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『不死身の男と、落ちこぼれの星』

その夢は、星の渦の底で始まる。


無数の星が螺旋を描きながら、どこまでも深く、深く落ちていく。空ではない。地の底だ。見上げるほど高い石柱がぐるりと取り囲み、その中央に、白い大理石の祭壇が静かに据えられている。


祭壇の名は、知っている。


『再会の祭壇』——そう呼ばれていた。


幼いレオンの小指に、もうひとつの小さな指がそっと絡んだ。隣には、自分と同じ背丈の少女がいる。顔は霞んでいて、どうしても見えない。ただ、声だけがやけに鮮明に耳に残る。


「指切り、しよう」


彼女の声は鈴のようだった。


「大人になったら、またここに来るの。二人で、一緒に」


レオンは頷いた。小さな指が、もっと強く絡む。


「ぜったいに、忘れないで」


——忘れない。


誓いの言葉が光の中に溶けて、星の渦が眩しく膨らんで、そして——


「……っ」


まぶたの裏で光が弾けて、レオンは目を開けた。


白い天井。しみの浮いた漆喰。宿屋のベッドの固い感触。朝の冷たい空気が、寝汗をかいた首筋をそっと撫でていく。


「……また、あの夢か」


毛布を押しのけて起き上がる。十年前から、ずっと見続けている夢だ。内容はいつも同じで、目覚めた瞬間に少女の顔だけが思い出せなくなる。


ただ、絡んだ指の感触だけが、今も右手の小指に残っていた。


---


「——結果を読み上げる。受験番号二七七、レオン。攻撃魔力、測定不能。身体強化、平均以下。近接戦闘、論外。総合評価、不合格」


王都の冒険者ギルド『聖王の盾』、試験場。


石造りの広間に試験官の声が響き、レオンは木の椅子の上でただ小さく頭を下げた。


「以上をもって、五回目の不合格だ。君ねぇ」


白髭の試験官が、分厚い書類越しに呆れた目を向けてくる。


「悪いことは言わない。故郷に帰って、畑でも耕した方がいい。冒険者になったら、君、絶対に死ぬよ」


「……はい」


「いや、『はい』じゃなくて。分かってるのか? 君の攻撃魔力、計測器が反応しないんだよ。ゼロ以下なんて初めて見たぞ」


「すみません」


レオンは素直に頭を下げる。試験官は大きくため息をついて、次の受験者を呼ぶために奥へ消えていった。


広間を出ると、春の日差しが目に痛かった。


石畳の上で立ち止まり、レオンは自分の両手を見つめる。魔力ゼロ。筋力凡庸。剣を振れば腰を痛め、魔法を使おうとすれば杖に火花一つ散らない。


「死ぬ、か」


呟いて、ちょっと笑ってしまう。


——でも僕、死んだことないんですよね。


胸の内だけで答える。声に出せば、また変人扱いされる。


五歳の時に屋根から落ちて、頭から石畳に叩きつけられた。九歳で馬車に轢かれた。十二歳で雷に打たれた。十五歳で河に流されて丸一日流された。どれも本来なら、確実に死んでいた。


けれどレオンは、そのたびに何事もなかったかのように立ち上がってきた。


傷は、数秒で塞がる。骨は、継ぎ目もわからないほど綺麗に繋がる。血は流れるし、痛みはしっかりとある。ただ——死ねない。


原因は分からない。母は首を傾げ、父は苦笑し、隣のおばさんは「神さまに愛されてるのよ」と言って泣いた。レオンは今でも、それが愛なのかどうか分からない。


懐で、何かが小さく震えた。


取り出してみれば、羊皮紙の封書だった。差出人の名前を見て、レオンは目を丸くする。


『セレナ・ヴィッセル——叔母さんから?』


しばらく会っていない、母方の叔母だ。確か、どこか遠い迷宮都市で冒険者ギルドを営んでいるとか、いないとか。


封を切って中を読み進めるうちに、レオンは石畳の上で、ぴたりと動かなくなった。


『——というわけで、あんたに譲ります、このギルド。 書類はもう送ってあるから、あとは現地で受け取って。 場所は迷宮都市ルミナリア、丘の上のボロい古城。 看板には《ステラ・レギア》って書いてあるわ。 頑張ってね、死なない甥っ子』


