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ドアの向こうは森の中!?〜異世界転移した私がイケメン魔法使いと魔龍退治の旅に出るそうです?!〜  作者: 永月るか
本編

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第1話 気づけばそこは森の中

チュンチュンと鳥の声がさえずり、頭上からは柔らかな木漏れ日が降ってきていた。

もし観光で来たのなら「癒されるな〜、マイナスイオンのお陰かな〜?」とかいって楽しんでしまうような森が、私の前後左右と広がっている。

とても静かで穏やかな青々とした森。

かさりと木が風に揺れる音さえも、どこまでも響いてしまうように思えた。

風が吹くと新鮮な緑の匂いがした。

深呼吸すると胸の奥まで森を感じられる。


あぁ、本当に癒される。


……と、言いたいところだが。

残念ながら、今の私はそんな大自然を楽しんでいる余裕がない。

というか、心の中は、はてなマークでいっぱいで……絶賛混乱中だ。

なぜなら……。


……家のドアを開けたら、そこは森の中だった。


トンネルを抜けたらそこは雪国だった、ならまだ分かる。

あれは名作だよね……うん、冒頭しか知らないけど。

家に帰ったら通販で注文しよう、そうしよう。

……だから、とりあえずお家に帰らせて下さい。


そう混乱た思考で願っても前後左右に広がる森はもちろん、うんともすんとも答えてはくれず。

当然、扉は現れなかった。

……真剣さが足りないのかな? それとも日々の信心が足りないのかな?

後者なら、どうしようもないけど……とりあえずもう一度祈ってみよう。


……とりあえず、扉よ、カムバック。


なむなむと両手を合わせて目を閉じて心中で唱えてみる。

先ほどより真剣さが減った気がするのは、たぶん気のせいだ。

しっかり10秒ほど祈ってみる。


扉は……もちろん帰ってこなかった。


私は一つ溜息をついた。


「あぁ、もしかして……うちっていつの間にか森の中に引越し、した?」


そんな訳ないよなぁと分かりつつも呟いてしまう。

森に引っ越す訳ないよね?

万が一引っ越すにしても大家さんが教えてくれるよね?

そもそも、うちの家マンションの2階だしね、森の中に引っ越したとして、森にそのまま出られるはずがないしね?


口に出してしまった疑問に、自分で冷静に突っ込みを入れる。

むなしさが胸の中に広がった。

それを黙殺してから、私は別の可能性を探す。


「あ、もしかして一昨日見てた青い猫型ロボットがうちの扉を改造したとか?」


あはは、と誰にともなく私は笑う……笑い声が森に静かに吸い込まれて、なんだか悪いことをしたような気になった。

乾いた笑いが小さく消えていく。

無抵抗で物静かな女の子に絡み酒をしてしまった後のような罪悪感を感じてしまう。

たぶん、この森があまりに静かで神秘的な雰囲気をもっているからだろう。


私は溜息をついて、思いつく限りの最後の可能性……見間違いの可能性にすがることにした。

3秒ほど目を閉じて開くという行為を10度ほど繰り返してみる。

チュンチュンと小鳥がさえずる声が心を落ち着かせる。

緑の匂いのする風が優しく頬を撫でて行く。

……あぁ、いい匂いだ。

リラックスは出来たけど、扉は帰ってきてくれなかった。


まぁ、そうだよね……。


そこで私はもう一つの可能性を思いついた。

ザ・夢オチ……白い兎は出てきてないけど、一番可能性が高そうだ。

森に引っ越すとか、青い猫型ロボットよりは……うん、可能性が高いはずだ。

どうして、こんなにも素敵な可能性を、すぐに考えつかなかったんだろう。

頬っぺたをこれでもかと強く引っ張ってみる。


……凄く痛かった。


もう一つ、重い重い溜息をつく。

テンションが血を這うように……何なら大地を掘り進めそうなほど、低くなる。

そして、その低いテンションのままようやく私は現状を受け入れることにした。


私は、今、森にいるのだ。

たぶん夢じゃない。

さっきまで、日曜夕方の家族アニメを見て、月曜なんてこなければいいのに……とコタツに入りながら、呟やいていたのに。

そして、どれだけ現実逃避をしてもやってくる月曜日に備えて、コンビニへ行くために、家のドアを出ただけなのに。


私は再び周囲に視線を巡らせる。

静かな森がどこまでも続いているように見えた。

それを見て、また溜息が出た。


……ドアよ、どこへいったんですか? やっぱり青い猫型ロボットに改造されたんですか?

それとも月曜なんてこなければいいのに、とか思ったからですか? 別番組のアニメを見たからですか? 謝るのでドアを返して下さい、猫型ロボット様……。


先ほどから前に進まない思考で、もう一度祈ってみる。

けれど、相変わらず森は静かにたたずむばかりだった。


私は溜息を重ね……家へと帰る手段が今のところないことを理解した。

あ、でも、明日の朝の出社には間に合わないしラッキーかも? なんて考えが一瞬浮かんで、それを即座に否定する。

「家のドアを開けたら森にいて、帰るのに時間がかかりました…」って誰も信じてくれないよね、普通。

また溜息が零れる。


がっくりと肩を落としてから私は森をもう一度、見渡した。

ドアが消えた理由や、私がこの森にいる理由や会社への言い訳は後で考えるとして、いつまでもここでぼーっとしている訳にはいかない。

前後左右、どこまで続く森は……有名な樹海のようにも見えた。


寒くないのに、寒気がした。


私は今、食料も水も持っていない。

着の身着のまま……服以外で持っているのはコートのポケットにある電子マネーくらいだ。

……どうして財布を持ってこなかったんだろう、身分証明を求められても、何もできない。

現金を求められてもアウトだ。


どんどん思考が暗くなる。

思わず、コンビニへ買い出しにいくだけだったのだから仕方ないと胸中で自分に言い訳してしまう。


そして溜息がまた零れた。


……この出口の見えない森はそんな言い訳を聞いてくれないだろう。

人間って水なしだと何日いきられるんだっけ……と嫌な考えがよぎる。


出来れば夜が来る前に森を抜け出したい。

夜の森は昼の森より危険だろうと、ぼんやりと考える。

……野犬や、もしかしたら熊なんかも出るかもしれない。


どんどんと嫌な可能性が浮かんで胸を支配して行く。


とりあえず、ここでぼーっとしているよりは歩こう!


嫌な可能性を誤魔化すように私は一歩踏み出す。

そして歩きながら考える。


水場や食料を探すなら森の中の方がいいのかな?


サバイバルなんて当然したことがない私は漫画やアニメ、映画といった薄いサバイバル知識を総動員して悩みながら歩く。

そして私は、とりあえず森を出ることを目標にした。

水場はその後で探せばいい。

もしかしたら、森を出るまでの道で水場とか見つかるかもしれないし。


希望的観測を繰り返して、私は適当に足を進める。

前後左右、どこをとっても森なんだし、きっとどの方向に行っても同じだ。


そして、私は森の出口を目指して足を動かし続けた。

次回の更新予定は活動報告&Twitterにてさせて頂いてますm(_ _)m

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