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その日、ブル―スフィア・エリア27で起きた出来事は、ブルースフィアに棲まうものなら、一度は気いたことのある奇妙な都市伝説そのまんまの内容だった。
地上から溢れ落ちた人間が棲まう最後の場所、ブルースフィア。その数は既に一〇〇〇を超え、続けて建造していくには資源も場所も無くなってしまった。
増えすぎた人類が海へと還り、そこでも溢れて、では次はどこへ行けば良いというのだろう。
だから、窮屈になったブルースフィアには『鬼』が現れるのだという。
そして祭りを始めるのだ。
増えすぎた人間を食い散らかして回る『食人祭』を。
大抵の都市伝説は忽然と前振りもなく押しつけられるものだけど、今回はちゃんと発端があった。都市伝説に語られていなかった、事件の運び手が存在していた。
そう、エリア27の崩壊の発端は真っ白な笑顔ではじまった。
髪も白い、肌も白い、瞳ばかりは煌々と緋色を灯す白子の少女は、ふらりとまるで白ウサギを追いかけてきたと言わんばかりにこの教科区域に紛れ込んでいたのだ。
もちろん、わざわざ世話を焼いてやろうと申し出るヤツは居なかった。
そうだろう?
大事なのは、与えられたカリキュラムを如何に進めるかで、その進行に役立つ、自分を幸福にすることにプラスになるヤツこそが、付き合う理由と価値がある『友達』なのだから。
確かに人並み以上どころか、いっそ人外ですと言われた方がしっくりくるほどに端麗な容姿をしていたから、振り返る者や、一瞥するものは全員と言って間違い無かった。
白子の少女は舞台女優と呼ぶにはゆったりしすぎる歩みで、ランチタイムの校舎を練り歩いた。
微笑を時々、驚いた顔に、困った顔に、それから泣きそうな、だけれどそれをも呑み込んで笑うような、それこそだれにも見たこと無いような表情へと変化させる彼女は、奇天烈で、新鮮みがいっぱい詰まっていた。
薬品の配合されたランチタイムを終え、午後のカリキュラムの進行のために各々の席へ戻りヘッドフォンをつけて画面に顔を並んで突きつけるより、よっぽど彼女の奔放さの方が健全な気がした。
最後に、彼女は歌ったのだ。
誰も居なくなった廊下で、ひたすらの廻廊をひたりひたりと、やっぱり踏みしめるみたいなゆったりした足取りで歩みながら、彼女は風音みたいにどこから響いているかさえ明瞭にならない声を校舎に響かせた。
My fair lady……
My fair lady……
My fair lady…………。
同じフレーズの余韻を何度もリフレインして、彼女はどこかへ行ってしまった。
それから間もなくだ。
エリア27、ハイティーン教育区画に通う学生の一部が殺人鬼になって暴れ始めたのは……。