「……え?」


レオンは手紙をひっくり返した。裏には、『追伸』として一行だけ書かれていた。


『借金は三十万ルナ。女の子がいっぱいいるから、よろしく♪』


春の風が、羊皮紙をはたはたと鳴らした。


---


迷宮都市ルミナリア。


王都から北へ馬車で三日。世界の中心にあるとされる巨大な縦穴『スターフォール・アビス』——その入口を取り囲むようにして築かれた、石と煉瓦の街だった。


街の向こうに見える迷宮の口は、まるで空に穴が開いたかのようだ。その縁から、ほのかに青白い光が立ちのぼっている。冒険者たちの目指す場所。最深部、百階層。その深さは、誰も知らない。


レオンはボロボロの背嚢を背負い直し、丘の上を見上げた。


「……あれか」


街外れの小高い丘。傾きかけた石壁に、半分蔦に覆われた看板。かろうじて読み取れる文字で『ステラ・レギア』とある。


古城、というより——廃墟だった。


塔の一本は途中で折れている。窓ガラスは割れ、中庭にはアザミの花が膝の高さまで茂っている。門の鉄扉は蝶番が外れて、斜めに傾いている。


「ここが、女の子がいっぱいいるギルド……?」


レオンは首を傾げた。幽霊屋敷なら分かる、と思いながら門をくぐる。


庭を抜け、玄関ホールに足を踏み入れる。靴の底で、板が軋んだ。天井は高く、シャンデリアは半分ぶら下がっている。受付カウンターらしきものには、うっすらと埃の層。


「すみませーん! 管理人を引き継ぎに来た、レオンと申します! どなたかいらっしゃいますかー!」


声は、がらんとしたホールの奥へ吸い込まれていった。返事はない。


「……留守?」


奥へ進もうとして、足元の床板が妙に温かいことに気づいた。


見れば、石畳の隙間から、ほのかに湯気が立っている。


「地下に……温泉?」


好奇心でしゃがみこみ、そっと板をずらしてみる。下からふわりと、湯の香りが立ちのぼった。小さな隙間の向こうに、青い水面がちらりと見える。


どうやら地下に魔力回復の泉——ギルドの設備としては定番の、露天の湯があるらしい。そういえば、古い宿場ギルドにはよく併設されている、と書物で読んだ覚えがある。


「ちゃんと機能してるんだなあ。すごいや、こういうの一度入ってみた——」


レオンが感心して板に体重をかけた、その瞬間。


ぱきん、と。


嫌な音がした。


「え」


床板がごそりと外れた。蝶番が錆びていたらしい。そして、板の下に張られていたはずの結界の光が——


ぴし、と、蜘蛛の巣状に砕けた。


「ちょ、ちょっと待——」


遅かった。


蛇口を捻ったように、地下の湯気が一気に噴き上がる。視界が真っ白に染まり、レオンは「うわあああ」と悲鳴をあげながら、崩れた床の穴にそのまま吸い込まれた。


---


着地と同時に、膝まで湯が跳ねた。


青白い光に照らされた、円形の露天風呂だった。天然石を組んだ湯船、壁には魔法陣の刻まれた淡い燐光、そして——


「——!?」


湯の中央。


銀の髪が、水面に花のように広がっていた。


白い肩。細い鎖骨。湯気の向こうで、真紅の瞳が、大きく見開かれている。


美少女だった。


息をのむほど、美しい。


