会食の肴 模擬戦開始
ある程度腹が膨れてくると、雑談が始まる。
「そう言えば……。なぁ、アルヴェルラ?」
「……?」
ルティアーナがアルヴェルラに話しかけてくる。
「一応お前に許可を取ってからにしてやる」
「何だ?」
その返事を了承と取ったルティアーナはニヤッと笑い――。
「カヅキ、お前、どうやってコイツを口説いたんだ?」
と、事も無げに聞いてきた。
「「……ふぁ?」」
アルヴェルラと華月の間抜けな声が重なった。
その質問は当然、その食卓に着いている全員に聞こえていたわけで、他の会話が一時的に止まる。
「な、何だ急に」
「いや、テレジアに会食の時にと言われたからな。言われた通りに今まで温存していたわけだ。
で、どうなんだ?」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべるルティアーナ。他の竜皇や竜騎士、総纏め役たちも聞き耳を立てている様だ。特に、ファルアネイラは興味津々のようだ。
「べ、別に特別な事は無いぞ」
「何を言うんだ。我等六竜族の中で最も人間嫌いで、竜騎士の数が少ないダークネスの竜皇が竜騎士を召し上げた。十分大きな話題だろう」
「……」
アルヴェルラが言いこめられてしまった。
「そんなアルヴェルラを絆す何かが、カヅキに在ったんだろう? ソレは何だと聞いているだけだ。大体、皆が竜騎士を従えた時もそれぞれ話したじゃぁないか」
どんどんと外堀を埋められていく。
「ほ、本当に特別な事は無い。ただ、夜の散歩に何となく出た時に――」
「ほほぅ、二人の出会いは散歩に出たくなるような良い夜か。なんともいい雰囲気じゃないか」
「……茶化すな」
「いや、男の竜騎士を従えているのは私だけだったし、私たちの場合は色気もへったくれもあったものではなかったからな。
続けてくれ?」
ルティアーナはヤジを飛ばしながら実に楽しそうだ。竜族にとって何かしらの変化と言うものは、本当に楽しい事なのだろう。
「私の前に空から突然、カヅキが降ってきたんだ。少し前に人間の都市の方で大きな魔力の揺らぎがあったことで、それが何らかの召喚儀式だったと分かったわけだが。
で、近づいてみたら、何故か腹部に大きな裂傷を負っていて、そのままでは死にそうだった。私は瀕死の状態からの回復魔法など使えないからな、そのまま看取るか、竜騎士化する、二つの選択肢しか無かった」
「普段のお前ならそのまま看取っただろう?」
「そうだな。人間一人ぐらい、そのまま放置していた。
だが、先ず異界人であると言う事がカヅキを助けた理由の一つだ。私は自分の竜騎士は異界人にすると決めていたからな。
それで取り敢えず近づいて、その傷、血に触れて感じたんだ」
アルヴェルラが眼を閉じる。
「私は、この者を従えるべきだ。と。
だから、言葉が通じるかどうかも解らないのに、問い掛けた。死にたいか? 生きたいか?
