表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

バルカ王子と妹の憂鬱

今日はセラを追放した、バルカ王子と妹視点になります




バルカ王子視点





 バルカ王子はイラついていた。



「ああ、どうしてだ。どうして、上手くいかない!」



 筆頭聖女だった、あの気に入らないセラを追い出せたのに、彼の周りは悪化してばかりだ。



 セラの妹のミルアナも、見た目はいいが使えない。



 目覚めたという治癒術もしょぼいもので、小さな切り傷を治せるだけ。これでは、欠損部分も治せたセラの方が何倍もできる聖女だ。



 しかし、あの女は戻したくはなかった。



(セラは俺に構ってくれない。いつも、王妃教育と聖女の仕事で、俺のことを無視する。それに……)



 思い出せば出すほど、イラついてくる。



 今、夜会に出るたびに笑われているのだ。どこまで、あの女はバルカ王子を追い詰めれば、気が済むのか。



 王子は、溜息を吐いた。



『いくら無能魔神と契約していると言っても、筆頭聖女を追放するとは』

『勝手に、筆頭聖女を追放したようだ。さすが、馬鹿王子ですな』



 夜会で囁かれる言葉を思い出しては、地団駄を踏む。




 それに、セラが気に入らないのはもちろんのことであるが、あの女以上に、ヴァルという男が一番気に入らなかった。



(あの男、俺の女の側に俺以上に近寄りやがって。そのくせして、どうして周りは何も言わない!)



 しかも、あの男。バルカ王子を見ると、いつも鼻で嗤うのだ。



 あんなのと一緒にいるセラも、本当は聖女とは程遠い人物なはずだ。



「だが、だが……俺の計画が」



 あの商人、詐欺師まがいなことをしていた商人を脅し、セラを犯罪者に仕立て上げようとしたが、上手くいかなかった。



 これでは、いつまでもあの女は、聖女という敬われる立場にいることになる。



「それだけは嫌だ。聖女は、王子と同等の位だと、俺は認めない!」



 ならば、何とかしてあの女を追い落とさなければ。



「あら、君。美味しそうな、魂をしているわね」

「誰だ!」



 振り返った先には、深くローブを被った正体不明の女がいた。


 

 ローブで顔が見えないが、口元だけ露出している。ピンク色の。小ぶりな唇に、覗く肌は雪のような白さがある。ゆったりとした服の上からでも分かる豊満な体に、バルカ王子の劣情は煽られた。



 女はバルカ王子を見ると、ローブの下からニヤリと笑う。



「私も陥れたい奴がいるの。私とあなた、目的が一致しているもの。協力しません?」

「おお、いいぞ! あの女が消えるなら、大歓迎だ」



 同意を得れた女は、うふふ。と小さな笑い声を上げる。



 バルカ王子の地獄への道は、一つ進んだ。







妹、ミルアナ視点




 ミルアナにとって、姉というものは遠い存在だ。



 両親は、生まれると同時に教会に取られた姉のことをすっかり忘れ、侯爵家ではミルアナが一人娘。ということになっている。



 ミルアナ自身も社交界に出るまで、自分は一人娘だと思っていた。



『あら、あなたがあの……筆頭聖女様の妹なのね』

『見た目はいいけれど、あのお方の妹にしては、足りないわね』



 婦人方は、ミルアナを見ることなく、会ったことさえない姉を見てくる。ミルアナ本人を見ることがあっても、嘲笑うばかり。



 家では、いつも一番だったミルアナにとって、無視されるのは受け入れ難いこだった。



(私の方が、セラより綺麗だし。男にもモテる。見た目だって、私の方が聖女らしいわ)



 

 ミルアナには過剰な自信ばかりがついている。



 自分を見つめ返せず、自分に都合のいい世界ばかりを信じる。策謀をしている人にとっては、いい囮の人材だった。



 だから、バルカ王子がミルアナに目をかけたのも必然だったのだろう。



 バルカ王子は考えの足りない男だが、何も考えないわけではない。策を弄するだけの、知能はあった。しかし、その策が上手くいくことは、ほとんどなかったが。

 



『お前があの女の妹か……あいつと違って見目もよければ、その性格もいいものだ』



 姉の婚約者であるバルカ王子の言葉に、「勝った」と思った。



 それから、バルカ王子と懇意にしていたが、王子の婚約者になることはできない。



 聖女。という肩書きが、国にとって大切らしい。



(何なのよ。聖女って、何なのよ)



 姉を聖女として讃えるが、聖女とは何なのか。そんなとき、姉が筆頭聖女になったのは、治癒術が使えるからだということを知る。



(私も、治癒術が使えれば)



「私が、あなたに力を貸してあげるわ」



 急な声に振り向くと、ミルアナの前にローブを纏った女が立っていた。



 目深にローブを被り、要望はさっぱり見えない。ただ、細い骨格から女だと推測できた。



 女はミルアナを見ると、ピンク色の唇を歪ませて笑う。




『私が、あなたに治癒術を授けてあげるわ。ただし、強い副作用があるけど大丈夫?』

『大丈夫よ。私に治癒術を授けなさい!』



 すぐに、女の提案に乗った。これさえあれば、ミルアナが聖女になれる。治癒術さえあれば、聖女と認められるのだから。


 

 だから、副作用など怖くはない。あったとしても、持つ治癒術で治せばいいはずだ。

 



 予想通り、姉は王都を追い出され、今はミルアナが筆頭聖女に一番近い地位にいた。



(まだ筆頭ではないけれど、時間の問題よ)



 白いに近い金髪に白い肌は、ミルアナを聖女たらんとしてくれる。あの黒髪に紫の目の姉に比べると、なんて聖女らしいことか。



(うふふ。私の天下も近いわ。これで、私を馬鹿にした人たちも見返せるわ)



 歩きながら、笑いを溢す。



 国中が、ミルアナを崇める光景を妄想しては、不気味に笑っていた。


面白いと思いましたら、評価とブックマークをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