「……」


湯の表面が、ゆっくりと波打った。


レオンは、湯船の縁で尻餅をついた状態で、言葉を完全に失っていた。頭の中で、この状況を処理するための時間が必要だった。必要だったが、与えられなかった。


少女の白い手のひらから、ぼう、と赤い光が立ちのぼる。湯が、沸騰した。


「『プロミネンス・ノヴァ』」


囁くような詠唱だった。


だが、それが合図だった。


湯船の上の空間が、一瞬で真紅に染まった。レオンの目の前で、光の奔流が膨張し、暴発した。


爆風。熱。衝撃。


体が軽くなる感覚。天井が見える。いや、もう天井はない。吹き飛んだ。壁も。廊下も。一階の床も。


気づいた時、レオンは空中を舞っていた。


石畳が見える。空が見える。中庭の折れた塔の向こうに、スターフォール・アビスの青白い光が見える。


「——ああ、綺麗だなあ」


呑気にそんなことを思いながら、レオンは古城の外壁を三枚ぶち抜いて、中庭のアザミの群生地に背中から落下した。


どすん、と。


アザミの茂みが、きれいに人型にへこんだ。


---


「——ちょっと! そこに誰か倒れてるよ!」


「大変、死んじゃってる! 絶対死んじゃってるよお兄ちゃん!」


「わあ、胴体に風穴空いてる。標本にしたい」


声が、遠くで聞こえる。


レオンはゆっくり目を開けた。ちかちかと星が瞬いて、視界が戻ってくる。見覚えのある青空と、見覚えのないアザミの花。


体を動かしてみる。問題なく動く。胸に手を当ててみると、服は見事に焦げて穴が空いているが、肌は——つやつやだった。


「あの、大丈夫ですかあ!?」


おずおずと近づいてきたのは、栗色の三つ編みの小柄な少女だった。十五歳くらい。大きな瞳を潤ませて、レオンを覗き込んでくる。


その後ろから、もう一人。ゴーグルをおでこに乗せた、灰色の髪の少女が、興味津々の顔で近づいてくる。


「どうだろう、標本にしていいだろうか」


「だ、だめだよルル姉ちゃん! まだ生きてるかもしれないよ!」


「そこが面白いんじゃないか」


レオンは、ゆっくり上体を起こした。


アザミの花弁が、ぱらぱらと肩から落ちる。二人の少女が、同時に息をのむのが見えた。


「……あの」


レオンは、できるだけ笑顔を作った。


「今日からこのギルドの管理人になる、レオンと申します。よろしくお願いします」


三つ編みの少女が、口をぱくぱくさせた。ゴーグルの少女は、一拍置いて、にやりと笑った。


そして——二階のぶち抜かれた壁の向こうから、湯気と怒気をまとった声が降ってきた。


「——お前! 誰が覗いていいと言った!」


見上げれば、銀髪の少女が、バスタオルを体に巻き付けて、こちらを見下ろしている。頬は真っ赤。いや、耳の先までが真っ赤だった。


「覗いたんじゃなくて、落ちたんです!」


「言い訳するな! もう一発——」


少女の手のひらに赤い光が灯りかけて、次の瞬間、消えた。


「……あれ」


彼女は自分の手を見て、唇を噛んだ。


「魔力切れ、だ」


ぽつりと、ゴーグルの少女が言った。


「アイリスお姉ちゃん、朝っぱらから大魔法ぶっ放すから……」


三つ編みの少女が、気の毒そうに呟く。


