詐欺師の商人が逮捕
よろしくお願いします
山間の村で生捕した蜜熊を持って帰ると、ちょうどジンに会った。
「お、それは蜜熊じゃないか!」
目敏く見つけたジンは、いそいそと近づくと、ジロジロと蜜熊を見物している。
「どうだ? 俺がいい値で買い取るぞ。ここは、一つ俺にくれないか」
ニコニコと、柔らかい声で要求を通そうとしてくる。
怒鳴り散らかして、無理矢理にでも買い取ろうろする奴よりタチが悪いのは、気のせいではない。
しかし、これは美食として名高い、高級蜜。セラもその味が気になる。
「ジン様、分けるのはどうですか?」
「いいぞいいぞ、少しでも食べられたら、俺は十分だ」
「……何をしている、アホ領主が」
蜜に目を輝かせていたジンの頭が、後ろから叩かれた。
「ニュクスかっ!」
ゲッと言わんばかりに、目を見開く。ニュクスと呼ばれた男がニコニコすると同時に、ジンの顔色がどんどん青ざめていく。
「サボっていないで、さっさと仕事しろ」
ジンの首根っこを掴むと、引きずりながら城へと入って行く。
「あ、セラさん。私の分の蜜も取っていて。いい値で買います」
「お前。ずるいぞ。俺の取り分が減るじゃないか!」
「うるさい、ジン。お前が逃げなければ、私が知る可能性は減ったぞ?」
「ああー」
顔を手で覆った。よほど悲しかったのか、嗚咽が漏れ聞こえる。
「……いいんですか? 蜜袋をあげて」
「私の分もしっかりあるし、何しろ一つ貸しを作れます」
心配してくれたヴァルに、問題ないと返した。自分の取り分がしっかりあるなら、いい点しか感じない。
それに、領主より強そうなニュクスに貸しを作れるところが大きかった。
ニュクスは、ジンの補佐官で、領内一できる男。という噂を聞いたことがある。
薄いフレームの眼鏡をかけた神経質な見た目をしているが、実際はそんなに細々とした男ではない。
あの人は、できれば……いや、絶対に敵に回したくない。
ならば、できるだけよりよい関係性を作るに限る。
部屋に戻ろうとしていたところで、ばったりゼクスに会った。
ゼクスは鍛錬が終わったところなのか、汗をびっしょりかいている。
「お、セラさん。聞いたかい?」
「何をですか」
「まだだったか。セラさんを嵌めた商人、捕まったようだよ」
「え」
全く足取りが掴めなかった商人の情報に、目が点になる。
「誰が捕まえたのですか?」
「それがな……バルカ王子なんだ」
予想もつかなかった。まさか、ここでバルカ王子の名が出てくるとは。
「回ってきた話によると、王宮に商売しにきた商人を詐欺師と見抜き、検挙したらしい。どうにも、都合が良すぎる話だよな」
ゼクスが言う通りだ。
セラが知っているバルカ王子には、人を見抜く力はない。それどころか、簡単に騙される側だ。
昔から、簡単に人を信じて、どれだけ利用されそうになったことか。
その時の後始末を思い出すと、ふつふつと怒りが湧いてくる。本当に、バルカ王子と別れてよかった。
ホッと息を吐いていると、隣から冷気が漂ってくる。恐る恐る隣を見ると、そこには冷たい笑みを張ったヴァルが立っていた。
「ど、どうしたのですか」
「いえ、バルカ王子の名前はもう聞きたくないと思っていたところでしたので」
「……何か、恨みでもあるのかい」
ゼクスの言葉に、ヴァルはバルカ王子に恨みがあったか思い出してみる。
しかし、バルカ王子を恨むようなことをされていた記憶がないので、首を傾げてしまう。
「おや。私があの王子を嫌う理由が分かりませんか?」
「さっぱり」
「そうなんですね。では、私が説明しましょうか」
ピンと、人差し指を上げる。
「一つ目が、あの王子がセラの婚約者にちゃっかり収まっていたことですよ」
「はぁ」
ちゃっかりと言われても、セラとバルカ王子の婚約は生まれた頃からだと聞いた。いくら何でも、バルカ王子との婚約の方が、ヴァルと出会うより早いのではないのか。
「セラは元々、私の花嫁として生まれた魂です。そんな大事な花嫁が、人間の……それも、あんなセラの気持ちを蔑ろにするような輩だなんて、認めたくはなかったのですよ」
「ち、ちょっと待って、私、いつからヴァルの花嫁に内定していたのですか?」
「生まれる前からですが?」
何もおかしなことがない。と、キョトンとした顔で言う。太々しくも感じるヴァルの態度に、セラの憤りがますます強くなる。
「しかもあの王子、私は認めていないのにも関わらず、私のセラを所有物としていたんです。嫌いになるのも、当たり前ではないですか」
どれだけヴァルはバルカ王子のことが嫌いなのか、饒舌に話し出していく。
「あの王子は人間の嫌な欲望を煮詰めたような人間ですよ。セラが、あのネッチョリとした欲望に絡め取られなくて、よかったですよ」
「……だから、バルカ王子と一緒にいると、機嫌が悪かったのですね」
「おや、分かっていたのではないですか」
分からない方が、おかしい。
バルカ王子と話をしていると、側にヴァルがいなくても、冷気を感じるのだから。感じた方向を見れば、必ずヴァルがいた。誰が犯人かなんて、名探偵でなくても分かる。
「しかし、振り出しに戻ったか」
ゼクスは、肩を落とす。
今、辺境伯領で一番大きな問題は、セラのことだ。セラの問題が片付かなくては、いつまでも爆弾を抱えてしまうことになってしまう。
やはり、早期解決を目指したいところだ。