生きたいのなら、私と契約を結べ、役目に就け。
そうしたら、実に素早く答えたよ」
「解った、願う。
俺は、そう答えたな」
アルヴェルラの独白に、華月が言葉を添える。
「……何とも、まぁ……。直感が決め手か」
「ああ。機会は逃すものではないからな」
「……色々、後を考えると、アルヴェルラの行動は正しい選択だったとは言えないな。竜騎士を決める基準に――」
「そんなものは後付けの理由だろう? 皆、一番の理由は、自分が気に入ったかどうか。その一点だろう」
「「「「……」」」」
竜騎士を従える四人の竜皇は、アルヴェルラがそう言い切ると難しい顔になった。
「……はぁ。そう言い切られると、何も言えんのぅ」
「まぁ、確かにそうなんですけどねぇ……」
「気に入らん者を、傍に置こうとは思わないが、資質の問題もあるわけだしな……」
「んん……、否定できないのが辛いな」
その様子に、アルヴェルラは得意げになる。
「何、我々竜種の勘は確かだ。明日、それもハッキリする。竜騎士としても、カヅキは優秀だぞ。
さぁ、これで知りたい事は解っただろう」
アルヴェルラはこれ以上喋る気が無いのか、そう言って口を閉ざした。
会食が盛り上がったり盛り下がったりしながら終了し、それぞれ部屋に戻った。
「何だか、どっと疲れたな。本番は明日だというのに」
「まぁ、あそこまで絡まれれば仕方ないな」
「今回のファルア陛下は、随分今までと違いましたね。どうも、カヅキに何か――」
「止めろ、テレジア。もう明日までアイツの事は考えたくない」
アルヴェルラはテレジアの言葉を遮り、目を伏せる。本気で疲れている様だ。それに対し、ファルアネイラとあれだけ派手に殺気の応酬をしていた華月は平然としている。
「カヅキ、体調に変化はありませんね」
「ああ、何ともない。明日は頑張ってみる」
「そうですね。ええ、是非頑張ってください」
テレジアは意気込む華月に対し、含みのある声音で応援する。
「全力を出し切っても構いません。ここの魔力遮断室は頑丈に出来ていますから」
「……? おい、テレジア。いつここの魔力遮断室の状態を確認したんだ?」
「陛下とカヅキが出ている間に、ですが。何か?」
流石にそこで一戦交えて「体験してきました」とは、言えないだろう。テレジアの言葉に胡散臭げな顔になるアルヴェルラだったが、問い質したりしない。
「……いや、何でもない。
テレジアがそう言うなら本当なんだろう。カヅキ、明日は期待している」
「ああ、出来る限りやってみる……?」
答えた華月だったが、二人の様子に微妙な違和感を何処かで感じた。それも仕方がないだろう。何せ本心ではあるものの、二人は華月が負けることを当然だとしている。それこそが華月が感じた違和感の正体だ。
だが、華月はその違和感について二人に聞こうとは思わなかった。どんな思惑が在ろうとも、自分は自分の力を証明するだけだと考えているからだ。
「そうでした、カヅキに言い忘れていました。
明日の模擬戦は訓練服で行います。武器・武装はそのままです。精霊の力を借りるかどうかは、決まりがありませんのでご自由にどうぞ」
「要するに、儀礼正装の絶対防御だけは無しって事か」
「そうだな。アレは私たち心配性の主が騎士にお仕着せているものだ。竜騎士同士の戦いでは、使わない。お互い死ぬ事は無いしな」
と、なれば、本当に素の実力だけでの勝負と言う事になる。
「過去の事例から言いますと、精霊の力を借りた者は居ません」
「なら、決まりが無くても慣例に従うさ。精霊の力は借りない。ドレン頭領のくれた籠手と具足、それにファスだけでやる」
「なら、それで。
明日は三連戦です。恐らく、アクアのルーゼスは棄権すると思います」
「え?」
「今まで見た限りでは、彼女は直接戦闘向きではありません。体術、武器術、魔法、どれも竜騎士としての及第点ギリギリです」
「フェイレインの大婆は、ある日突然「コレが私の竜騎士だ」といって、あの盲目の少女を従えた。私はカヅキとの出会いを話したが、フェイレインの大婆は未だに誰にもルーゼスとの出会いの話はしたことが無い。
ただ、あの予言とも言える能力が何らかの関係があるのだとは思うが、な」
テレジアとアルヴェルラはアクアの主従について胡散臭そうに話す。
「笑えるのはフレイムの出会いの話か」
「そうですね」