アイリス——というらしい——は、ぎゅっと唇を噛んだまま、ぱさりとバスタオルの結び目を直した。それから、レオンを睨みつけた。


「あとで、覚えとけ、変態管理人」


「違うんです」


レオンは真面目に返したが、銀髪の少女はもう聞いていなかった。


---


「——では、そういうわけで」


中庭の、ひっくり返った樽の上。


背中に巨大な背嚢を担ぎ、旅支度を万全に整えた中年女性が、にかっと笑った。レオンの叔母、セレナ・ヴィッセル。四十代とは思えないほど陽気で、そして容赦がなかった。


「ギルドはあんたにあげる。借金も譲る。女の子たちも全員あげる。じゃ、元気でね!」


「ちょ、ちょっと待って叔母さん! 話が全然——」


「書類はテーブルの上! 必要なら読んで! あたしは湯治旅行に行くから! 骨は拾ってくれたら嬉しいけど、たぶん拾うの難しいと思うから気にしないで!」


「拾うの難しい!?」


「死なない子にここ任せたかったのよ、昔から! じゃあねレオン、幸運を!」


叔母は、馬のように中庭を駆け抜けていった。あまりの速さに、髪が一筋ちぎれて飛んでいくのが見えた。


「——光の速さで逃げた」


ゴーグルの少女が、感心したように呟いた。


「あれはもう、戻ってこないやつだよお兄ちゃん……」


三つ編みの少女が、レオンの袖をそっと引いた。


レオンは、しばらく叔母の走り去った方向を見つめていた。そして、胸のあたりで、何かがぷつりと切れる音を聞いた。いや、聞いた気がした。


「——そうか。じゃあ、管理人頑張ろう」


ちょっと笑う。


三つ編みの少女——シエラ、と名乗った——が、目をぱちくりさせる。ルルと名乗ったゴーグルの少女は、面白い生き物を見つけたような顔になった。


「いいんですか、お兄ちゃん」


「うん。僕、家事は得意だから。今日からよろしくね、シエラちゃん、ルルちゃん」


「——面白い。観察させてもらう」


「う、うん、よろしくお願いします、お兄ちゃん!」


玄関の方で、銀髪の少女がこちらを睨んだまま仁王立ちしているのが見えた。腕を組み、なぜか制服に着替えている。頬はまだ赤い。


その時だった。


「——おう、いるんだろ、ステラ・レギア!」


門の方から、濁声が轟いた。


「借金取りの登場だ! 今月分、耳を揃えて払ってもらおうか!」


---


門を蹴り破って現れたのは、六人の男たちだった。


先頭の男は、身の丈ほどもある大剣を肩に担いでいる。顔には古傷。冒険者崩れのごろつき、という風情。後ろの五人も、棍棒だの斧だの、物騒な得物を揃えていた。


「三十万ルナだ。払えねぇなら、ここにあるモンで代わりを取らせてもらうぜ」


男の目が、シエラとルルに向いた。下品な笑いが混じる。


レオンは、すっと前に出た。


「シエラちゃん、ルルちゃん。下がってて」


「お、お兄ちゃん!?」


「——観察に面白みが増した」


「ルル姉ちゃん、そういう場合じゃないよぉ!」


玄関から、アイリスが駆け出してくるのが見えた。だが、彼女は途中でふらりとよろめいて、柱に手をついた。先ほどの『プロミネンス・ノヴァ』で、魔力はほとんど尽きている。


