肩書きが、国にとって大切らしい。
(何なのよ。聖女って、何なのよ)
姉を聖女として讃えるが、聖女とは何なのか。そんなとき、姉が筆頭聖女になったのは、治癒術が使えるからだということを知る。
(私も、治癒術が使えれば)
「私が、あなたに力を貸してあげるわ」
急な声に振り向くと、ミルアナの前にローブを纏った女が立っていた。
目深にローブを被り、要望はさっぱり見えない。ただ、細い骨格から女だと推測できた。
女はミルアナを見ると、ピンク色の唇を歪ませて笑う。
『私が、あなたに治癒術を授けてあげるわ。ただし、強い副作用があるけど大丈夫?』
『大丈夫よ。私に治癒術を授けなさい!』
すぐに、女の提案に乗った。これさえあれば、ミルアナが聖女になれる。治癒術さえあれば、聖女と認められるのだから。
だから、副作用など怖くはない。あったとしても、持つ治癒術で治せばいいはずだ。
予想通り、姉は王都を追い出され、今はミルアナが筆頭聖女に一番近い地位にいた。
(まだ筆頭ではないけれど、時間の問題よ)
白いに近い金髪に白い肌は、ミルアナを聖女たらんとしてくれる。あの黒髪に紫の目の姉に比べると、なんて聖女らしいことか。
(うふふ。私の天下も近いわ。これで、私を馬鹿にした人たちも見返せるわ)
歩きながら、笑いを溢す。
国中が、ミルアナを崇める光景を妄想しては、不気味に笑っていた。
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