「単身ここに乗り込んできて、大暴れしたハンナをルティアーナが死なない程度にぶちのめしたら、懐かれたんだったか?」
「……表現に難がありますが、大筋そんな感じですね」
「……なんだそりゃ」
二人の話に呆れた顔の華月。
「語ると長くなるから、また今度、な」
「よくある馬鹿がバカなことをして莫迦に気に入られたという話ですよ
そんな事より、もう休みなさい。身体は平気でも――」
「ああ、『俺』が疲れてたら意味が無いな。じゃぁ、休む」
「そうしろ。お休み」
「お休みなさい」
二人に断ると、華月は身支度を整えて割り当てられているベッドに潜り込む。そうして10秒も掛からず眠りに落ちた。
「さて、私も寝る」
「はい。私も休ませてもらいます
お休みなさいませ」
「お休み」
アルヴェルラとテレジアもそれぞれベッドに入ると、スッと眠りに落ちた。
三人が眠る部屋に沈黙が横たわる。
そうして夜は深まり、明日へ向かって刻は進む。
翌日、各部屋で朝食を軽く済ませた全員が、地下の魔力遮断室に集まっていた。
「さて、本来なら昨日の議題を詰めるところなんだが……」
「昨日で殆ど済んでしまっとるからの。改めて重苦しく話し合う事もあるまい。
それより、カヅキがどの程度の実力なのか。そっちの方が気になるわ」
ルティアーナも同意見なのか、フェイレインの横槍にも気を悪くした様子もない。
「と、言うわけで竜皇は揃って観戦させてもらう。
ハンナ、解っているな」
「は」
「リィリス、やってしまいなさい~」
「承りました」
「リゼ、全力で叩き潰せ」
「うんっ!」
「あ、我らは不参加じゃ。ルーゼスは戦いに向いてないからの。ルーゼス、視通せい」
「はい」
各竜皇がそれぞれ竜騎士に言葉を掛ける中、ファルアネイラは少し離れた所で壁に背を預け、ニヤニヤと薄笑いを浮かべていた。
アルヴェルラはそれを怪訝に思ったが、あまり関わり合いたくないので無視することにした。
「では、一番手はハンナでいいな」
「会場の提供がフレイムだからな」
「構いませんよ~」
ハンナが華月に視線で合図を寄越す。
二人は丁度、魔力遮断室の真ん中あたりで距離を取って相対する。
「武装はそれでいいのか?」
「はい」
ハンナは華月が剣を持っておらず、籠手と具足をつけている事を疑問に思ったらしかった。
「格闘も、教示されています。徒手空拳を相手に剣は無粋かと」
「そうか。
審判は無し、どちらかが戦闘不能になるのが終了条件だ」
「解りました」
ともに構える。
「来い」
ハンナが初手を華月に譲った。
華月は纏身・流身を瞬時に使用し、最速行動で移動。真正面からハンナの土手っ腹に右のストレートを叩き込んだ。
派手な炸音が響きハンナが弾き飛ぶ。
「……え?」
まさかここまで綺麗に決まるとは思っていなかった華月が間抜けな声を出す。
「……」
弾き飛んだハンナは綺麗に着地すると、殴られた腹を左手でぽんぽんと叩く。
何かを確認し、今度はハンナが最速行動で動き、華月の頭を蹴り飛ばす。
が、華月の左腕が防御に間に合っていた。
(……。先輩やテレジアより、遅い?)
華月はハンナの速度が弓弦葉やテレジアの平均的な速度より若干遅く感じている。これなら十分に渡り合える。
ハンナは防御された足を上へ跳ね上げ踵落としに切り替える。華月は一歩踏み込み下ろされる足に右腕を斜めに合わせ、方向を滑らせる。
逸らされた右足が地面を踏むと同時にハンナは全身を捻りながら華月の腹に左の後ろ回し蹴りの変化で左踵を叩き込む。
華月は接近していた為回避は間に合わない。両腕を交差させ竜楯を纏って防御。
(威力がっ!?)
ハンナの動作で得られるとは到底思えない強烈な衝撃が華月に叩き付けられ、華月は呆気なく飛ばされる。
(だったら速度と手数にモノを言わせる!)
そう判断した華月だったが。
「蹴鞠」
後ろからハンナの声がした。華月の着地予想点にハンナが既に居る。
ハンナの全身は異様なまでに練られた魔力の纏身・流身で強化の桁が可笑しい。
(この人、全部の魔力をこう使う事に特化してる!)
華月が気付いた時にはハンナにまた蹴られた。さっきより少し威力が高い。
弾かれた先にはもうハンナが居る。
また蹴られる。またさっきより威力が高い。
まだ華月の防御力の方が上だが、この調子で蹴られ続ければ直ぐに防御を抜かれる。
(巻き返さないと!!)
華月はハンナを負かす方法を高速で思考する。