「お前、どけ!」


アイリスが叫んだ。


「そいつらは私が——」


「魔力切れでしょ、アイリスさん」


レオンは振り返らずに答えた。


「少しだけ、時間を稼ぎます。回復したら、撃ってください」


「——は?」


「管理人の仕事ですから」


大剣が振り下ろされた。


避ける必要はなかった。避けられる速度でもなかった。


刃が、レオンの肩から入って、胸の半ばまで抉った。


血が、ぱっと散った。


「レオンっ!」


アイリスの悲鳴が、妙に遠く聞こえた。


男が、大剣を引き抜く。レオンはぐらりと膝をつく。膝をついたが、倒れなかった。歯を食いしばって、前を向いた。


肩の傷が、じゅ、と音を立てた。


焦げた肉の匂いと共に、傷口が塞がっていく。肌が盛り上がり、裂けた皮膚が寄り合わさり、十秒も経たないうちに、何事もなかったように元に戻った。


シャツの穴は、ふさがらないままだったが。


「……な、なんだとぉ!?」


大剣の男が、一歩下がった。


レオンは、血に濡れた手のひらを服の裾で拭いた。


「あの、すみません」


真面目な顔で、言う。


「掃除がとても大変なので、これ以上、僕の血で汚さないでほしいんです」


「な、舐めやがって——」


男の顔が、怒りで真っ赤になった。仲間たちが一斉に得物を構える。


レオンは両腕を広げた。盾はない。剣もない。ただ、背中にシエラとルルを、そして玄関の柱にアイリスを、まとめて庇う位置取りだけは、取った。


「——管理人の仕事なので」


もう一度、呟いた。


斧が飛んできた。脇腹に食い込んだ。レオンは歯を食いしばった。倒れなかった。


棍棒が側頭部に叩きつけられた。視界が揺れた。膝が折れかけた。折れかけたが、踏みとどまった。


魔法の火球が胸に直撃した。服が燃えた。皮膚が焼けた。焼けて——再生した。


「立つな、お前——!」


誰かが叫んだ。男だったのか、アイリスだったのか、分からなかった。


レオンはただ、顔をあげた。笑顔を作ろうとして、うまくできなかったが、それでも口の端をちょっと引き上げた。


「もう一回、立てる」


---


——十秒。


それは、最初の大剣の一撃から数えて、たった十秒ほどの出来事だった。


ただ、立っている。


攻撃を受け、倒され、また立つ。ただそれだけの行為を、レオンは三度繰り返した。


三度目に立ち上がった時、背中から——静かな声がした。


「……下がって」


柱に手をついたまま、アイリスが目を開けていた。瞳の奥に、赤い光が、ちろちろと灯り始めていた。


「僅かだけど、回復した。お前の仕事は、ここまでだ」


「はい」


レオンは、素直に一歩横に退いた。


その一歩の隙間を通って——


紅の閃光が、走った。


『プロミネンス・ノヴァ』。さっき地下風呂で見たものより、ずっと小さい。出力は、たぶん一割にも満たない。


けれど、六人のごろつきたちを、まとめて吹き飛ばすには、充分だった。


---


夕暮れ。


門の修理は、とりあえず明日に回すことにした。


中庭のアザミの茂みに腰を下ろし、レオンは空を見上げた。スターフォール・アビスの青白い光が、徐々にくっきりと浮かび上がってくる。夜になれば、あの光は星のように綺麗に見えるのだろう。


ふと、隣に人の気配がした。


アイリスだった。腕を組んで、少し離れた位置に立っている。こちらを見ていない。正面だけを見ている。


「……別に」


彼女は、前を向いたまま言った。


「管理人として、認めたわけじゃないから」


「はい」


「ただの、便利な肉壁だと思っただけ」


「ありがとうございます」


「なんで礼を言うんだ、お前は」


「肉壁、立派な仕事だなって」


「——」


アイリスの耳の先が、赤くなった。夕陽のせいかもしれないし、違うかもしれない。


「……あのさ」


彼女は、小さく言った。


「服、焦げてる」


「ああ、そうですね」


「……予備、ちゃんとあるのか」


「一応」


「なら、いい」


それだけ言って、アイリスは踵を返して、古城の中に歩いていった。途中で一度だけ、ちらりと振り返った気がしたが、確信はなかった。


レオンは一人、アザミの上に残った。


スターフォール・アビスを見上げる。百階層。最深部。『再会の祭壇』。


夢の中の、顔のぼやけた少女。絡んだ小指の感触。


「——まだ、覚えてるよ」


そっと呟いた。右手の小指を、左手の小指で、くるりと結ぶ。


届くかどうかは、分からない。


けれど。


---


翌朝。


「——お、お兄ちゃん、シエラが作ったスープ、味見してくださいー!」


「む、わたしはクッキーを改良した。爆発はたぶん半分に減った」


「爆発するクッキーを出すな、ルル!」


一階の食堂から、三人分の声が重なって響いてきた。


レオンは二階の廊下を歩きながら、つい、小さく笑ってしまった。エプロンの紐を結び直し、階段に足をかける。


「楽しくなりそうだな」


呟いて、朝の光の中へ降りていった。


ギルド『ステラ・レギア』の一日が、今、始まる。


——五浪中のFランク冒険者、レオンの、不死身の管理人生活。


その最初の一頁が、そっと、めくられた。


---


第一話 了

1話にしては文字量が多すぎた気がする……

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